特設砲艦「憂国」

林[艦政本部開発部長]譲治

●はじめに
 戦争が総力戦の時代となると生産ラインをいかに効率良く運営するかが、勝敗の分れ目になる事がある。  しかし、どこの国のどの戦争でも生産ラインを文句なく合理的に運営できた例は希である。
 弾薬は余るほどあるのに銃の生産が追い付かないとか、戦車はあるのに燃料が無いなど。
 例えば大戦中の戦闘機「飛燕」がある。この飛行機は日本では珍しい液冷エンジンを採用した戦闘機であった。
 この「飛燕」確かに優れた飛行機なのだが、機体の生産に比べるとエンジンの生産は滞りがちであった。
 そのため最後にはハー40エンジンが無いために機体だけが余ると言う事態が生じてしまった。
 結局この機体はやはり余っていたハー112エンジンを付けてキー100となったのであった。ことほどさように生産のアンバランスをなくすための努力は常に図られるものである。
●開発の背景
 外惑星動乱で最も活躍した兵器は、爆雷であった。爆雷と言ってもセンサーもブースターを持っている一種のロボットである。
 爆雷は仮想巡洋艦で目的空域に運ばれ射出される。そして自らの判断で爆発する。しかし、その本質は核爆弾に他ならないのだ。
 単純に言うなら仮想巡洋艦は核爆弾を運ぶために存在するとも言えるだろう。
 そのため爆雷の部品は量産しやすいことを大前提に設計された。さすがに核物質は専門の施設で扱ったがそれ以外の部品はそうではない。
 どの部品もごく小規模な工場でも生産できるように、安い材料をつかった単純な構造になっていた。
 このため爆雷の生産は外惑星動乱の最中、常に必要なだけの数を生産できたのであった。
●開発の原因
 このように爆雷の生産は非常に円滑に行われていた。ところがこれと対照的なのが宇宙船の生産であった。
 航空宇宙軍に比べ外惑星連合軍の宇宙船生産力が劣勢だったのは「サラマンダー」以外にフリゲート艦を開発できなかったことでもわかる。
 その主力は仮想巡洋艦という名前の貨物船であり、しかも消耗された宇宙船は容易に補充されなかった。
 このため倉庫には爆雷が過剰に在庫しているにもかかわらずそれを運ぶ宇宙船は不足していた。
●特設砲艦「憂国」とは
 20世紀中ごろオリオンという宇宙船が計画されたことがあった。連続的に核爆弾を爆発させその反動で宇宙船を進ませると言う物だ。
 はたしてこの計画を知ってか知らずか、大量の核爆弾の在庫をかかえた爆雷工場ではこれと同じ原理の宇宙船を建造した。
 核融合エンジンを使った宇宙船は建造出来なくても核爆弾推進の宇宙船なら建造可能との判断からである。
 核融合よりは効率は劣るが、ともかくそれにより爆雷を運ぶ宇宙船が手に入るのである。
 そして燃料となる核爆弾は腐るほどあるのだ。
●特設砲艦「憂国」の構造
 特設砲艦「憂国」はフリゲート艦などからみると驚くほど単純な構造であった。
 ともかく宇宙船など建造したことが無い連中が作った訳で、その構造は専門家が想像もしないものであった。
 まず、おわん型の反動板があり、その上に核爆弾の入ったドラム型弾倉があり、そこから延びたアームの先にセンサーがあった。
 武装としては弾倉の上に爆雷も発射出来る360度回転可能なレールガンが一つついていた。
 これらの部品は驚くべきことにほとんどが爆雷の部品の転用であった。
 姿勢制御用のブースターしかり、燃料の核爆弾しかり、センサーに至っては信管を使用していたのだった。

憂国

●特設砲艦「憂国」の戦果
 宇宙船が無い!という爆雷工場のフラストレーションから建造された特設砲艦「憂国」ではあったが、さすがに有人では無かった。
 さて、その戦果だがそもそも戦果とはなんであろうか? ともかく敵宇宙船を撃破すれば戦果だ、というなら特設砲艦「憂国」も数多くの戦果をあげている。
 ただ、その戦果のあげ方は建造した人間が期待した形とは大きく異なっていた。
 敵宇宙船と交差する軌道にレールガンで爆雷を射出するのが特設砲艦「憂国」の目的であったのだ。
 ところがレールガンとセンサーの制御に問題があったらしくレールガンを作動させると同時に特設砲艦「憂国」は自爆した。
 特設砲艦「憂国」の総ての核爆弾が一度に爆発したわけで、これに巻き込まれた宇宙船はともかくすべて破壊された。
 外惑星動乱末期に航空宇宙軍が遭遇した大型爆雷「激光」、この正体こそ特設砲艦「憂国」であるとするのが戦後、専門家の一致した見解である。
●特設砲艦「憂国」名前の秘密
 まったく個人的な事ですが、この3月に原田[事務局長]晋一氏が来道されました。
 そのときの話題に「降伏の儀式にでる大天使、アメリカだから大天使だがもし日本で建造したら」というのがありました。
 パフェを食べていた林、原田の口から同時に出た名前はただひとつ。「憂国!」
 こうして特設砲艦「憂国」は生まれたのでした。




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