恒星間旅行の計画に関する一つの提案

林[艦政本部開発部長]譲治

 現在までに発表されている航空宇宙軍史でともかく人類が進出しているのが分かっている恒星はシリウス(仮装巡洋艦バシリスク)とプロキシマ(襲撃艦ヴァルキリー)である。これらの太陽からの距離はそれぞれ8.65光年と4.39光年である。
 ではシリウスとプロキシマの間は何光年の距離だろうか? 答えは9.59光年であります(私の計算が正しければだけど)。
 航空宇宙軍史における宇宙開発を考えるときハービタルソーンについては必ずしも考える必要がないことがわかる。これは当然な話で航空宇宙軍史の舞台となる社会はガニメデやカリストのような環境で人類が生存でき経済活動を営める事がすでに証明されている社会なのである。したがって生命が生存できる惑星があればよし、そんな惑星が無いとしても小惑星クラスの天体があればそこに社会を築くことが可能なのだ。
 つまり航空宇宙軍史の世界では変光星でもないかぎり、惑星を持つ恒星ならばどこにでも植民することが理屈の上では可能なはずである。なにもG型やK型スペクトルの恒星に限ることはないのである。事実、プロキシマはスペクトル型dM5eだし、シリウスはA1Vである。
 さてそうなると人類は太陽からごく近い宇宙に限ってもそうとう数の植民地を持つことができるだろう。例えば太陽から半径15光年程度と言うごくごく近い宇宙でもその中にある恒星の数は30以上になる(連星をどう数えるかで数も違ってくる)。さらに石原博士の労作である光世紀世界によればたかだか半径50光年程度の宇宙に存在する恒星の数は815あまりにもなるという。
 このように植民地の数の増加が予想されるとき、恒星と恒星の位置や距離関係を表すのに太陽から何光年と言う表現だけで十分だろうかと言う疑問がおこる。特に貿易を左右する条件として位置よりも距離が重要ならば恒星の相互距離を表す何らかの方法が必要なはずである。
 そこで考えてみたのが図の扇型でありあmす。この図では太陽からエリダヌス座イプシロン星へ行くまでの航路について考えられています。地球からイプシロン星までの距離は10.8光年であるが、太陽から半径10.8光年以内には他にも9ほどの恒星が存在する。この図は太陽からイプシロン星に宇宙船で移動する時に途中でそれらの恒星に立ち寄った場合、宇宙船が移動する全行程距離がいくらになるかを表したものである。
 みて分かるように原点(太陽)からの距離がその恒星と太陽の距離、角度が全行程表を表しています。角度は2度で1光年を表し、10.8光年では21.8度となります。なぜこの図が扇型をしているかというと、幾何学的な問題で原点から離れるほど、その中に含まれる恒星の数が増加するためであります。
 それでこの図から何がわかるのだろうか?例えば太陽からの距離が8.22光年と8.65光年の二つの恒星LALANDE21185とSIRIUSを見てみる。この二つは距離はほぼ同じにもかからわらずイプシロン星旅行の途中に寄ったとすると前者では24光年(10.8光年の星に行くのにである!)、後者では17光年の距離を移動することになる。
 つまりSIRIUSは太陽からみてイプシロン星の領域方向にあると言うことになるでしょう。これはL726−8についても言えるはずです。しかし、これだけでは単にこの二つの星がイプシロン星に近いと言うことしか意味しません。これは半径10光年程度では含まれる恒星の数が少ないからです。もっと範囲を広げたらどうでしょう。
 例えば半径を20光年にしますとそこに含まれる恒星の数は70以上になります。これらについてこの図のようなものを作って行けば、その中には比較的恒星が多く分布している方向(領域)があるはずです。
 つまりその方向(領域)こそ重要な通商路になる潜在的な可能性を秘めていることになるでしょう。さらに地球にこだわらないならば恒星Aから恒星Bを結ぶ線が重要な通商路と言うパターンもあるはずです。
 この図は手書きですがデータの入力さえしてしまえば作図のためのプログラムを作ることはきわめて容易でしょう。
 いずれにしろ恒星世界のなかで通商路を合理的に考える場合、この図に限らず恒星相互の位置と距離を把握するための工夫が必要となるでしょう。

 

基準となる恒星  銀経    銀緯   太陽からの距離  
eps ERI -164.15  -48.04  10.8 
対象となる恒星  銀経    銀緯   太陽からの距離  相互距離   全行程 
alp CEN -44.23  -0.71  4.39  12.91  17.3 
BARNARD'S STAR 30.88  13.99  5.91  15.95  21.86 
WOLF359 -115.93  56.18  7.66  15.38  23.04 
LALANDE21185 -175.04  65.43  8.22  15.99  24.21 
SIRIUS(alp CMA) -132.78  -8.88  8.65  8.04  16.69 
L726_8 175.38  -75.74  8.89  5.26  14.15 
ROSS154 11.31  -10.28  9.45  17.68  27.13 
ROSS248 110  -16.92  10.3  12.82  23.12 
L789_6 46.99  -56.96  10.7  12.62  23.32 
eps ERI -164.15  -48.04  10.8  0  10.8 
ROSS128 -89.88  59.57  10.8  19.01  29.81 
61CYG(BESSEL's STAR) 82.25  -5.81  11  16.82  27.82 
eps IND -23.72  -48.01  11.2  13.85  25.05 
PROCYON(alp CMI) -146.31  13.03  11.4  11.63  23.03 
GRB34 116.63  -18.45  11.6  12.75  24.35 
STRUVE2398 89.27  24.21  11.6  19.27  30.87 
GC32159 5.11  -65.86  11.7  12.24  23.94 
tau CET 173.19  -73.43  11.8  5.42  17.22 
LUYTEN's STAR -147.71  10.39  12.1  11.54  23.64 
GC29761 3.93  -44.3  12.5  16.1  28.6 
KAPTEYN's STAR -109.57  -36.09  12.7  8.48  21.18 
KRUGER60 104.7  0  12.9  16.93  29.83 
ROSS614 -147.08  -6.19  12.9  9.15  22.05 

図




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