第五十一話

林譲治

 私の生まれた北海道夕張郡長沼町はナイキミサイル基地訴訟と道内有力ヤクザの拠点で知られております。まぁ、後者はローカルで知られているだけですが。
 この長沼という町は航空自衛隊千歳基地の航空路の真下にあります。自衛隊の新鋭機は北から配備されますから、私もF86にはじまり、F104、F4、F15などを飛ぶのを見てまいりました。
 ただどうしてミサイル基地があったり航空路であるかといえば、これはもう上に「ど」がつく田舎だからに他ならない。そして田舎の利点といえば、航空機が墜落しても民家に落下することがほとんどないことです。実際、私個人でも何回か墜落現場を見た記憶があります。なぜって、破片は広範囲に散りますから、現場の面積は広いのです。
 ある時のこと。当時私は中学生で、家の手伝いをしておりました。するといつものようにF4が二機でスクランブル発進をしています。
 当時はまだソ連という物がありました。しかもちょうど、ミグ25の亡命事件のあった年ですから、スクランブルも珍しくなかった。ただその飛行経路がいつもとかなり違うのがいささか妙だった。ソ連機の接近ルートは決まってますから、スクランブルのコースも限られる。だがその時だけは通常よりも 60度くらいズレていました。
 そしてその二機のF4ファントムのうち、一機が墜落したときいたのはその日の夕方のこと。パイロットは脱出できずに即死らしい。すぐに自衛隊からヘリコプターが派遣され、警察も周辺を立ち入り禁止にする。原因解明のため破片はすべて回収されたらしい。この手順は毎回そうなのだが、この時ばかりは異様に手回しが良かった。
 で、私の友人に地元警察の警部の息子ってのがいた。そいつが言うには、「親父の話だと死体は四つあったんだって。二人は確かに自衛隊のパイロットだったけど、残り二つは猿のような生き物だったんだってさ。なんか知らないけど実験動物なんだって、東京の偉い先生が言ってたんだって」
 猿のような生き物ってのが何かはわかりません。東京の偉い先生ってのも、何がどう偉いのかは謎です。
 じつはミサイル基地近くの山の方に住んでいる、同学年のクラス違いの女の子が、飛行機が空中で何かに衝突するのを見たというのを聞きはしたのだが、これについても詳細は不明です。なぜって彼女、あの時以来、いまだに行方不明になんですよ。それに彼女から話を聞いた友人のなかで、今も生きているのは僕だけなんです。



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