七十四話での、あ、やっぱりお気づきでしたか。実は彼女の事については、ここでは書かないでおこうかと思ってたんですが…。
その子は、たぶん私の幼なじみで友紀子ちゃんという名の子です。彼女は、私と同い年ですぐ近所に住んでおりました。友紀子ちゃんと私はとても仲良しで、いつも一緒にままごと遊びだの、お人形さんごっこだのをしておりました。
今から思えば当時の私は、めちゃめちゃおとなしい子で、あまり近所のガキ大将なんかとドロだらけになって遊ぶよりも、近所の女の子たちとばかり家の中で遊んでいるような、そんな子でした。そんな中でも、友紀子ちゃんは一番の仲良しでした。
ただ、どう云う訳か小学校に上がる頃からあとの友紀子ちゃんの記憶がどうもあやふやなんです。
私は、ごく当然の様に近くの市立小学校に入学しましたし、彼女も確かに始めの内は一緒に学校へ通っていた記憶があります。ですから、彼女も当然同じ学校に入学した筈なんですが、1年の2学期頃から後、彼女に関する記憶がぷっつりと跡切れているのに気づいたのは、もっとずっと後、私が中学校ももうすぐ卒業しようかという頃です。
私は、それとなく両親に聞いてみました。
「昔よく一緒に遊んでた、友紀子ちゃんっていう子、おったやろ」
「ああ、あの文房具屋さんのとこの子やろ。中学校もいっしょやった」
確かに、その子は間違いなく、中学まで一緒でしたしはっきりと覚えています。でも、その子ではないんです、私が小さい頃遊んでいた友紀子ちゃんは…。
それから何年かの間、その事は私の記憶の片隅に追いやられて、たまに不思議な記憶として思いだされるだけだったのです。
それは、私がすでに就職して何年かたった後の事。部屋で一人で寝ていると何やら小さな声が聞こえます。こそこそと何か喋っては、クスクスクスと笑っているような、そんな感じです。
最初、空耳かと思いました。でも、声はなんとなくだんだんハッキリしてくる様です。その声を聞いている内に、何故か懐かしい記憶がまざまざと思いだされてきたのです。その声は、あの友紀子ちゃんの声にそっくりでした。
「そうかー、ずっといっしょやったんやね」
なんとなく、判ってきたような気がします。彼女はずっと私と一緒にいたのです。そして、今も…。