俄丁稚酒屋見聞録

黒川[師団付撮影班]憲昭

 まいど。儲かりまっか?
 わたしは先月、近所の酒屋で仕事の口が見つかり、おかげで滞っていた税金もようやく払えるめどがたったところであります。
 もっとも酒屋はおろか、レジに立つこと自体始めてで、働き始めて二月たったいまもなかなかしんどいのですが。まあ追々慣れてくるでしょう。
 今回はタイトルにあるとおり大年増が、前垂れならぬエプロンをつけて、四方八方駆け回るなかで、“見聞”したことをお伝えします。
 奉公のまねごとを始めた酒屋は、いわゆるディスカウント酒店であります。酒・米のみを扱うスーパーのようなものを想像していただければ間違いはないかと思います。
 GWから暑い日が続いてくれたおかげで、うちもビール類は前年同月比を突破したとのこと。
 中でも発泡酒“レッド”がよくはけています。
(おわかりのとおり、若干差し障りもなきにしもあらず、ということで社名・商品名などの固有名詞は以下も同様に仮名とします)
 “超乾”は入れれば入れただけなくなるので手間がかかりません。
 旭日社は商品がこの二つだけで(一丁上がり、芸者、とかいうのも店頭に少しありますが。わたしは買ってゆく客をみたことがない)これだけ売れてるのだから、儲かってしょうがないだろうと素直に感心してしまうくらいよく売れおります。
 あと旭日社でいうと黒ビールもいつの間にか売れております。
 ほかビールではゼブラ社の“旧国民機”と“スクイーズ”がよく「回って」いて、どちらも在庫から先月生産が消え、今月中旬生産分が入荷してきました。一番早い旭日社が5月下だから比べても遜色なしです。
 ただゼブラは発泡酒が“水冷”、“水冷緑”それに“極道”のどれももう一つ伸びないので注意して店内での位置を決めていかないとすぐだぶついて、店頭で嵩上げに使うはめになります。
 個人的にはゼブラは“水冷緑”みたいななまじっか三都李の“減量”を意識したものをつくるのはどうかとおもいます。“減量”は二度目に買う奴をあまりみないような味です。比べて“極道”は美味いと思うのですがあまり宣伝しませんね。
 発泡酒“炭生”が低調なのは三都李社だからしょうがない。あそこの営業もウィスキーを売りに来るのが目的なので、こういうことをいっても露骨には嫌な顔をしないので。
 “炭生”はマージンを取るためにワンパレット分は置いてあるけど、これがたいがいなくなったら、速行、商品配置を元にもどす予定。後釜になにを置くか思案中です。
 三都李のビール“藻留津”は固定客が多くて(しかもビンビールといって指定する客がけっこういる)、これだけ見ていると、なんであんなに色もの的な発泡酒のラインになるのか不思議々々々。
 結局、発泡酒はビールじゃなくて、ウィスキー・酎ハイとかと同じ感覚で造っているというのが真相なのでよす。そう考えると“藻留津”の方が異色なのか。
 一方、三都李が低調なのは洒落になりますが、これがノース・スター社だと笑えない。
 というか今月の数字がまだ上がってきてないからわからないけど、店的にいうとノース・スター社は去年の阪神並に現況良くないです。
 個人的にも個別商品ではなく、ノース・スター社というブランそのものが、よくないと感じるのがいうのが偽らざるところです。
 関西ではもともと弱い会社(ということをこのまえ大和ビール時代の歴史からこんこんと小一時間教えられました)なのですが、それにしてもビール専業の会社としてはまずいんではないかと、他人ごとながら案ぜられます。
 発泡酒“ジラフ(例の偽物ゼブラ)”でけちがついてからこのかた、“札晃なまスクイーズ(これも紛らわしい名前だ)”もパッとしない。もっともGW前から付けだした販促用のレジャーシートは人気があって、“炭生”買うからくれないかという客に二人会いました。
 ノース・スター“ブラック”は相変わらずの低め安定。食通が好む“大黒”がうちの店では、料理店などの固定客が多いので、常時注文が出ているのですが、やはり落ちない変わりに上がりもせず。
 他にビール類については、去年自宅用ビールサーバーが流行ったが、今年はどんな具合か様子を見ております。果たしてこの夏ビア・サーバーを使う人がどれくらいいるのでしょう?
 日本酒はビールに比べるとこの時季動きはあまりありません。
 関取、白鷺、豪雪、他聞、姥桜、大手からそろいも揃って冷酒と銘打った2Lパックが出たのでまとめて店頭に出しました。
 夏場は日本酒が弱く、そのてこ入れ策の一環でしょうがあまり芸がありませんね。それに中身も日本酒でしかないのであまり捌けません。
 もっとも新銘柄がたくさんでたので、売場的にはにぎやかな感じがします。
 ただこの新冷酒、銘柄が多くて少量の発注でも、まとまると大きな量になってしまうので、考えたよりも在庫になって残ってしまっているのでどうしたものか……。
 焼酎・ウィスキー類ではいわゆる“酎ハイ”の340cc/¥115−近辺が活発に動いています。
 特にゼブラから出たアイスフルーツはオレンジ・レモン・グレープフルーツの三種類とも回転が早く、今月は品切れも出ました。
 中でも先月投入されたオレンジの評判がいい。確かに、この価格帯にしてはアルコール臭くないので、これなら売れるのも納得できます。
 ところでこの価格帯の商品が良くなってきているため、これまで主流だった250cc/¥170−クラスが、入荷を絞っていても残りがちになってきているのはまあしょうがないところでしょう。
 この商品は銘柄ではなく、価格で選別されるというところが発泡酒と良く似ています。
 この酎ハイ関連商品で、現在在庫の処理がなかなか進まず頭を抱えているのが、三都李の“なんとかカクテル”シリーズです。
 もともと、200cc/¥198−という値段設定が高すぎます。
 アルコールの度数が7パーセントというのは、340/¥110−帯とまったく同じで、その分量が少ないだけかなり割高。
 ソルティードッグとグレープフルーツ酎ハイの違いというのは、生産者が考えるほど、お客は重視していないといわざるをえません。
 考えてみればカクテルというものは、禁酒法時代ひどいアルコールの味をごまかすために生まれたものであり、使用しているアルコールの種類をウンヌンするのは本末転倒です。
 試しに一本買っても次が続かないので、購入層が一巡してしまうと、パッタリと売れ行きが止まってしまうのは道理であります。
 と、売れない商品の配置換えと、バックヤードへの収納に追われながらつらつらとそんなことを考えております。
 混ぜものをしないごく普通の焼酎は全体によく売れています。
 1.7リットル、4リットル、そして5リットルといった他では見ないようなペットボトルに入って売られている麦焼酎が、銘柄を問わず順調に捌けていきます。
 そんな焼酎を毎週購入していくお客がいるのですが。毎回お会計を済ませるたびに、アルコールは20歳を過ぎてから、というおなじみの標語を思いだしてしまうのはわれながら失礼ですね。
 アルコール度数25、720cc/¥980−の本格焼酎は、ブームの頃ほどではありませんが“間の子”、“吉五六”などの定番銘柄を中心に、まとめ買いしていく人がかなりいます。
 ほとんどが飲み屋を営む、いわゆるプロだと想像するのですが、いわゆる昼間の彼、彼女らがどんな店を開いているのか興味をそそられます。
 ちなみにボトルキープの値段は大体店で買った値段の倍。
 “間の子”なら¥2000−くらいが相場だと思っていただければ、店を選ぶ時の目安になるのではないでしょうか。(蛇足ながら。それよりも高すぎる店はもちろんですが、安すぎる店も酒屋からみると危ない。そのビンと中身が同じかどうか保証の限りではありません)
 ウィスキーは皆さんが思われるほどに売れるものではないので銘柄の多さの割に、売場はごく狭いものです。
 アルコール度数が40を超える酒は、日本人向きではないのでしょう。わたしの個人的な感覚からいえば、5〜20パーセント弱のアルコール度数が日本人に一番好まれているような気がします。
 お菓子や、あたりめ、おかきなどの乾きモノの類はいわゆる棚貸し=委託なのです。
 かなり高い貸し賃(驚くような金額!)の割には商品が減らないところをみると、なかなかに儲かっているようです。
 ごく短い期間ですが、見聞したことの“さわり”だけご報告しただけで、もうそろそろ紙数が尽きてしまいました。
 このほかに米はまだ担当したことがないのですが、この商品も見ていてなかなかに興味深いものであります。また、タバコについても税務署がらみで面白い話があったのですが。まだ決算が終わっていないので、お話することは残念ながらできません。
 俄丁稚稼業はしばらく続くと思うので、またこの手の話はぼちぼちいこかとおもいますので、皆さんよろしゅうたのみます。



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