索敵における短波の有効性

林[艦政本部開発部長]譲治

 戦闘用宇宙船が作戦に従事する場合にまず考えなければならない問題は相手の所在を確認することであろう。これは当り前の話なのだが実際はなかなか難しい要素が多い。宇宙での索敵を困難にしている要素を三つあげるとしたら「宇宙は広い」「宇宙船は速い」「宇宙は空気が薄い(薄いなんてレベルではないが)」であろう。特に「宇宙は広い」という要素は索敵に関して色々と面倒な問題をだしてくれる。
 索敵を行うにあたって使えるものは何だろうか。ニュートリノとか重力波などの遠い未来の技術を除くと光を含めて電磁波しかない。
 電磁波を使う上で避けられない宿命は波長によって分解能が決ってしまうことである。例えばアンテナの口径をD、波長をλとすると分解能はλ/D(rad)で表すことができる。宇宙は広い、故に精度の高い情報を手に入れる(分解能を向上させる)ためには巨大なアンテナを使うか短い波長を使用する必要がある。
 しかし、宇宙船という動かし難い条件があるために巨大アンテナは実用的とは言えない。すると索敵に関してはどうしても波長の短い電磁波つまりは「光」の使用を考えねばならなくなる。そうなると宇宙においてはレーザーレーダーなどの光学的機器がセンシングの主流になるのはまず間違いの無いところでありましょう。
 それでは従来の電波はどうなるのだろうか。実は短波に関して言えば有効な索的手段として使えるの可能性があるのであります。
 OTHレーダーという物を御存知であろうか?これは波長20〜40メートルの短波を利用したレーダーで水平線のかなたの物体を探知する早期警戒を目的としたものである。短波を利用するのはもちろん長距離をカバーするためだが、これに付随してステルス技術を無効にする特性もあるわけです。
 レーダーの電波には共振と呼ばれる現象があります。これはレーダーの波長に等しい大きさの物体は特別に反射が大きくなる現象です。航空機の大きさはだいたい20〜40メートルの範疇ですからOTHレーダーによってステルス性は無効になってしまうわけですね。
 航空宇宙軍史などに登場するアクエリアスなどのフリゲート艦はほぼ100メートル前後と推定されますが、であれば波長100メートルのレーダーを使えば共振現象によってその存在を知ることが可能になるでしょう。もちろん短波レーダーでは波長の長さから考えても精度は期待できません。ですが、ある領域にフリゲート艦の存在することが分かればあとの索敵はより精度の高いセンシング手段を使えば目的ははたせるはず。
 例えば図−1のようなプローブを考える事もできる。これは使い捨ての索敵プローブで鉛筆ほどの大きさの中にレーダー、ジャイロ、(母船との)通信装置などが内蔵されそのまわりに極細い電線で作られた直径数百メートルのアンテナが巻かれているものです。プローブは棒状で射出されたのちの回転しながらアンテナを展開そのまま遠心力でアンテナに張力を与えます。

プローブ



 索敵ユニットの一例

 アンテナの直径は数百メートル。中心部にレーダー、ジャイロ、通信装置などを内蔵したユニットが有る。

図1

運用

図2

 実際の運用にあたっては図−2のように巡洋艦か何かから多量にばら撒き、特定領域についてレーダーの死角を無いようにすることになるでしょう。こうすれば精度が悪い短波レーダーでも複数のプローブのデーターを比較することで宇宙船が存在する領域をかなり正確に特定する事も可能なはずです。イメージとしては対潜作戦(ASW)でP−3Cからソノブイを投下するようなものをお考え下さい。
 もしもこうした方法で特定領域(これはプローブの慣性運動に従って移動している)に死角を無くせるならば、逆に積極的な索敵を行う事で仮想敵の侵入をそこで阻止することも可能でしょう。特に複数の艦艇でこれを行なわれたら侵入は不可能と言えるかもしれません(対抗策は無い事はありませんが)。



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