宮古島ツアーの初日、それも出発してまもなく東京モノレールの浜松町駅のホームで、ぎっくり腰を発症してしまった。
モノレールを待っていて、クシャミをしたはずみだ。
そのときは腰がちょっと痛いかなくらいで、普通に動けた。念の為に羽田空港で湿布薬を買ってトイレで貼って、なんの問題もなく宮古島までたどりついた。
このときはまだ、さっきよりもちょっと痛みが増している気はしたけど、そんなに気になるほどじゃない。
ところが、宿に入って機材のトランクを開く。それから部屋に荷物を置いて水着に着替えようと、階段を上り始めたらいきなり脚が動かない。腰から下が重くて、脚が持ち上がらないのだ。手すりにつかまってなんとか体を2階まで引きずり上げる。そこからわずか数メートル先の自室が限りなく遠い。一歩一歩、ゆっくりと体を前に進める。悲鳴をあげるような痛さがあるわけじゃない。ただ動けないのだ。部屋にたどりついて体を少しも反らせることができないのに気づく。
結局、到着日のダイビングは中止した。皆がダイビングにいっている間に湿布をはりなおしベッドでPCを立ち上げ、会社のメールをみたり、友人にメールを書いたりしていた。
友人に聞いたら、みなぎっくり腰の経験者。大学時代の友人5人の内、ぎっくり腰未経験者は1人だけになってしまった。症状の重いのになると背中じゅうに注射されて唸りながら寝ていたとか、2日動けずトイレにもいけなかったという。それに比べれば自分のは軽い。じっとしていれば痛くはない。
とにかく、皆が帰ってくるまで横になっていた。潜っているとあっという間だが、待っていると時間が長い。まさかこんなところでPalm用にPCに入れてきたゴーダンナーや、CONTACT
Japanの翻訳データが役に立つとは思わなかった。
皆が帰ってきて夕食になる。場所は一階の食堂。起き上がるが、相変わらず脚が前に出ない。這うような速度でなんとかたどり着く。食事はきちんと食べて、ビールを一口だけ飲んで寝る。
皆はログつけした後、泡盛の一升瓶をもって屋上で星を眺めていたらしいが、こっちはそれどころじゃない。ツアーを棒にふらないためにもひたすら休んで回復を祈る。
翌朝、腰に痛みはあるものの、ゆっくりとなら歩ける。昨夜購入したバファリンの鎮痛・消炎剤を飲んで、とにかくチャレンジしてみることにする。無理だったら2本目からは部屋にもどって寝ていればいい。
前に平均年齢70歳のダイバーグループを見たことがある。なかには陸上では杖をつかないと歩けないような人もいた。スクーバダイビングは、ああいう状態でもできるのを知っているから、それほど不安なわけではない。ただ、去年の与論島のような激しく泳ぐダイビングは無理だ。いつもなら、ビデオカメラを持ち込むのだが、さすがに危ないのでやめておく。今は身の安全が一番である。
今回、アルミタンクのせいで、ウェイトが通常の2キロ増し。昨日潜った経験を聞くと6キロでもいいと言われる。これだけの重量を腰にぶら下げるのは辛すぎる。というわけで、4キロはBCDのポケットにいれて、2キロだけウェイベルトにつける。さらに重機材は水中でつけることにする。機材のセッティングはスタッフにまかせた。水に飛び込むと、脚にかかる衝撃が腰に伝わる。大きな痛みがあるわけではないがヒヤリとする。水に飛び込む衝撃の大きさを実感する。水面でBCDを着せてもらう。方法をすっかり忘れていたが、腰が動かないのでは、BCDに腕を通すことも、上に乗ることも難しい。
なんとか潜行。機材がぬれていないので沈みにくい。ヘッドファーストに体勢を変えると、少し腰が痛い。水底までたどり着き、体を水平にして顔を前に向けると、背中が反って辛い。ダイビングの姿勢は腰によくない。
今回、バイオフィンの威力を実感した。腿から脚を動かすのが辛いので、膝から下だけでキックをしていたのだが、これで十分進むのだ。これがミューだったらきっと動けなかっただろう。体を立ててホバリングしていると、腰は凄く楽だ。アルミタンクなのも効いているかもしれない。
一本潜って、浮上し、水面で機材をはずしてもらう。何を見たのか殆ど覚えていない。すさまじいエアの消費量だった。久しぶりのダイビングなのに加えて、凄く緊張していたのだろう。カメラも持っていないのに。
まぁ、万全とはいえないが、大きな問題もなし。自信をつける。
次からは、機材をつけてジャイアントストライドでエントリーした。衝撃に少し気をつけて、後ろ足の膝から水に入る感じ。ジャアントというよりはチョットストライドエントリーだったけれど、腰への衝撃は結局最終日までなくならなかった。
翌日からは、機材も自分で組むようにした。ただし、かならず尻を地面につける状態で。ウェットを着るときも同じ。必ず腰をおろして着る。後は、とにかく座る。どこでも座る。
いつもだとグループの後のほうを泳いでいるのだが、今回は遅れを取り戻すのがしんどいので、比較的先頭近くにいた。そのせいで、ほかの人より見ている魚が少ないかもしれない。地形優先のポイントのガイドってのはよう・・・。
暇があると体を起してホバリング。魚影が濃いどころの騒ぎではないほど、魚が満ち溢れているので、ボーっとながめているだけでも十分楽しい。
日々、腰の状況は改善し、最終日には小走りができるくらいには回復した。結局、合計10本潜った。他の人より初日の1本分が少ないだけだった。
多分、ダイビングをしないで寝ていていたら、もう少し早く回復したかもしれない。が、あんな南の島で自分ひとり動けないで寝ていたら、精神が病む。だから、これでいいのだ。
というわけで、今回の教訓。
ダイビングは、腰にそれほど悪くない。
バイオフィンは正義。
クシャミは壁に手をついて。壁がないときは上むいて。