外惑星動乱終結直後の第一次大改装の主眼は、小型搭載艇の搭載ともう一つ、海兵隊の乗組みを標準配備としたことである。
二小隊十二名の海兵隊員を常駐させ、また非常事態に際しては乗組員の大部分をもその指揮下の兵員となさしめることによって、アクエリアスは揚陸艦としての潜在能力をもつようになった。その潜在能力が実際にいかんなく発揮されたのが、2123年のエリヌス暴動であることはいうまでもない。
艦隊戦時には極言すれば死荷重(デッドウェイト)に過ぎない海兵隊員が、実は改装後のゾディアック級フリゲート艦の主戦力ともいい得る存在であることが、この事件をきっかけに内外に認識されたわけである。
今回の特集では、まず、アクエリアス海兵隊員の標準装備一覧。そして海兵隊員の日常を垣間みてもらうため、エリヌス暴動時にアクエリアスに配属されていた海兵隊員の手記を掲載した。
月刊ファイアアームズ 2130年 8月号 《海兵隊特集》 より
序文
航空宇宙軍創設以前より低重力空間での陸戦隊員(に相当するもの)は存在した。
だが、それは(宇宙)空港警備隊や、軍警務隊と言った程度のものであり、それは第1次外惑星動乱時まで基本的には変わらなかった。しかし、この動乱以後、航空宇宙軍は外惑星に対して強権的な治安維持活動を行うようになり、そのためアクエリアスをはじめとするゾディアック級フリゲート艦などには陸戦部隊が海兵隊という形で常駐配備されるに至った。この時期から空間騎兵隊の装備は真空、無重力という宇宙空間の条件に適応したものに変わっていった。
その一つの例としてナイフが上げられる。それまでの陸戦兵のナイフは、いわゆる宇宙飛行士(アストロノーツ)用であった。それがこの時期から専用の戦闘用ナイフが装備されるようになった。小さなことのようだが、《武器に使える道具》から《道具に使える武器》へと換装されたことは、この時期の海兵隊員が戦闘のプロとして研ぎ澄まされた存在となったことを象徴的に表している。
それ以来最大の転換期となったのは、言うまでも無くエリヌスの暴動事件であった。実験的な編成に過ぎなかった陸戦部隊が各方面でさらに拡充され、装備や訓練系統など様々な面で統合への動きが急になるのはこの事件以後で、観測筋によればあと十年内外で陸戦部門の統合組織化が正式に行われるであろう、とのことである。……
海兵隊主力装備 | ||
機関短銃(口径 5.56mm クラス) | ||
これはアクエリアス全員に行き渡るだけ装備してある。 | ||
理由: | アクエリアス全員が海兵隊訓練を受けている以上、皆に行き渡るだけ装備するのは当然であろう。小口径の機関短銃なら暫く訓練を受けていなくてもすぐに慣れるだろうし、携行弾数も増やせるだろうから。(FN.P90を基本とした設計思想で作られている)最新型の機関短銃で、本格的な(文字どうりの)無反動銃。 | |
汎用小銃(口径 7.62〜8.5mm クラス) | ||
これは海兵隊の1〜2倍程度の数しか装備されていない。 | ||
理由: | この銃の無反動モードは、どちらかと言うと軽反動システムだと考えられる。つまり単なるマズル・ブレーキの進歩したものであり、普段から訓練を受けているものでないと大口径は中々使いこなせないものだろう。全員分装備されないのは、そのためだとと思われる。また、識者によれば、大口径銃を使う状況はあまり起こりえないという説もある。 | |
将校用、無(軽)反動ピストル | ||
無反動専用ピストル。口径7mmクラス(約30口径)。バレル(銃身)のセンターあたりにマズル・ブレーキが付いたもの。 | ||
手榴弾 | ||
発煙弾、スタングレネード、ガス弾、硬質ゴムボール弾(暴徒鎮圧用)などといった室内用が中心。本格的な破壊弾(つまり通常弾のこと)は、低重力での使用は大変な危険が伴う。なぜなら爆散した破片がどこまで飛ぶかわからない。よほど訓練を積んだものか、相当カンが良い者でないと、自らが傷つく。それゆえ非殺傷タイプを使うのが一般的。ただし、正規海兵隊員には通常弾も配備される。 | ||
ライフルグレネード | ||
対人用(破片殺傷型)、対装甲用(成型炸薬弾)、構造物破壊用通常炸薬弾などが確認されている。ガス弾もあると言われるが、閉環境で使われる事がほとんどのためか、公式にはまだ確認されていない。 | ||
指向性爆薬 | ||
現在、航空宇宙軍だけが所有している特殊な爆薬で、方向性を持った爆発を起こせる性質を持つ。判りやすく(ちょっとオーバーに)いえば、手の平にこの爆薬を張り付けて壁に押し当てると、壁だけを粉砕できることになる。もちろん実際には反動もあり、こんなことは不可能ではあるが……。通常はプレート、又はベルトの形に作られている。主に建造物侵入時にコフインと共に使用されるが、その特殊な性質を利用して、閉鎖空間での破壊作戦にも使用される。 | ||
ナイフ | ||
本格的な戦闘に適したサイズ、形状をしている。材質は機密なので判らないが、硬度が低い割には研ぎにくい材質である。ただ少しくらい金属に当たっても刃こぼれせず、刃持ちが非常に良いことからすると、ステライトK−6(コバルト系の合金鋼)に近いものではないかと思われる。 | ||
分隊通信機(スクワッド・コミュニケーター) | ||
小人数用の閉鎖回路型戦闘指揮通信機。分隊長用以外は自分の分隊モード内からの通信しか入らない。出力、通信可能半径は小さいが、送信は暗号化がされているので盗聴がされにくい。そのため隠密行動時や予備役の者を指揮する場合に使われるのが普通。アクエリアスには無いが小隊通信機もある。(少々サイズが大きくなる。)モードは階級モード(分隊長、隊員の選択)と、分類モード(1〜12の分割、又は全員統一の計13種。)がある。分隊長モードには全員通達スイッチがあり、これを使うと他分隊を含めた全員に通信が送れる。 | ||
E.I.P.( Eyesight Inner Projector ) | ||
眼球の網膜に直接投影するヘッドアップディスプレイ型のプロジェクターで、暗視装置を組み込んだゴーグル型の外観をしている。ヘルメットとは別構造。現在はまだ試作段階のようだ。 | ||
戦闘用軽気密服 | ||
軽快な戦闘を可能とした気密服で、作り付けの酸素ボンベの容量はせいぜい1〜2時間。ボンベを追加してもいいとこ4〜6時間しか行動できない。 | ||
戦闘用重気密服 | ||
かなりの耐弾性とレーザー反射性を持ち、半日以上の行動が出来る。また、オプションの高圧縮酸素カートリッジを装備すると、最大2〜3日の行動が可能となる。 | ||
通常気密服 | ||
航空宇宙軍の標準規格気密服。軍用から民間用まで広く使われているので、今さら説明の必要は無いであろう。
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