キャンプ日記

黒川[師団付撮影班]憲昭

【前説】
 月皓々と冴える加賀百万国の地に凄い奴らが集結した。飯ごう炊飯をやるのはほぼ十五年ぶりという人間が、初めて参加した人外協のキャンプで目にした驚愕の事実とは? 野良ダンプ、お笑い女子中学生、幼児の手を引いてゆく男、そして焚き火の側で○歌をがなるのは誰か? 全ての謎がいま明かされる。読者諸賢刮目して待て。

【本編】
(文中敬称略)
 先月の二三、二四の両日、石川県県民の森にて行われた九九年人外協キャンプに参加した。
 当日は賤ヶ岳SAに十二時集合ということで、大阪から天羽父子の車にカーリーと共に同乗させてもらい、一路湖北の地を目指した。途中車内では天羽父とカーリーのまさに真剣勝負というべき馬鹿話と、その合間に絶妙のタイミングで繰り出される天羽子による質問にただただ感心しながら聞き惚れていた。
 鑑真ブランドのトンネルをいくつもくぐり抜け、目的のSAについのは十一時。例年のごとく京都あたりで封鎖線が張られていることを見越して早めに出発したのだが、どうやら誰かが事前に手を回していたのか、簡単に突破でき予定より早くつく。各車とも十二時前にはほとんど到着した。
 昼食後、加賀インターにむけて出発。途中、偽のNina車に惑わされながらも順調に北陸の地へ。加賀インターからは山中温泉に針路をとり、あちこちに点在する温泉旅館と娘々饅頭の看板をみながら車列は進む。気がつくと、SAではいなかったはずのMSG一家&平井車が列の最後尾を走っていた。
 山中温泉にあるスーパーで買いだしをする。店内でビールの消費量についての議論が沸騰している外でまちゅあが学生に吸い取られた体力を回復するためドリンク剤をあおっている。後にMSG隊長がこのスーパーは脱皮して移動していると主張するがまだ検証できていない。
 建設中のダム工事現場を横目に見ながら山間を走り、石川県県民の森駐車場に到着したのは午後三時過ぎ。辺りは山の冷気に覆われ薄ら寒く全員日の当たるベンチに移動。赤トンボがたくさん舞っている。側を流れる谷川の水は清冽で冷たい。
 しばらくして他に客はほとんどおらず貸し切り状態のキャンプ場へ移動、キャンプの準備を開始する。
 カーリーのテント設営を手伝うが、十数年前キャンバス地のものを張ったときと比べ格段に簡単になっていることに時代の進歩を感ずる。ちなみに翌日の明け方、カーリーはこのテントの中で急激な温度低下に襲われるが、とっさの判断力とある装備のおかげで生きて朝日を見ることが出来た。ページが少ないのでこの詳細については割愛する。
 ちなみにこの時期のキャンプはやはり寒い。しかし寒いなりのメリットはいくつもある。特に大きいのは、夏場の野外活動を不快にする元凶となる蚊・アブ・ハエなどの虫たちがいないことだ。それに寒さを防ぐのは暑さをしのぐよりもずっと楽だ。なにせ大人のキャンプではアルコール燃料がおおっぴらに使えるのだから。
 この後、今夜泊まるロッジに荷物を下ろしたり、キャンプファイヤーに使う薪を取りに行ったりしている内に、谷甲州先生とそのご家族が到着。炊事場でも夕飯のカレーの用意が始まり、竈に煙が上がり始める。山間の日暮れは予想以上に早く、そのころには山の端を残照が茜色に染めるだけで、あたりは急に寒くなってきた。全員が体を温める必要性をひしひしと感じ始めた。
 誰が最初にビールの栓を抜いたかはわからない。ただ、気がつくと手にしていたマグカップには黒ビールがなみなみと注がれていた。こまめに働くNina妻、のぞみ、ツアコン、甲州先生ご家族ら女性陣に一瞬悪いという考えが頭をかすめたが、すぐにどうでもよくなってしまった。我ながら駄目な男だね。
 ビールから早くも日本酒に切り替えながら、従軍魔法使い、こーすけ、甲州先生などと中州に張ったテントやステンレス製のバケツがいかに危険かについて論じ合う。その話の輪の中に室長、Nina旦那、カーリー他が入りバケツの話でさらに盛り上がる。ちなみにこの時カーリーが予言した柄杓の存在は数日後の新聞で写真入りにて証明された。
 ハイピッチで日本酒をやったせいで、このころから体調が悪くなり、いったん話の輪からはずれ、ガメラ、大井が守る火の側で暖まる。このころ夕食のカレーの用意がようやくできた。
 夕食のカレーは旨かった。旨かったので三杯喰った。そのため体調がさらに悪化。キャンプ場のある所から十五分ほどの所にあるロッジに行き少し休憩。このロッジは二階建てなのだが、上へは段差の大きく滑りやすい梯子をよじ登らなければならず、危うく転落しかけた。
 一時間弱寝袋の中で眠り体調回復。ロッジを出ると辺りは闇だった。懐中電灯を逆手で持ち肩の所から前を照らす、いわゆるモルダー捜査官スタイルで暗い木立の間を歩くと、久しぶりに本能に根ざした闇に対する恐怖がひたひたと背中をよじ登ってくる。普段は意識に上ることすらない街灯の存在が無性に懐かしく感じられた。
 しばらくすると橋の向こうの木立が明るく光っている。
 そこからかすかに笑い声も聞こえてきた。
 キャンプ場に戻るとキャンプファイヤーが始まっていた。
 パイプ椅子を炎の側に寄せて座る。
 そして井桁に組んだ木材を舐め天に燃え上がる火を眺めた。
 燃え上がる炎というのは実に良い。
 青から朱色へとグラディエーションを描きながら、片時も休むことなくその姿を変え。
 光は熱となり周囲の闇と冷気を駆逐する。
 薪のはぜる音は夜の静寂に打ちのめされた心に優しく響き。
 煙の香りは遺伝子に刻まれた古代の記憶を呼び覚まし懐かしい気持ちにさせる。
 舞い上がる赤い火の粉が夜空に溶けてゆくのをみていると、なぜだろう、とても心が安らいだ。
 折しも林の間からは銀色の光を放つ満月が輝き、天に還ってゆく煙を幽玄に照らしだす。
 炎の前では言葉が必要ないことを知った。
 この後定番の肝試しをしにゆき、その途中に天羽父がいなくなり急遽捜索隊を編成したり、キャンプファイヤーで半分炭化した焼き芋を食べ、性懲りもなくウィスキーを飲んだりする内に夜は更けて行く。
 午後八時過ぎに東京から竜野、その後大阪から編集長が相次いで到着。両方ともかなり山道を迷ったようで、特にカーナビに騙された竜野は何かの陰謀に巻き込まれたとしか考えられないので、すぐに清酒で厄払いをする。
 そのころには、キャンプファイヤーはあまりに勢いよく燃えすぎてほとんど埋火状態になっていたが、MSG隊長の尽力により焚き付けを調達する事ができ我々は危うく凍死から免れた。
 深夜、ロッジに帰って熟睡。
 明け方はロッジで寝ていたにも関わらず寒さで目が覚める。ガメラによればこの寒さは例年ではないことだとか。朝食に温かいコーヒーとホットドックを食べひとごごちつく。
 朝食後はキャンプ場に差し込んできた遅い日差しの下でひなたぼっこ。MSG隊長と娘さんの姿を写真に収める。この時まちゅあの姿がないことに気づき、寝過ごしたかと心配した数名が様子を見に行くが無事ロッジで熟睡していた。
 その後は昼までのんびりと過ごす。昼食のバーベキューを始めるころには木村らも到着。にぎやかなひとときとなった。
 午後三時半、皆で写真を撮って散会。
 一部有志は山中温泉菊の湯で汗を流して帰宅した。

【予告】
 こうしてキャンプは終わったが結局謎は謎として残った。勇気ある読者諸君。こうなれば謎を解くためには来年のキャンプに参加するしかない。そして自らの手で疑問を解くのだ。あなたの参加を心より歓迎します。



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