本物の色物物理学者列伝

前野[いろもの物理学者]昌弘

−事例研究:コンノケンイチ編−

『ホーキング宇宙論の大ウソ』コンノケンイチ著・徳間書店

を紹介します。ついでに、同じ著者による

『UFOはこうして飛んでいる!』コンノケンイチ著・徳間ブックス

もいきます。しかし、実はこの2冊の本、かなりの部分が重なっています。原稿の二重売りと言うべきか、徳間が二重買いして二重売りしているというべきか…。

 「ホーキング、宇宙を語る」以来、世は宇宙論ブームですが、その御本尊であるホーキング宇宙論を“ウソ”だと言うのですから、つい手にとってしまうんですが、内容を読むと“???”だらけでおます。
 作者は「ホーキング宇宙論は何ひとつ真理を語っていない」、「宇宙論の頂点『ビックバン』それは宇宙論の大ウソだった!」などという主張を各章で展開するのですが、はっきり言ってその論拠は「をひをひ」物です。
 たとえばブラックホールは存在しない、と言って「光さえ脱出できない天体なら、その物体からは「重力」も脱出できない筈である」と言う理由をあげ、だからブラックホールを基礎にしているホーキング宇宙論は間違いだと言うのです(おおぃ)。

 『数式で宇宙の姿がわかると思うのは科学バカ』と評し、例として「ドレイクの式」を持ち出したりしてます。
 ドレイクの式というのはSFファンならご存知の方も多いと思う、銀河系に知的生命体がいくつ存在するのか計算する式で、掛ける数それぞれを楽観的に考えるか悲観的に考えるかで答えが変わるのは周知の事実である(金沢のFCSの時に、甲州先生が話した式ですね)。
 筆者は、この答えがTV番組「プレステージ」では10個、NHKの「銀河宇宙オデッセイ」では10000個だったと言って、『このように方程式といえば見てくれはいいが、まるであてにならないシロモノだということである。』と結論づける。方程式と言っても、このドレイクの式なんて、ドレイク自身だって当てにならないと思っているに違いないと思うが。

 この著者がしつこく疑念を提出しているのが、「真空(宇宙)がどうやって爆発したり膨張できるのか?」という疑問。さらに、後ろの方には、「爆発(打ち上げ花火)や膨張(風船を膨らます)という物象には必ず中心点が存在する。中心を外れた位置からは、どんなに時間のズレを加味しても宇宙全体の銀河分布が同じように観測されるわけはないのである」という疑問がある。その後には宇宙論の本によくある、風船の上に銀河を書いて、その風船を膨らましている絵が書いてあります。その絵を見れば、「なるほど、この風船の表面ならどこでも、自分が膨張の中心にいるように感じるなぁ」と思う人がほとんどだと思うんだが、この著者はそうではない。
 「われわれは風船表面に描かれる斑点のような二次元的存在ではなく、風船の内部(宇宙内部の空間)に存在する立体(三次元)存在態である」との一言で、この絵の説明を捨てさってしまうのである。その癖、後の方で自分の理論を説明する時には三次元を二次元にと、一つ次元を落とした絵で説明していたりします。おっさん、身勝手もいいかげんにしいや。

 この著者が間違いだとするのはビックバン理論にとどまらず、相対論も間違いであり、超光速はありえるし、エーテルはある、と主張しています。
 その後に語られるこの著者自身による宇宙論というのもなかなかぶっとんでいます。
 一言で言えば、重力は質量が引っ張るのではなく、質量に押し退けられた“空間”が弾力で戻ろうとするので、その弾力で上から“押される”のだ、という物です。
 以下、私が腹をかかえて笑ってしまった部分を『UFOはこうして飛んでいる』の方から引用します。

 『……しかし、いまあなたは「重力は上から来るのか」、それとも「地球に下から引っ張られているのか」、身体で知覚しようと思っても風力や水圧のようには識別できまい(いろもの註:当然である)
 だが、そのままジッと感覚していただきたい(いろもの註:どーしろというのだ)
 あなたの身体を宇宙のエーテル流(空間の歪圧)が上から下へと透過するのがカスカに感じられるはずである(いろもの註:気のせいであろう)
 これは十万分の一のあなたの実体が、微妙にエーテル流への抵抗を感知しているためで、これが「体重」や「時間」となって、あなたに知覚されてくるものである(いろもの?:「体重」はいいとして、何故ここに「時間」が?)。
 干満潮も月の引力によって起こるとされているが、地球の六分の一の月の重力が、ダイレクトに地球に力を及ぼせるわけがない(いろもの註:及ぼせないわけがない)
 月と地球間における空間の歪みが中和(同化)されるため、地球を取り巻く重力場に偏差が生じ、干満潮という現象が生じるのだ。……』

 ただただ、悲しくなるばかりですなぁ。

 同じ著者が1年前に出した本が『UFOはこうして飛んでいる』です。この本の表紙と口絵には騒々しく、B−2ステルス爆撃機が登場します。この著者はステルス機はUFO同様反重力で飛んでいるというのです。そう結論する理由は

等などです。なんでも、ステルスにはUFOバージョンが存在し、ホバリング、急角度旋廻、低速飛行ができるそうな。
 ところで、この論理展開、あの矢追純一がそのままパクッてます。ぁぁ、世紀末。

 『UFOはこうして飛んでいる!』の第二章にはUFOのエネルギーは重力制御であると書かれています。第三章と第四章は『ホーキング宇宙論の大ウソ』に書いてあるのと同じ著者独自の重力理論が(ほとんどの部分が『ホーキング宇宙論の大ウソ』と同じ文章で)語られています。フォワードさんの『SFはどこまで実現するか』に出てくる反重力装置まで出てくるのはご愛敬です。そして、第四章の後半から、真打ち登場!です。
 へっへっへっへ。旦那、ついに出ましたぜ。ユダヤでっせ。ユ・ダ・ヤ。
 ユダヤ人の会議録、「シオン議定書」にはダーウィンの進化論、マルクスの唯物史観、ニーチェ哲学はユダヤが「科学の真理として吹き込んだ」と書いてあるのだそうです。そして、ダーウィン進化論は偽科学で、それは「宇宙空間(無重力)では皆頭がよくなって、あまつさえ超能力めいたものさえ発揮できるという事実」からわかると言うのである(宇宙へ出た事のない人類の脳がそんな能力を持っているのは、進化論では説明できんとか)。で、欧米の科学者の間では進化論が否定されているとして科学者だのジャーナリストだのの進化論否定の文章が引用されている(F・ホイル先生もいる)。まったく、ユダヤ人もいい迷惑であろう。「光速度不変の原理」も「ビックバン理論」も彼等の陰謀にされている。
 ”盗人猛々しい”言葉を紹介しましょう。ビックバン、光速度不変、進化論についてこの人はこんな事を言っているのです。

『ただ困るのは、これら仮説としかいいようのない理論の多くが、日本では多くの本や雑誌、テレビなどで、あたかも確証された事実のようにあつかわれていることである。しかも、これら仮説を学校教育の場では疑問の対象としてでなく、あたかも実証された事実のごとくに教唆されていることが問題である』

 問題なのは、いったい誰だ?
 この章の最後の方には、「こう見ると『陰の勢力』は以前から今日のUFO問題を予知していた可能性が高い」等とあります。まるで『陰の勢力』は全知全能で、戦う事はとても不可能なようですな。このおっさん、なんで生きてられんの?
 第五章はファティマ大予言とツングース隕石の話になるのですが、ここでもおそろしい話が出てきます。
 なんと、黙示録のあの有名な「666の刻印をもつけもの」はもう生まれているのだそうです。その名はアンドロポフ…ブレジネフの次のソ連書記長です。彼は1914年6月15日に生まれています。この年月日をそれぞれ、「それぞれの位の数字を足し、2桁以上になったらそれを繰り返す」という操作を続けると、6と6と6になります(1+9+1+4=15,1+5=6等)。この操舵はカバラでの命数と言って、オカルト話には時々現れます…。で、この著者によれば、アンドロポフが出会う事件の日付は命数が6もしくは9になっている日が非常に多いのだそうです。
 こんな事で「けもの」にされてしまったアンドロポフはえらい迷惑ですが、ここからこの著者一流の我田引水が始まります。以下、その部分を抜粋引用します。

 『……アンドロポフの悪魔的功績の一つに、ソ連では十六歳になると労働手帳で国民総番号制に入るという、KGB指揮下の管理社会にしたことである。この手帳がなければ、実際には物を買うことも売ることもできないようにした。
 「ほかの獣(アンドロポフ)が地から上がり、先の獣(スターリン)のもつ権力をその前で働かせた。すべての人々に獣の刻印(KGBの労働手帳)を押し、物を買うことも売ることもできないようにした」と、ヨハネの黙示録がいうように、それが現在のソ連経済の崩壊を招いたのは周知であろう。
    (中略)
 筆者にはゴルバチョフの額に刻まれた、異様な形のアザが気になってならない(いろもの註:ほっといたれよ!)。……』

 ふぅ…で、この人はツングースやファティマの奇跡を宇宙人の警告だと言っているのですが…なんぼ宇宙人でもアンドロポフが何かやる日付けをいちいち命数6にするなんて事に、なんで気を使うのだ!
 最後の方は完全にオカルト化し、「涙を流す聖母像」なんて物まで登場してきます。
 この辺り、いちいち書いていたらキリがないほど笑えます。「ホーキング宇宙論の大ウソ」に比べ、「UFOはこうして飛んでいる」の方は安いので(¥760)、買うならこっちですね(買わないに越した事はないかもしれない)。

 ところで最後に質問。
 皆さんの中に、666の刻印がおされた方はいませんかぁ?

コンノケンイチ(今野健一)

 1936年生まれ。たま、徳間書店のイロモノ本のスターである。
 昭和55年、「現代物理学の死角」を自費出版、その後多大な反響が押し寄せ(本人談)、「月は神々の前哨基地だった」「ホーキング宇宙論の大ウソ」など、タイムリーな著書をバンバン書きまくる。
 彼の著書は世紀末への恐怖に満ちている。例えば、「UFOはこうして飛んでいる」(タイトルを見ればUFOの推進原理についての本と思える)の中ではカタチが変なステルス戦闘機は反重力で飛んでいる等の指摘を行なった後、「解答G」なるアメリカの極秘プロジェクト、現代科学への批判、UFO事例、重力の正体にせまるエーテル理論の復活、ビッグバン理論噴飯呼ばわり、偽科学を横行させる「闇の勢力」、ファチマの奇跡、ヨハネの黙示録ときて涙を流す聖母マリヤのメッセージの紹介、結びは『「終末」にいたるファイナル・カウントは、確実に刻み始めているのだ。』である。
 裏表紙に「真理とは単純にして明快、自然界の仕組みも単純素朴といった。私は誰にでもわかるように、この謎をときあかしてみせよう」と書きつつもコンノケンイチの博識と達観はそれを許さなかった。
 あまりの情報量と終末(近いらしい)への恐怖が襲ってきて「UFOはどうやって飛んでるか」などという下世話な興味は失せ飛んでしまうのだ。
 氏の文章の各所に引用されている科学者や哲学者などの名言も心を打つ。
がんばれコンノ。現代科学に負けるなコンノ。時代はいま黙示録。コンノが書かずして誰が書く。今こそこの世に真実を。引用された人達はいい迷惑だ。



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