航空宇宙軍外宇宙艦隊の
恒星間手当を考える

林[ドゥルガの化身・野阿梓なんか嫌いだ]譲治

 ペルシャ湾の掃海のために自衛隊でも軍艦が派遣されましたが、自衛隊が海外にでるとその海域や距離によって手当が決められている。これは海自にかぎらずどこの海軍でも同様であるらしい。
 同様に宇宙を海とする航空宇宙軍でもその出動する距離によってなんらかの手当が決められているはずである。ざっと考えられるだけでも軌道手当、内惑星手当、外惑星手当などがありそうである。だが太陽系内の話であれば惑星軌道と宇宙船の位置の問題(エリヌスみたいに一度太陽に接近する場合とか)はあるものの、考え方は地球の海と同じでよいだろう。手当を考える上で問題なのは恒星間の場合である。

 加速度速度(G)    プロキシマ     シリウス    *恒星の単位は年
0.10 4.35 8.39
0.50 3.77 5.98
0.70 3.44 5.15
0.80 3.29 4.81
0.90 3.15 4.52
1.00 3.02 4.27
1.10 2.90 4.05
1.20 2.79 3.85
1.30 2.69 3.67

 上の数値はその一定加速度で移動したときの宇宙船内での時間である。宇宙船内で時計が遅れる・・・と言うアレである。(*1)プロキシマもシリウスも航空宇宙軍史で登場する恒星だがうまいことにこれらの地球からの距離はちょうど1:2になっている。つまりシリウスはプロキシマの2倍の距離にあるわけだ。
 距離が倍なら手当も倍でよい。だがこれは恒星間では必ずしも成立する考え方ではない。例えば0.50Gの加速しかでない宇宙船でプロキシマへ行く場合と1.30の加速でシリウスに行く場合とでは船内時間に関するかぎり遠くにあるはずのシリウスの方が早く着いてしまう。
 このような宇宙船の加速性能の差はありえないことではなく、最新鋭の宇宙船は前線に出し、古くなった宇宙船は開発の進んでいる近郊の恒星に配備すると言うことは十分に考えられる。こうして航空宇宙軍外宇宙艦隊は手当の算出にあたって宇宙船の加速度と言う要素をも考慮しなければならないのである。
 もしも距離だけで計算すれば旧式艦で近郊恒星を移動する宇宙船は同じ勤務時間にもかかわらず遠距離の最新鋭宇宙船よりも手当が少なくなるだろう。逆に勤務時間で計算するなら遠距離を移動する最新鋭宇宙船に不利になる。例えば故意に加速を控えて勤務時間を膨らませるような行為が行われないと言う保障はない。そんなことになればいったい何のために最新鋭艦を配備したのかわからなくなる。
 実際の手当では特別手当とでも称して艦隊相互の調整ははかられるだろうが、乗組員としてはそのからくりは明朗とはいいがたい。もっと誰もが納得できるわかりやすい手当の基準はないだろうか。
 方法は無いではない。仮想巡洋艦ヴァシリスクでは重力制御装置の開発について触れていた部分があった。この装置が備え付けられるなら人工重力によって慣性を相殺することができる。したがって理論的には100Gでの航行も可能なはずである。この加速ではプロキシマもシリウスも船内時間はほぼ1月半程度である。だから大加速で移動できるなら恒星間手当は距離で一律に決定できる。
 100Gの加速が可能なら半径20光年くらいは2月あればどこへでも移動することができる。仮に100光年を移動してもそれほどの差は開かない。こうして航空宇宙軍の主計担当は加速と距離の悪夢から開放されるだろう。浦島効果の悪夢がやってくるまでは・・・・。

*1 なお、静止座標(地球など)での各々の所要時間は、1G加速くらいになるといずれも距離の光年に若干足したものになり、距離にほぼ比例してしまうそうです。すぐに亜光速になってしまうためです)




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