マウナケアとすばる

阪本[初代]雅哉

マウナケア山頂の望遠鏡

1.計画

 2002年9月19〜23日の日程でハワイへ旅行に行くことになった。
 ハワイには日本の国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」がある。 せっかくハワイに行くんだからぜひ見学してみたいと思ったが、残念なことに「すばる望遠鏡」は一般公開されていない。*1
 
もっともヒロにあるハワイ観測所山麓施設(ヒロオフィス)にはビジターギャラリーがあるらしい。また望遠鏡のあるマウナケア山頂には誰でも自由に登ることができる 。現地で建物の周囲を見て回ったり周辺の写真を撮るくらいのことは可能だろうしビジターギャラリーでも見学してこようと考えてハワイ島へ行くことにした。

*1 すばる望遠鏡は現在見学可能になっている。詳細はこの頁を参照。 また、この頁によると取材の申し込みが出来るらしい。

 今回の旅行では自由になる日が二日ある。その日程でダイビングとマウナケア行きの両方をこなすためには、潜った翌日にマウナケアへ行くわけには行かない*2ので、すばる(の周辺)見学日程は必然的に決定された。

*2 ダイビング後12時間は減圧症の危険があるため、飛行機に乗ってはいけないと言われている。ましてや4000m以上の高地に移動するのは絶対に避けなければいけない。 結局今回はダイビングはしなかったが。

2. 準備

 今回の宿泊地のワイキキ・ビーチはオアフ島、そしてマウナケアがあるのはハワイ島。すばる見学のためには、ホノルルからハワイ島のヒロまたはコナに移動しなければいけない。通常のオプショナルツアーにある“ハワイ島ツアー”ではすばる見学はできない。ハワイ島では“マウナケアと星空観察ツアー”などもあるが、これは午後から夜のツアーなのでハワイ島に宿泊していないと参加できない。
 となるとハワイ島へもマウナケア山頂へも自力でたどりつかなければならない(ハワイ島への往復のチケットは旅行代理店に頼めば手配してくれたかもしれない)。
 まずハワイ島までの航空券は Internet で検索した結果、ハワイ航空日本支社の頁から 手配する。時間は下の表の通りなので、行きは HA122、帰りは HA221を予約。片道63ドルで、どうやら現地で購入するよりも安くついたようだ。
 出発前に届いたチケットは必要事項をすべて自前で書き込まなければならなかった。それに予約の日時が印字された紙と記入例の用紙が付いていた。本当にこれで大丈夫なのか心配になるが前日現地から予約確認をするしかない。

ホノルル ⇒ ヒロ ヒロ ⇒ ホノルル
便名 備考 便名 備考
HA102 5:17a 6:08a   HA101 6:33a 7:20a  
HA112 7:25a 9:03a カフルイ経由 HA121 8:51a 9:38a  
HA122 7:35a 8:26a   HA383 10:56a 11:43a  
HA382 9:40a 10:31a   HA181 1:23p 2:10p  
HA182 12:05p 12:56p   HA251 3:48p 4:35p  
HA250 2:30p 3:21p   HA221 4:31p 5:18p  
HA222 3:15p 4:06p   HA201 6:03p 6:50p  
HA544 4:00p 5:38p カフルイ経由 HA281 7:56p 8:43p  
HA282 5:45p 6:36p          
HA362 6:40p 7:31p    

 現地で移動用のレンタカーは、現地で調達することにして予約はしなかった。

 マウナケア山頂に関しての情報を調べる。

標高 4138m
平均気圧 600hPa
平均気温 −5℃ 〜 +10℃
平均湿度 〜40%
平均風速 7メートル/秒
晴天率 65%

その他にも、高山病に気を付けろとか16歳未満は登頂禁止だとかいろいろと注意事項が書かれている。自慢じゃないが、谷甲州のファン歴は長いがいままで富士山の五合目よりも高いところに登ったことがない。(もしかしたら一般公開の見学に行った野辺山天文台の方が富士山五合目より高かったかもしれない)
 家族旅行で4000m級の山に登って、翌日にはダイビングするような家族とか身体の鍛えられ方が違う。
 なんだか不安になってくるけど、登るのは自分の足じゃなくて車だ。調子が悪くなれば諦めて帰れば良いだけだろう、とりあえずは行ってみないと話にならない。
 おかげで今回のハワイ旅行の荷物は、南国へ行くというのに防寒用の衣類がかなりの容積をしめてしまった。

3. ハワイ到着

 日本を19日の16時ごろに出発すると、ホノルルには同じ19日の7時ごろに到着する。
ワイキキビーチ 時差の関係で眠いなか、いろいろな都合によりハワイへ到着した日はバスツアーをすることになっているらしい。団体旅行だから DFS へのご案内も当然含まれている。できればホノルル空港でハワイアン航空のカウンターに寄りたかったのだが、これもどうしようもないので DFS で公衆電話を見つけてハワイアン航空に予約確認の電話を入れる。ホテルに到着したのは昼食後だったが、部屋に入れるのは15時すぎらしい。
 というわけで、周囲の散策とできればハワイ島の地図でも買おうとワイキキの町へ。
 初めてのハワイのワイキキビーチは思っていたよりもかなりしょぼかった。カラカウア通りをぷらぷらと歩いているとどこにでもあるABCストアーがある。地図は手に入らなかったが、暑かったしハワイに来たのだからということで超安値でアロハシャツを購入した。
 翌日は6時前には空港についている必要がある。*3
 
さらにハワイ到着した日は誰でも眠いということもあって21時には就寝。

*3 出発の2時間前には登場手続をするようにと案内があった。またワイキキから空港まではタクシーで30分程度ということでホテルの出発は5時頃と考えた。実際には7時前に到着しても問題ないような様子だったが。

4.ハワイ島、マウナケア、すばる

 5時に目覚ましが鳴る。昨晩準備した荷物を手にホノルル空港へ向かう。つもりだったんだが宿泊したホテルの表玄関が発見できずにホテルの周囲を一周してしまった。
 ホノルル空港でチェックインし、空港内部で簡単な朝食。さすがに時間が早いのかちらほらとしか人が居らず、これだと1時間前でも大丈夫じゃないかという気にさせる。かといって乗れないと恐いので帰りも2時間程度前に戻る方針は変更しなかったけど。
 ハワイアン航空のボーディングチケットには座席番号が書き込まれていたが、どうやら座席は自由らしい。いやそれ以上に『座席のない人は乗れません』なんて話も聞えてきた(何組かハワイ島へツアーで行く日本の団体客が近所にいたらしい)ので少し早いが搭乗口の列に並ぶ。
 なんとか乗り込んだ飛行機は1時間弱でハワイ島のヒロ空港に到着した。

 ハワイ島に到着してから、マウナケアへの行き方もビジターギャラリーの場所も一度は調べたもののその結果をプリントアウトしていなかったことに気が付く。地図はレンタカーを借りるときにもらうとして、目的地の場所がわからない。
 しかたなく周囲を探すと観光案内を置いたブースがある。近くに寄ってみると日本語の案内がある。これを見ると簡単な地図も載っているし、マウナケアへの道はなんとかなりそうだ。
 案内所の女性に「すばるへ行きたいのだが」と拙い英語で話しかけると、手にした日本語の案内を目にして日本語で応対してくれた。さすがにハワイ、ワイキキ周辺だけじゃなくってこんな田舎(としか思えなかったんだがヒロはホノルルに継ぐハワイ第二の都市らしい)でも日本語の通じる人がいるじゃないか。
 すばるのビジターギャラリーに関しては知らないようだったが、ヒロオフィスの場所を確認する。

レンタカー受付 次はレンタカー。空港の駐車場の前にレンタカーの受け付けが ずらっと並んでいる。
 Hertz の窓口で、「マウナケアへ行くから車が借りたい」と片言の英語で言うと、きっぱり「No!」と言われてしまった。マウナケア山頂へ行くのに必要な車輌は普通のレンタカー会社では扱っていないらしい。*4
 ここまではなんとか順調に来たが、いきなり前途が真っ暗に。
 車が借りられないとどうしようもない。
 しばらく観光案内を見ているとタクシーでハワイ島観光地巡り(しかも日本語OK)なんかがあったりして、いっそこれで行けるとこまで行ってお茶を濁すか、それとも普通のレンタカーを借りて適当に島内観光でもして、、、などと後ろ向きの考えに捕われる。
HARPERの広告 だが、空港の案内板に HARPER の広告を見つける。
 どうやら 4WD 専用のレンタカーらしい。ここならマウナケアへ行ける車を貸してくれるかもしれないと電話してみた。だが通じないのか、電話で受け付けをしていないのか数言話すと電話を切られてしまう。しかたがない直接乗り込もうとタクシーで「HARPER」と言ってみる。遠かったらどうしようとビクビクしながら到着。
 さすがに日本語の通じるスタッフは居ないようだったが、「マウナケアへ行くから車が借りたい」と片言の英語で言うと「OK」と簡単に返事が返ってくる。
 このあたり多少言葉がわからなくたって目的はひとつなんだしたいして面倒なく手続が進む。今回の旅行のために国際運転免許証を取得してきたのだが、日本の運転免許証とパスポートだけで手続が済んでしまった。他の人に聞いても誰も国際運転免許証の提示を求められなかったと言っていたが必要ないんだろうか。
 とにかく、事務所を出ると日本ですら運転したことのないようなごっつい車(いすゞ“ TROOPER”)が止っている。こんな車を不馴れな左ハンドル右側通行で運転しなければいかんのかと少し緊張する。
 車の周囲を回って傷の確認をすると書類に確認のサインをして出発。

*4 後から調べるとマウナケア山頂だけでなく、200号(Saddle Rd)への乗り入れも認めていないらしい。こちらのほうは普通の道のように感じたんだが。

 慣れない土地で一人で運転しなければならないときになにが一番不自由かと言えば、それは運転しながら地図で道を確認しなければならないことにある。幸いなことにヒロからマウナケアへ向かう道は200号(Saddle Rd)一本で、街を出た後は途中で登山道へ向かう道以外には分岐がない。またハワイ島はアメリカの例にもれず道は日本より遥かに幅が広いうえに 、街が小さく道の数が少ないので道路に書かれた名前を身ながらほとんど迷うことはなかった。
 途中のセブンイレブンで水と昼食のサンドイッチを仕入れ。
 あとはひたすら車を走らせる。

Saddle Rd Saddle Rd Saddle Rd Saddle Rd

 途中高い山が目に入らないので少し不安になるが、他に間違える道はないし“道が少し登りになっているんだからマウナケアへ向かっているんだ”と信じて一時間ほど走ったころ、右手前方に高い山が見えてくる。山頂にはドームのような建物が見えるような気がする。
 しばらくすると右手の山へ向かう道が現われる。案内のようなものはなにもないが、地図には他に分岐路はないしなにより山頂に向かっているように見えるので迷わずそちらへ向かう。
 登山道に入ってすぐは周囲も牧場で牛がたくさん放牧されている。

Saddle Rd Mauna Kea Rd

 登山道を20〜30分も走ると舗装道路が途切れ、未舗装の道になる。このあたりになると勾配もかなり急で気圧も低いためかアクセルを床まで踏み込んでも10〜20マイル程度のスピードしかでない。しかも道が悪くてハンドルを取られるため車が真直ぐに走らない。
 崖から落ちたら命がなさそうなので、一応は二車線程度ある道の中央から山側をゆっくりと、しかしアクセルは床まで踏込んで走らせる。
 たしかに普通の車では舗装された個所までがせいぜいでそれ以上に登ることは不可能だなぁと納得する。*5
 登山道に入ってから自分以外の車をまったく見かけなかったが、ここまで来て前方を車体に NASA と書かれた車が前を走っているのと、途中で道を整地しているブルドーザを見かけた。

*5 写真は比較的安定した個所でしか撮影していないので、さほど険しそうには見えませんね。

 マウナケア山頂に向かう途中にオニヅカ・ビジター・センターが有って、普通はそこで“一時間ほど途中休憩し、高度に身体を馴らせることになっている”と事前に調べたどの案内を見ても書かれている。なもんで気を付けながら道を走らせていたつもりなんだが、どうやら見落してしまっていたらしい。ふと気がつくとマウナケア山頂付近まで来ている。途中で休憩するのは、高地へ身体を慣らすのはどこへ行ってしまったんだろう。しかし来てしまったものはしかたない、どう考えても苦しくはないからきっと大丈夫なんだろう。
 まぁ、富士山より高いとはいえ高度4000mはエベレストの半分しかないんだし、所詮は車で上がってきただけだ。

マウナケア山頂付近 山頂の望遠鏡群
山頂の望遠鏡群
おそらく真のマウナケア山頂
山頂の望遠鏡群

 ここまで来て、山頂には複数の天文台の望遠鏡があるのだがどれが“すばる望遠鏡”だかわからないことに気が付いた。事前に少しでも調べていれば球形じゃない円筒形の建物だとすぐにわかったはずなんだが、やっぱり間抜けだ。
 だけど、どうせ外から建物を見るだけなんだし時間も十分あるので山頂にある建物の周囲を順にすべて回ることにした。
 車の中は陽射しが強いのでエアコンを入れないと暑いのだが、そとへ出るとさすがに寒い。それに少し身体を動かすととたんに息切れを感じる。そのためか活動意欲も活動範囲も普段より減少しているような気がする。
 ひととおり全部の建物の周囲を移動して写真を撮ると、あとは特にすることもない。夜ならさぞかし星がきれいなんだろうけど 昼間では周囲の眺めを楽しむ以外には見るものもない。さらに帰りの飛行機の都合もあるのであまり長居するわけにもいかない。そこで昼食を取ってから早々に下山することにする。
 登りは全然スピードが出なかったが、下りではエンジンのパワーが必要ないので油断しているとついスピードが出てしまう。しかし道の悪さは変らないので下りはさらに慎重に運転する必要がある。それと運転しながら耳抜きしつづけなければいけないというのは初めての経験だった。
 帰り道でようやくオニヅカ・ビジター・センターを発見して立寄る。建物の前に観望会用(?)の望遠鏡が置いてあり、中には土産物コーナーと展示コーナーがくっついたようなものがある。展示コーナーにはマウナケア山頂の模型や解説付きの写真パネルなどがあり、科学番組のビデオなんかが流されている。また昼を過ぎたためか観光客がちらほら増えだす。
 ここでしばらく土産を物色したあと
ヒロの町へ戻ることにする。
 帰り道は少し霧が出ていたが、すでに道も分かっているので1時間程度でヒロの街に到着した。
 簡単な道に助けられ、国立天文台山麓施設へは迷わず到着。入り口付近にビジターギャラリーはあったのだが、残念ながら「CLOSED」だった。*6

国立天文台ハワイ観測所山麓施設 国立天文台ハワイ観測所山麓施設 国立天文台ハワイ観測所山麓施設 国立天文台ハワイ観測所山麓施設

 しかたがないので、周囲や展示パネルの写真を撮って引上げることにする。

*6 2005年5月12日で閉鎖になったらしい。

5.帰路

 時間があればついでにキラウェア火山にも行ってみたかったし、ハワイ島の散策もしてみたかったが、飛行機の時間まで2時間しかない。レンタカーを返却し空港へ行くことを考えると時間があまりない。
 というわけで帰路につく。少し苦労してガソリンを入れ(セルフで入れるのは簡単だけど、機械をスタートさせるのに手間取った、なぜ係員がやるとあんなにスムーズに…)レンタカーを返却、空港でチェックインしたあと一時間ほど空港で時間を潰す 。
 ところでなぜ16時31分の飛行機にしたかというと、この日の18時から合同夕食会があるためである。たとえ飛行機がオンタイムで飛んだとしても時間はギリギリ、というより少し遅れる可能性が高い。
 搭乗予定の便は時間通りだったのだが、一便前の15時38分発の飛行機は出発が1時間遅れて16時30分に離陸していった。うーーん、運が良かったのかもしれない。
 ホノルル空港到着後タクシーが見つからない。人の多い International に移動しようとしても場所がわからない。なんとかタクシーに乗ったら乗ったで目的地までの地図は日本語だったので運転手には理解できない。前日下見をしたレストランが発見できない、などイージーなミス連発で結局 パーティには30分遅れで到着した。

ワイキキ−ホノルル空港間のタクシー代金 $30x2
ホノルル−ヒロ間の飛行機代金 $63x2
ヒロ− HARPER 間のタクシー代金 $10
レンタカー代金 $140
ガソリン代金 $12

   およそ4万数千円は少し高くついたかもしれないけど、面白かったからまぁこんなもんか。




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