第六十三話

天羽孔明

 小学生の時、父親に『妖怪百物語』という映画に連れて行ってもらい、その映画に出てきたろくろっ首を好きになって以来、ぼくの中に妖怪やお化け、それに怪異に対して恐怖感をほとんど感じなくなってしまったのです。
 そんなぼくでさえ、本当に時折ですが、恐怖感が襲う事があります。
 今から七年ほど前。仕事で岡山まで出張に行った帰りのことです。夜中の十一時すぎでしたか、これもめったに無い事なんですが、道に迷ってしまったんです。やれ困ったと思っていたら、前方にカソリンスタンドが見えました。やれやれと思ってそのスタンドに入り、目的地までの道筋を聞き、そのスタンドを後にしたのです。
 教えられた道は、近くを流れている大きな川の堤防を走る道でした。その時、たまたまだと思うのですが、その道を走っている車はぼくだけだったのです。その道外灯がまったく無く、自分の車の明かりしか、回りを照らすものがないのです。
 なにを考えていたのか解らないのですが、ぼくは急に自分の車のライトを全て消してしまいたくなったのです。一歩間違えると文字どおり大事故ですから、本当に何を考えていたのか…。ともかく、全てのライトを消してしまったのです。突然夜の闇がぼくの車の中に入ってきました。えぇえぇ、そんなに長い時間ではありませんよ。ほんの一瞬です。すぐにぼくはライトを再点灯しました。ところが、なぜか急に後部座席に誰かが乗っていると感じてしまったのです。本当に誰かが乗っていたのなら、恐怖心はそれほど湧かなかったのかもしれません。でも、絶対に誰も乗っていないと解っているのに、乗っているような気が抜けなくって、ルームミラーも見る事ができませんでした…。



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