町工場での生産現場状況

猪塚[秘書室長]慶彦

<いらないプロフィール>

 とある、町工場だと思ってくださいな。
 随分と広い工場である。従業員が少なくとも30名くらいいそうな所。でも、その工場には従業員は5名しかいない。
 何故か?単純なことである。従業員不足はまだ続いているのだ。で、今やっていることは、従業員5名でもなんとか操業できるような職種であることはまぁ、当然の類推ができよう。
 設備の種類は町工場にしては多い方だと言える。と、いうより、各設備の能力が高いと見た方がいいのだろう。設備自体はまぁ、それほど古くはない。どちらかと言えば『使い込まれている』という感じである。
 工場の中を見ると、設備の稼働率が低いことが伺われる。従業員が5名では当り前であるか。
 しかし、良く見ると「標準作業表」やら、「ワンポイントレッスン」などとワケの分からないものが掲示してある。それも、もう、黄ばみきってしまったヤツが。
 昔、自動車の部品を作っていたが、92年のバブル崩壊で、自動車の生産数が落ち込み、このまま部品を作っていても浮かばれることがないだろうと思った社長が部品工場から転進を図ったのである。

<こっちからが本文>ドゥルガ

「あんた。これ見て頂戴。藤川さんからミルシートが来たんだけど」
「おぅ、ちょっと待ってくれ。あと5つで井上技研からの注文が終る」

「ふぅ。お茶くれ。
 おい。見せてみろ。
 ふぅむ。ちょっとCが多いような気がするが・・・・まぁ、これなら型のバックリングの数値を少し変えてやれば内部応力も最小限に押えられ・・・・
 おい。これで藤川さんに頼んでおいてくれ」
「何枚頼めばいいの?」
「おぉ、そうだな・・・・
 この機種だと、あと7年くらいで生産中止になりそうだな。でも、あそこにもこれを売り付けると・・・・
 おい。じゃあ2コイル頼んでおいてくれ。原寸のままでいいからな。」
「そんなにも頼んじゃっていいの?あそこからの注文は200・・・・」
「いいって言ってんだろ!2コイルだ」

「おい。データのほうはちゃんとむこうからきたか?ちゃんとチェックはしたんだろうな?
 こないだなんか、4回だぞ。あのくそったれが!!データ送り直させたのが」

「またやったのか?今度はなんだ。えぇ?真円がちゃんと出てないだって。
 コレクトコールかけろっ。まだ、この時間ならいるハズだ。なんって名前だったか。おおっ、そうだ。ブロスだ。あいつんところに回線を割り込ませろ。
 何度言やぁわかるんだ。NASAの設計にアクセスしろってんだ。御用聞きの商社を通してたら、話が通るものも通らなくなるっていってんだろ。あいつらは技術的なことを何も分からねぇクセしやがって『契約では』とか『私共の信用と言うものが』とか抜かすだけじゃぁねぇか」
「おっ。アクセスしたか?
 ブロス呼び出せ。聞きてぇことがあるんだ」と、言って専務兼お茶汲み兼奥さんからキーボードを奪う。
“おいっ!!手前ぇら何考えとんだ。ええ加減なデータ送ってくんな”
“言い訳なんかいらんぞ。早よ、データ送り直せよ。
 そうだ。手前ぇんとこ、いまだに図面屋に書かせているんだろ。ワケ分からん線入れさすな。こんな設計なら、自動車の方がもうちぃと上品な絵を書いて来るぜ”
“なんだって?そこまで言うメーカなんてないだって?適当に解釈をするのが当り前だと?
 ほほぉ。ならいいぞ。他のメーカに任せたって。いちいち日本から輸出するのも金かかるだろうから、そこいら辺のメーカにやらせりゃいいだろ。溶接歪をおこして、そこから偏荷重かけて内部応力をバンバンに持たせたまま、宇宙に飛びだたせてもいっこも良心が痛まないってんなら。
 ミクロンオーダーで作っとるんだ。手前ぇらの明日からのことを心配して、な”
「もう一杯お茶くれ」これは専務兼お茶汲み兼奥さんに。
“わかりゃぁいいって。こっちだって、お前ぇを苛めたくて言ってるんじゃぁねぇしな”
“そういや、こないだ貰ったPCの図面だが”
“おっと、わりぃ。インジェクションって言わねぇとわからないんだったっけか?モールディング加工か・・・・まぁいい。そいつだが、ありゃ、ムリ抜きさせるんか?成形できそうにない形してんだが、どうするつもりなんだ?ありゃ?”
“図面書き直してこいっ!!”

「ふぅ。ったくわからねぇ奴らだな」

「あんた。十勝の秋山さんってからから電話だけど」
「なんだ?秋山か?また、無茶なミッションを計画してるのか。
 まぁいい。こっちに回してくれ」
「おお。久しぶりだな。
 あんたくらいなもんだぜ。研究員が部品メーカまで連絡をして来るのは。
 で、今度はなんだい?どの部品の耐久を知りたいのかい?」

<若干の説明(後述のように技術系会社員の人はすっ飛ばしてください)>

1)ミルシート
 鋼材の成分シートである。これだけでバックリングがどうこう言える人は少なくともウチの会社にはいません。機械的性質も一緒に付いて来るので勝負するときは それで行うのが普通だと思います。(Cは炭素であることは言わずもがなですね)
2)バックリング
 プレスなどで曲げたときに若干戻ってしまうのは、紙などを曲げてみても分かると思います。そのことです。これをバックリングといいますが、これを見込む、見 込まないというのは以外と重要です。
3)データの送り直し
 設計のCADデータを基に型を作成するのは今でも行われています。別に普通のことです。しかし、データの送り直ししてもらうというのは良くあります。
 設計が悪いんです。
 真円がデータで出ていないなどと言うのは当り前です。型屋は図面と見比べて適当に修正して作っています。いい加減なモンです。それで物ができるんですから。
4)商社がどーたらこーたら
 商社の方。申し訳ありません。
 こういう問題があるのかどうかまでは、把握してません。
5)図面屋が書かせている
 これは、意外と問題で、図面屋(設計屋ではなくて、別会社などで図面書きを引き受けているところがあったのです。今はどうか分かりませんが)さんに書かせると 設定時の線を入れてくださるので、しがない部品メーカとしては解読に困ったりするのです。でも、大きな問題にはなったことはありません。
6)アメリカとの会話
 翻訳ソフトで会話をしていると思ってください。別にしゃちょーが英会話が堪能と、思われても構わないことですけど・・・・
7)ミクロンオーダ
 プレスなんかでは当り前です。別に脅迫のネタにはなりません。(知らない設計者を脅かすのにはちょっとは有効かもしれませんけど)
8)内部応力
 イントレビットにそこまでのシビアな性能は期待してないでしょう。ハスミ大佐なら。ですから、これも脅迫のネタにはなりません。と、言っても無くすことが出来ればこれほど嬉しいことはありません。でも、無くなりません。普通のやり方をやっていれば。(普通でないやり方は僕はしりません。)
9)PC,インジェクション,モールディング加工
 正しい言い方はモールディング加工(樹脂成形)らしいです。ウチの会社ではPCというのが使われていますが、これはうそっぱちです。(PC・・・樹脂のことです)
10)PCのムリ抜き
 知らないことの一つくらいはあったほうがいいと、銀河ヒッチハイクガイドに書いてありましたから、説明はしないでおきましょう。

<技術系会社員と技術系の事が分かる人へ>

 この文章は知ったかぶりをして理解できてないことを書いていることと、全く理解していないのに書いている事の2つしかありません。ですから、アラを捜していただくのはとっても結構ですが、見つけてもおおっぴらにしないでください。知らないフリをしておいてください。)




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