パワードスーツの設計を志す技術者は多い。
関西工科大でも、宇宙工学科の修士論文の3通に1通が、パワードスーツに関するものらしい。当異常兵器カタログでも、極めて示唆にあふれた事例報告がなされている。
サカモト・エンジニアリング社は、航空宇宙軍の委託を受けてパワードスーツの開発を行なっていた。航空宇宙軍は、極秘に入手した「鉄の処女」の存在に、大きな脅威を感じた。
エリヌス事件の後、発足した陸戦隊の主力装備として、パワードスーツが考えられたのである。
「鉄の処女」は、既存のテクノロジーを、最大限に活用した傑作である。だが、それにも、ひとつの落し穴が残っている。
従来のパワードスーツは、パワーソースを一体化することにとらわれ過ぎていた。そのため、パワーソース自体の重量、およびシールドが実用を阻むネックとなっていた。
サカモト・エンジニアリング社は、発想の転換を行なった。
「弁当が重いのなら、別に持っていく必要なんてない。」
当時の開発主任は、そのように語っている。
弁当箱つまり、パワーソースをスーツより分離することで、上記の問題点は、いとも単にクリヤできる。そして、「鋼鉄の処女」の弱点である装甲の問題をも、解決してしまう。
それが、「光の天使」計画だった。
身長は、2メートルから3メートル。外観は、アメラグの防具を着けたマウンテンゴリラといった感じ。お世辞にもスマートとは言えない。
背中には、バックパックをしょっている。それぞれ2メートルほどの折り畳み可能な翼がついている。その翼ゆえ、この計画は、「光の天使」と命名された。
外装は、チタンとセラミックの複合装甲で覆われている。そのため自重は1トンほどに達する。さらに推進材タンクやら兵装を加えると、歩兵戦闘車なみの重量となる。
装備としては、液体装薬を使った大口径機関砲、劣化ウラン弾を使ったガトリング砲、ロケットランチャーが用意されている。パワードスーツひとりで、MBT(主力戦車)なみの戦闘遂行能力を要求している。
アクチュエータは、超伝導リニアモータを使用している。これは、消費電力さえ気にしなければ、高出力、制御の容易性、耐久性と三拍子そろっている。(なお、小型軽量の電磁アクチュエータは、既に20世紀末には多数出現していた。シリコンチップ上にモータを形成するシリコンマシニングといった技術も、当時から存在していたものだ)
電力の供給は、バックパックの給電翼に、レーザーを照射することによって行なう。まあ、一種の太陽電池である。太陽光のみのもとでも、短時間の行動が可能となっている。(よく持って3分間)
このレーザーは、補助移動手段として使うレーザー加熱エンジンの熱源ともなる。適切な推進材を選ぶと、スーツのみで大気圏離脱することができる。(質量比は、3!)
レーザー照射源は、そのミッションによって、選択することができる。
惑星、および外惑星系衛星の降下作戦では、周回軌道上に置かれた母艦によって行なれる。その際、反射衛星を射出して、隠蔽によるロスを防ぐことが考えられる。
それに続く、惑星上でのミッションでは、後方の支援車両、支援機による照射が、行なわれる。
疑問が、あるかも知れない。全てのミッションで、そのような支援が可能なのかと。 答えは、次のとおりだ。
現代戦では、よほど特殊なミッションでないかぎり、歩兵単独の投入がされることはない。少数のコマンドの侵入でさえ、航法衛星やら支援機が飛ぶ時代である。
少なくとも、航空宇宙軍には、寄せ集めの外惑星と違って、戦術的な支援を行なう能力はあった。
問題点としては、常にレーザーと共に行動するため、光学的に極めて発見され易いという点。そして、照射源との間に煙幕でも発射されたら、一発で行動不能になる点である。
航空宇宙軍のとある技術参謀は、次のようにぼやいたと言われる。
「欠点のない技術なんて、あるわけないのだ。」
結局のところ、「光の天使」計画はキャンセルされた。
上記の問題点もあったが、実のところは、改造兵士を作戦に投入するV計画<(ヴォルテ・シリ−ズのこと)に、横槍をさされたというのが、真相らしい。
パワードスーツの実戦投入は、第二次外惑星動乱を待たなければならなかった。
サカモト・エンジニアリングは、現在も、航空宇宙軍の委託研究を続けている。研究内容については、軍事機密の厚いベールに包まれている。