これまでずっとROMだったのですが乏しい人生経験から良い話がないか探してみましょう。
でもここであらかじめ断っておくと、これまでの人生の中で「正真正銘の」怪奇現象(←へんな言葉)というやつに遭遇したことはない。
せいぜいよくて「半信半疑の」とか「ほとんど眉唾な」ものばかりだ。
身内にも残念ながら都合良く霊感にすぐれた人間はいない。だいたい我が家の家訓は神仏は尊べども恃まず(by吉川英治)。なのだから後は推して知るべし。
よって話は他人からの聞き書きが主になるがそこら辺はご勘弁のほどを。
といいながらやはり一発目は自分で体験した、いってみれば「ちょっとだけ奇妙な」な怪奇現象を。
我が友人は九州にある大学の工学部を立派な成績で卒業して「動燃(最近名前が変わった)」に就職した。誠実だがちょっと真面目すぎるエンジニアとなった彼は、原発で事故が起こるたびにその理由についてまるで自分のことのように悩むのだ。
彼曰く、そもそも原発は設計から施工、納品にいたるあいだにこれでもかというくらいいろいろなチェックをするものであり、そもそもミスが起きること自体考えられないことである。
まあ素人が少し考えただけでも彼の言い分は少しばかり怪しいのがわかるのだが、科学的な議論は他の機会に譲るとして、今回は事故が起きる原因についての「非(超?)科学的な原因」について考察してみたい。
地図を見ればわかるのだが原発というやつは海辺にある。それも人跡まれな外洋からの荒波がうち寄せる断崖絶壁を切り開いてあのトーチカのような施設を建てているのがほとんどだ。人里離れた、水を大量に使える、岩盤の安定した場所を選ぶとだいたい似たような場所になるようだ。
当然このような場所では難工事となる。
さらに産廃、米軍、組事務所を押さえ迷惑施設のトップにあがる原発は、万難を排して速やかに完成させることを要請される。
そのため原発の建設は必然的に超突貫工事となるわけだ。
ある曾孫受けの鳶の親方によると、高層ビルを一棟建てるにつきだいたい死亡事故が一件くらいは起きるらしい。ところで原発を一つ作るのにはたして高層ビル何棟分の金額がかかるのだろう。
超突貫難工事の常としてあらゆる部署で安全確保が故意にゆるめられる。
もちろん水中工事を担当するダイバーもその例外ではない。
ここからは例によって海の話だ。
原発の取排水口を中心とする海域では季節ごとに環境調査として、地元の漁船をチャーターして卵稚子・磯辺および底生生物の採取、流向流速計の投入、藻葉ラインの調査などが行われる。
そのとき担当したのは流向流速計から定期的に発信される音データを水中マイクで録音する作業のアシスタントだった。海域に点在するライトブイを巡りながら音を拾うルーティンワークの中で、なぜか排水口に近い一つがつねに不調を訴え音データが拾えない状態が続いた。
そんな日が二、三日続いて、また流向流速計を引き上げて新しいものを投入するのかとうんざりしながら(重い観測設備を狭くて揺れる船の上でセットしなければならない)待っていたが、いっこうにその気配がない。
他のポイントでは不調が出るとすぐ新しい機材に換えているのに?
でもこのことについて作業班長から説明はなく、身内以外の人間はなんとなく聞くのがはばかられる雰囲気だったのでついに聞きそびれてしまった。
それでも最終日、作業基地になっている漁港で何度も調査に参加している漁船の船長から偶然その訳を聞くことが出来た。
排取水口の近くで機械の調子が狂うのはいつものことらしい。でも別に高い放射能が検出される訳でもない。
とにかく原因不明の故障が毎回のように起きているようだ。
船長によれば、夜間工事中に排水管の奥で作業をしていたダイバーが何かの理由で出られなくなり、エア切れで溺死したのがひょっとすると……、ということらしい。
もちろんこの推測はすべて無責任な伝聞によっている。多分、自分の知らない内に他の作業船が機材の再設置を行ったと、考えるのがよっぽども妥当だろう。
それにあの誠実な友人に対して、事故の発生の原因としてこのような説明をすることがはたしてできるだろうか?
でも、それと同時に海で働く者が妙にゲンをかつぐのは、理由がないわけではないのだ。