宇宙戦争における化学兵器の使用
(一息吸ったらあの世行き)

崎山[半魚どん]茂樹

 さて、化学兵器といえば毒ガスのことです。そして、過去の戦争で大規模に化学兵器が使用されたのは第一次世界大戦です。
 この戦争では使用された化学剤は約三十種、宗使用量は12万4千2百トンにおよび、総死傷者数は120万を数えました。
 ここで注目すべき点はガス兵器の使用量はドイツ側66.4万トン、連合軍側57.8万トンとほぼ拮抗しているのにドイツ軍の死傷者数が8万人にすぎず、連合軍側は100万人以上におよび、その中で最も大きな被害を被ったのがロシア軍で死傷者は56万人以上だったそうです。
 これはドイツ軍が化学兵器の使用に際して連合軍から報復されることを予想して自軍に防護装備を施していたのに対して、連合軍の中でもロシア軍は防護装備もろくになく、将兵の化学兵器に対する理解も低かったためです。
 さて、ここで航空宇宙軍史の世界における化学兵器の利用を考えてみましょう。
 宇宙船同士の戦闘ではまず化学兵器の出番は無いでしょうが、SPAの様な組織が破壊工作用兵器として使うにはうってつけでしょう。宇宙船や軌道ステーションの様な密閉空間で空調システムに化学兵器をしかければ恐ろしい効果を発揮するのは確実です。
 ちなみに現在の化学兵器の中でもっとも強力なのは神経ガスで呼吸停止によって人を殺すものです。神経ガスの中でももっとも強力なのはVX、サリン、ソマンなどで半数致死量は0.35mg/kgから0.02mg/kgという恐るべき物です。
 半数致死量というのは吸入、又は皮膚から浸透した場合に、半数の人が死亡する量です。体重1kgあたりのmgで表わします。体重50kgの人なら半数致死量0.02mg/kgのVXガスを1mg体内に吸入したら50%の確率であの世行きです。もちろん死を免れてもその後で後遺症に死ぬまで苦しむわけです。
 ゾディアック級フリーゲート艦といえども空調システムに缶コーラ一本分の神経ガスをしかけられたら全滅です。
 しかし、航空宇宙軍にとっても汎銀河世界の惑星を攻撃する上では強力な武器になるでしょう。
 他の分野ではともかく137機動旅団の戦闘の様に陸戦舞台の兵員数では劣勢を強いられる航空宇宙軍にとって、軌道上から化学兵器を撒布して敵の陸上部隊を殲滅させてしまうという作戦は戦術的には有効です。
 「なに敵の兵隊がきょーざんおるのにこっちは一個小隊の機動歩兵しかおらんさかい往生しとるやと。かまへん、かまへん神経ガスぶちまけてまとめていてもうたれ。汎銀河人なんてどうせ虫けらや、殺虫剤つこうて何が悪いんや」
てな具合で少量でも大量殺戮が可能な化学兵器を使用したことは多いに考えられます。
 第一次対戦の例を見ても防護装備が充分なら化学兵器の被害はかなり軽減できますし航空宇宙軍にとって機密技術はお手の物でしょう。
 ただし言うまでもなく大量殺戮兵器である化学兵器は一般市民にも大変な犠牲を出すことになります。
 長期的に見れば汎銀河人の航空宇宙軍にたいする憎悪を煽って航空宇宙軍の敗因のひとつとなったかもしれません。




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