タイタン攻撃次期攻撃機「タルタロス」

安達[司令部付運転手]裕章

 航空宇宙軍が、「土星系タイタンを攻略する」ただそれだけの目的で組織した航空兵力集団が、タイタン航空隊、フライングタイタンズである。
 航空隊と言ってみても、戦力として保有していたのは、航続距離が長いだけが取り柄で、機銃一つ積んでいないクロノス型が6機たけだった。
 それに対し当時のタイタン政府は迎撃用の航空隊を配備しており、当然のごとく、初めての作戦行動を終えた時に残っていたクロノスは、たった1機という惨状たった。
 幸いにして、タイタン政府との講和が実現して、2度目の出撃は無かったが、もしそうでなければ、フライングタイタンズには1機の飛行機も残っていなかったであろう。
 航空宇宙軍もクロノスの性能で満足していたはずもなく、クロノスの開発で得られた技術をもとに、本格的なタイタン仕様の攻撃機を開発していた。
 その中でも特に異色の存在が、タルタロスである。

●これはとんな飛行機か
 タルタロスの外見は、21世紀初頭より、地球で運行されていた大気圏上層部を飛行する極超音速機と似通っている。
 これは、もともとタルタロスが強行偵察用として開発されて、高速飛行性能に重点を置いた設計となっていたことと、赤外線センシングよりも写真撮影を重視し、メタンの雲より下を飛行できる性能が求められていたことによる。
 つまり本機のコンセプトは、メタン濃度の薄い低空を超音速で飛行し、写真撮影ののち、迎撃機を振り切って離脱することであった。
 高速で飛行すれば、単位時間内に取り込むメタンの量を増やすことになって、濃度が薄いのをカバーすることが出来ることもあり、タルタロスはますます高速になっていった。
 桔局、機体の表面に「炭素−炭素系傾斜複合材料」を用い、エンジンはメタンブリーディングのスクラムジェットを4発搭載、外形はウェーブライティング効果を考慮した、極超音速機に近いものとなった。
 その結果、タルタロスは地上数百mの超低空を、最大マッハ7という想像を絶する速度で飛行することが可能になった。
 その時の空力加熱は3千3百度を越えるが、タイタンの気温が低く、また機体に降り注ぐメタンの雨の気化熱を冷却に利用する巧妙な設計も手伝い、これ程の速度て巡航しても耐えることができた。
 そればかりか、機体の表面のすぐ内側に張り巡らされた配管に液体酸素を流すことによって、5千産まではなんとか大丈夫だった。これは秒速2キロまで加速出来ることを意味し、タルタロスは単独で大気圏を離脱できることになった。
 このように、とにかく高速性能にのみ力点が置かれたタルタロスだったが、これは同時に、究極の地上攻撃機としての(予期せぬ)可能性を生んだ。
●究極の地上攻撃法
 飛行機が超音速で飛行すると、後方にソニックブーム・衝撃波が発生する。
 衝撃波は、急激な圧力の上昇をを示す圧力波を伴っており、この圧力波が地上に到達すると窓ガラスが割れたりする被害がでる。
 この圧力波は、衝撃波が強いはど、つまり発生源の飛行機の速さが速いほどに大きくなり、タルタロスのようにマッハ7という速さでは、窓ガラスが割れる等生易しいことでは済まなくなる。
 しかもタルタロスは超低空を通過することになるため、大気による圧力波の減衰も殆ど無視できる。
 シミユレーションでは、タルタロスがマッハ7で通過した後には、幅数十m、深さ4〜5mの溝が、延々と刻まれると予想された。
 更に、圧力波と同時にやって来る断熱膨張は、機体の航跡に沿って局地的ながらも強力な低気圧郡を発生させ、液体メタンの嵐を巻き起すことになる。
 もしタイタンの工場地帯をタルタロスが襲撃したならば、大地は縦横に切り刻まれ、施設郡は壊滅的にまで破壊されるぱかりか、機体の通過に少し遅れてやってくるメタンの嵐が、破壊された施設より漏れでた酸素と反応し、文字通り跡形もなく焼き尽くす大火災を発生させることになったであろう。
 このタルタロスは超低空を極超音速で飛来するために、地上砲火で迎撃出来る可能性は少なく、迎撃機が発進しても追いつけるわけがない。防御する側としては大変厄介な存在となりえた。
 大気との摩擦熱(空力加熱)の為に大量の赤外線を発生するとはいえ、時速にLて4千キロを越える飛行機の迎撃は困難だったろう。
●タルタロスその後
 機体は試作にまでこぎつけていたタルタロスだったが、メタンに液体酸素を噴射して燃焼させるスクラムジェットの開発に手間取ったのが影響し、試作機のロールアウトはタイタン政府との停戦に遅れること1か月だった。
 しかし、その技術はタイタンでの民生用シャトルに転用され、大幅な技術革新をもたらしたようである。

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