擬装隕石ミサイル「軍司2型」

康太[HALAZING STORIES編集部]みのる

●背景
 外惑星連合軍が航空宇宙軍と戦端を開くにあたって、低重力高軌道を利用した安価な運動エネルギー兵器の使用を念頭に置いていたのは想像にかたくない。特に低重力小惑星からの鉱物資源輸送に使用されていたマス・ドライバによる地球爆撃は航空宇宙軍の本星を脅かす手段として開戦以前から大いに注目された。
 ただし「地球の大規模な環境破壊は、人類の故郷にして太陽系唯一の自然な可住惑星を失う事につながる」という暗黙の了解が外惑星連合軍内部にもあり、また従来のマス・ドライバの性能の問題ともあいまって、投射する物質は比較的小型の隕石弾と決められていた。実際に、開戦当初は太平洋上に数発の隕石を落とすのに成功し、未確認だが北米大陸で森林火災を起こしたともいわれる。
 だが隕石弾は、軌道が一定である事・物資輸送用のマス・ドライバをそのまま流用している事などの理由から、地球側にマス・キャッチャ・ネットによる防御網を簡単に張られてしまい、以後隕石爆撃は効を奏さなくなった。それどころか、隕石弾の発射基地がトロヤ群の鉱物資源鉱山であるため、キャッチした隕石をそのまま地球軌道上で資源として逆に利用されてしまうという情けない結果を生んだのだった。
 そこで外惑星連合軍がとったのが、隕石に偽装したネット破壊ミサイルを隕石弾の中に紛れ込ませるという作戦である。この偽装ミサイルは、発案者のイオ資源局局員カワマタ氏のファーストネームを取って「軍司1型」と命名された。
●「軍司1型」の性能
 「軍司1型」はマス・ドライバによって射出され、地球周辺に到達するまで眠り続ける偽装隕石ミサイルである。
 それ自体が爆弾であるだけでなく、その前部には自力推進式の爆雷が3発装備されている。爆雷は、地球周辺に達しタイマーが働くと同時に前方に射出される。それぞれの爆雷は、推進剤の違いにより「軍司1型」本体から少しづつ距離を置いて爆発する。「軍司1型」は爆発した爆雷の3重の破片群に守られつつネットに衝突、これを爆砕するのである。
●その効果
 「軍司1型」は作りの粗雑さのため、マス・ドライバ射出時の急加速で断線を起こしやすく、栄えある1号機は作動しないままあっけなくネットにかかり捕獲された。以後航空宇宙軍は、より地球から離れた隕石軌道上にネットを張りタイマー作動前の「軍司1型」捕獲に成功。そのため外惑星連合軍は、新しく「軍司2型」を開発せねばならなかった。
●「軍司2型」の性能
 「軍司1型」の失敗に学び、新機種はより臨機応変に事態に対処し得るようにタイマーを廃止、新たに急遽設計された「人工建造物識別AI」と、自力で軌道を変えられるようにロケットエンジンを搭載、防御用爆雷も6発と2倍に増強された。
 これにより捕獲ネットだけでなく、隕石軌道周辺の敵艦船をも自動的に認識し、攻撃し得る能力を備えるに至ったのである。
 この兵器は外惑星連合軍上層部により有用と判断され、即座に量産、大量射出が開始されたのである……が、当初の「安価な運動エネルギー兵器」というコンセプトはいつの間にか何処かへ消えてしまった。
●その効果
 「軍司2型」は期待通りに航空宇宙軍の捕獲ネットを破壊。地球赤道地帯は一時的に隕石弾の爆撃にさらされた。その最大の戦果として、西サモア諸島を数発の隕石弾が直撃し、出漁中の島民1名が心臓マヒで死亡した。
 ただし外惑星動乱中に作動した「軍司2型」はこれ1機のみであり、その直後には終戦が訪れたのであった。
 だが、すでにこの時トロヤ群基地より射出され、終戦後の現在もトロヤ群と地球間の何処かを敵を求めて飛び続ける「軍司2型」は全部で400機余りあると言われている。
 これらは、ネットを張ってもすぐに壊すわ軌道の途中で迎撃しようとすれば反撃してくるわで、最後の1機が地球に落ちるまでの数十ヵ月間は事実上対処のしようがなく、そのため、隕石弾軌道周辺および地球周辺を航行する艦船は「軍司2型」によって無差別にその攻撃を受ける可能性があり、今や天災と化してしまった隕石弾とともに、宇宙船乗り達からは「通り魔軍司」と呼ばれ恐れられている。  

軍司2型




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