えー。超絶有名なエッセイに似たようなタイトルの本文ですが、そんな大したものではなく、単なる雑文であることを示すものであります。散文とかそんなもんじゃなく、もっとおそろしいものの片鱗を味わえるような、そんな論旨も何も無い文章ですので、煙草でも喫みながらぼーっと読んでください。
煙草の話が出たついでに、非喫煙者の方のために煙草の喫みかたでもレクチャーいたしますか。昨今は煙草は害だとか人に薦めてはいけないだの、薦められても吸ってはいけないだの、果ては吸ったら死にますとか言われたりしておりますが、あれは全部嘘です。俺、死んでないっすよ。俺を死なせたらたいしたもんっすよ。ええ。
で、煙草のおいしい喫みかたですが、まず必要なものが煙草。そしてパイプの二つが絶対に必要なものですね。で、マッチやライターなどの着火具、タンパーと呼ばれる灰を押す棒があると大変に便利です。別に専用のものを用意しなくてもかまいません。ライターはそのへんのチャッカマンで、タンパーは鉛筆に画鋲でも刺して平らで丸い押し棒を作ればよいのです。あと、これは喫煙後の話になりますが、おいしく煙草をいただいたあとにパイプを手入れするためのモールというクリーナーも買い込んでおくとよいでしょう。これは“こより”の高級品みたいなもので撚った細い針金にコットンなどの毛がブラシのように植えられたものです。まぁ、このあたりはパイプを扱う煙草店などに行って購入するときに教えてもらえるでしょう。準備のほうはこのへんで。
道具が揃ったら、まず煙草をとりだします。煙草といっても20本300円で箱に入って売っているような下品な紙巻煙草ではありません。パイプで喫むために作られ、刻まれたパイプ用煙草です。この煙草葉を、ほぐしたりほぐさなかったりしてからパイプに詰めていきます。ほぐしたりほぐさなかったりってのは、お好みに応じてどうぞという事ですね。よくほぐすとまろやかで口当たりの良い煙が、あまりほぐさないと煙草感の強い濃い煙が楽しめます。パラパラとパイプに葉を詰めていき、満タンになったら更に少しづつ葉を加えていき、最終的にはパイプの火皿の八分目あたりまで、ちょっと固めのカステラぐらいの弾力になるようにします。パイプへの煙草の詰め方というのは重要な作業で、これに失敗するとその後1時間から2時間ほどの喫煙時間が楽しくないものになってしまう可能性もあるのです。詰め方が柔らかすぎると、煙草は急激に燃焼してパイプを焦がし、隣の煙草葉へ火が移らずに消えてしまいます。きつすぎるとこれは想像通り、空気が通らず種火をほどよく維持できません。慣れるまでは柔らかめに詰めておき、適宜タンパーで詰め具合を調整していくという方法をとるのも良いかもしれませんね。
ここまで終わったら、次に着火の儀式です。詰めた煙草の上にマッチの火かライターの火を置きます。火を当てようとしてはいけません。パイプを焦がしてしまうかもしれませんからね。葉の上に火があればよいのです。この状態で何度か強めにパイプを吸いこみ、煙草に着火します。葉の上の部分が満遍なく燃えて煙草の葉がモコモコと膨らんできたら、タンパーで押さえて炭になった煙草葉を平らに押さえつけます。煙草葉の上部が全体的に黒くなったら、喫煙準備の完了です。
最後の作業です。喫煙のための着火を行いましょう。先ほどと同じくマッチやライターの火を準備の整った煙草葉の上に乗せ、軽く火を吸いこみ種火を作ります。最初の儀式と違って今回は喫煙のための火種を作る着火なので、あまり強く吸ってはいけません。すっと吸いこみ、マッチの頭ほどの小さな種火が熾ればよいのです。この種火が周りの煙草葉を熱して発生する燻煙を味わうのが喫煙です。ここ重要ですからね。煙草の味というのは、燻煙の味です。熱によって揮発した葉に含まれる様々な物質を舌で味わうという、なんとも優雅な愉しみなのですよ。
優雅な味わいのためには、あんまり燃やしてはいけません。この小さな火種を生かさず殺さず、小さなままに保つのがパイプ喫煙です。具体的には種火が出来たらスプーン一杯分ほどの砂糖水をすするような感じで煙を吸いこみます。非常に微妙な量ですよね。でも、これでいいのです。口中に煙が入ってきたら、今度はそれをパイプの中に吹き戻します。これは吸ったときよりも大目になるように心がけます。以降は上記の吸う・吹き戻すを繰り返します。上手に喫めていると、煙が口中を満たして複雑で甘い味が広がるのがわかります。下手だと熱い煙が入ってきて舌が痛くなったりしますので、そのときは一旦手を休めて火種の状態を確認しましょう。煙草の煙を楽しむための基本はクール&ドライです。物を燃やしておいて無茶なことを言うようですが、これを目標にいきましょう。
ここでやっと煙草の味についてのお話になります。喫煙用の煙草は、収穫された後に乾燥し、それから重ねてまとめられ、様々な方法で醗酵・熟成のために保存されることになります。紅茶などの醗酵茶と同じですね。お茶は液クロ、煙草はガスクロなんです。同じなんですよ。植物の葉の成分を楽しむという点では。実際、煙草の葉だけで何も混ぜ物の無い煙草の煙は、極上品の玉露やお茶のような複雑な味と甘味の混じったものになります。紙巻ではほとんど味わうことはできませんけどね。この、高級品のお茶のような味を満腹になってしまうこともなく、口中だけで延々と1時間2時間と楽しめるのが煙草なのです。コロンブス一行がアメリカ大陸より持ち帰ってから爆発的にヨーロッパ、アジアへ広まったのも、この味を知れば納得できます。コロンブス自身は金とその権益にしか興味が無かったため、その部下が伝播の役割を果たしたそうですが、その後アメリカ大陸との最大の貿易量になってしまうとはかわいそうな山師です。
煙草の伝播に関してはまた面白いところで、戦争のたびに敵味方双方の兵士が喫煙の習慣を持ち帰っていったのだそうです。昔の、おたがいの顔の見える頃の戦争ってのは相当にのんびりしていたんでしょうか。その後クリミア戦争で、のんびりとパイプを燻らせる兵士に与えられたのが紙巻煙草で、ここから紙巻全盛の時代が始まります。この頃は「煙草の喫み方」を知っていて紙巻を喫んでいたので良かったのでしょうが、それから150年。簡単な紙巻とはいえ、味を楽しむよりはニコチン摂取のための肺への吸引物になってしまったのは残念なことです。そのせいでロブ・ライナーみたいなキチガイが強烈な嫌煙運動をやっているのかと思うともう。怒りが湧いてきませんか?ロブ・ライナー、てめえは嫌煙活動する前に痩せろよ飽食野郎。とか思いますよね。
痩せろよ。で思い出しましたが、喫煙をパイプに切り替えてから、私は痩せました。四六時中パイプを銜えているもんですから、間食を一切しなくなり、夜食を無駄にパクつくこともなくなったのです。近所の奥さん達からは「だんなさん、痩せましたよね」と大変な評判で、もう夏の短パン姿もこわくありません。(大阪府Oさん)
えー。深い思索と豊かな味わいを与えてくれる煙草の煙を楽しめるようになったところで、雑文の本文へとまいりましょうか。
昨年の「こうしゅうえいせい二重」の編集後記によれば、今年は甲州先生の作家生活31周年です。でも現実はというと、30周年記念パーティが開催されるのも実際の30周年も今年のようです。なんと。なんと現実というものは厳しく重々しいものなのでしょう。ちょっとぐらいオマケしようという気はないのでしょうか。甲州先生がんばってますよ。甲州先生すごく書いてます。連載を複数抱えながら書き下ろしの戦塵シリーズにくわえて日本沈没第二部以降は各種インタビューなどにひっぱりだこ。そりゃ2008年の新刊は戦塵一冊だったかもしれませんが、刊行リストではなく全作品リストを見てください。仕事してますよ。いいじゃないですか。35周年だぐらい言っても。ねぇ。追い抜け!新井素子ですよ。置いて
け神林長平ですよ。
えー。甲州先生の話に戻しましょうか。巻末の全作品リストをごらんください。前回の20周年である1999年中の仕事は「果てなき蒼氓」の連載開始と戦塵、雑誌掲載短編程度ですが、刊行リストをチェックすると、単行本としては「エリコ」刊行、「ヴァレリア・ファイル」「神々の座を越えて」新装本と、20周年を記念するかのように特徴的な作品がリストアップされています。
今回の30周年でも「法皇の親衛隊」は出るでしょうし、その後第2部開始?「単独行者」も今年中に来るかもしれませんね。楽しみな1年であります。
ひょっとしたら、谷甲州作家生活30周年を記念するために、あの作品がとうとう出るかもしれませんよね。アレですよ。アレ。待ち望まれているにも関わらず、出そうで出ないあの作品。
「星海の戦旗V」
えー?