第八十話

林譲治

 もう十年ほど前の話。札幌のタウン誌に「札幌心霊マップ」みたいな特集がのった。どこにどんな幽霊屋敷がある云々という内容だ。その中の幽霊が出るトンネルに友人らが肝試しに行った時のこと。
 二台の車で、前の車に三人、後ろの車にも三人乗っていた。五〇メートルほどの距離をあけて二台の車はトンネルを進む。突然、前の車が停止したかと思うと、三人が急いでかけてきた。
 完全に恐慌状態の三人の話によると、車に何かがぶつかり、窓に泥のようなもので汚れた手形がついているという。六人は半信半疑で前の車に戻る。
 「おい、これ泥じゃないよ、血だ!」
 懐中電灯で赤く手形が浮き上がると、誰が最初に走りだしたか、全員が車も捨ててトンネルの出口にむかって駆け出した。
 と、ここまでならよくあるトンネルの幽霊話なのだが、この話のもっとも恐るべき現象はこのあと起きた。
 「おい、全員いるか!」
 「一、二、三、四、……あぁ、七人、全員いるぞ」
 「あれ、六人で来たんじゃなかった?」
 そうトンネルの出口には友人らは七人いた。もちろん幽霊では無くみんな人間だ。そうこのときの七人の証言はどれも微妙に食い違い、最初の六人が誰で、増えた一人が誰なのかが誰にもわからなかったのである。
 あれから十年、彼ら七人はいまも元気に暮らしているらしい。



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