第一話

天羽孔明

 今から 20年ほど前の事です。
 高校3年3学期の期末テストが終わり、卒業式までの2週間。ぼくは、テントと寝袋を持って、奈良県吉野郡へと一人でキャンプに行ったのです。
 さて、彷徨きだして、4日目か5日目のこと。ぼくは、丹生川上神社にほど近い河原にテントを張って寝ていたのです。
 夜中、何時頃だったでしょうか、突然ぼくのテントを外からバンバンと叩く者がいるのです。なんだ と思って、そちらを見ると、ぼくのテントに両手をつき、顔をテントに押しつけている人影。
 寝袋から出、あわててテントの外へと出たのですが、辺りには誰もいませんでした。
 テントを張っていた場所は河原です。ぼくがテントから出るまでの時間では、どこにも姿を隠すような所などないのです。もちろん、河原の砂利を踏む足音も聞こえませんでした。でも、テントの中にいたとき、確かにテントは内に向かって、人型に膨らんでいたのです。いやこの時は、さすがのぼくもゾッとしました。



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