空の大要塞「陰山」

林[艦政本部開発部長]譲治

●はじめに
 さて、空の大要塞とはなんであろうか? 飛行機に詳しいひとなら、あるいはB−17とかB−29のような爆撃機を連想するかもしれない。
 だが今回紹介する「空の大要塞 陰山」はけっして爆撃機ではない。その名が示すとおり、空に浮かぶ要塞なのだ。
●空の大要塞開発の動機
 これは航空宇宙軍が恒星の世界に迄その勢力権を広げたことと大いに関係があります。
 確かに火力にモノをいわせて多くの惑星を占領したものの、その惑星に対する影響力を維持するためには、どうしても駐屯軍が必要になります。これはそのまま、ただでさえ少ない陸上兵力を、駐屯軍の形で割くことを意味します。これでは進出すればするほど戦力が駐屯軍の形で減少すると言う事にもなりかねません。
 一つの惑星に100も200も地上基地を設置することが無理な以上、少ない兵力でいかに、占領した惑星を維持するかに問題は絞られます。
 そして、その答えの一つが、この「空の大要塞 陰山」なのです。
●名前の由来
 念のために申し上げるが、「空の大要塞 陰山」は、人外協が誇る肉体派イラストレーター、「空の要塞」氏とは関係は無い(事になっている)。陰のなかに山が入ってしまう位に巨大なので、陰山と言うのであります。まぁ、直径が20Kmもあるんだから当然か。
●「空の大要塞 陰山」とは
 「空の大要塞 陰山」の正体を言ってしまうと、これは直径20Kmの核融合熱気球に他ならない。核融合の熱エネルギーで、要塞一つを気球に吊すのであります。しかし、気球などを使って大丈夫かと当然の疑問をお持ちになるかたもいるでしょう。大丈夫、「空の大要塞 陰山」こそ難攻不落の空飛ぶ城なのです(ギガントかこれは)。
●「空の大要塞 陰山」の飛行高度
 「空の大要塞 陰山」は気球ではあるが、飛行高度は通常の成層圏ではない。地球型の惑星で主に地上から40から80Kmの高度を飛行する。まぁ、こんな高度だから核融合まで使ってせっせと、温めなければならない訳だが。
 「空の大要塞 陰山」が、この高度をとるのには、理由がある。この高度は航空機にとって意外な盲点なのである。つまり、ジェット機では高すぎて飛べない。逆に人工衛星などでは低すぎる高度なのである。むろんやってやれないことはない。しかし、ジェット機を使うにしろ、人工衛星を使うにしろ、そのエネルギーロスは馬鹿にならない。
 さらにもう一つ理由をあげると、この高度では気球でも高速度が出せるのだ。「空の大要塞 陰山」は基本的に軟式の気球だが、大気密度が薄い上空70Kmでは、なんとマッハ22までの速度が期待できる。これは地球型惑星では衛星軌道に乗れる速度に近いのだ。機動力が発揮でき、防御の面でも有利なこの高度を利用しない手はありません。
●では「空の大要塞 陰山」の機動力について
 「空の大要塞 陰山」は、移動にさいして、レーザーパルス推進を採用した。この機関のプロセスは内燃機関とよく似ている。まず、燃焼室に外気が吸収・圧縮される。この気体にレーザーを照射すると気体が爆発的に膨張し、推進力を得るのである。ちなみに、なぜ気体が爆発的に膨張するかと言うと、気体中の塵などが、レーザーにより蒸発するからであります。気体が膨張したあとは、またおなじプロセスを繰り返すのである。
 なお、「空の大要塞 陰山」の速度がある程度に達すると、ラムジェットにより圧縮プロセスは不用になる。
 あなたには想像できますか?直径20Kmの気球がマッハ22で飛行する光景を
●「空の大要塞 陰山」の裏技
 変則的だが、「空の大要塞 陰山」の武装について説明する前に、これの裏技を紹介しよう。
 駐屯軍に対する抵抗は、都市部よりもむしろ、農村部、特に山岳付近では、その掃討も容易ではありません。そのような場合でもこの「空の大要塞 陰山」は、大きな威力を発揮します。と言ってもなにをどうするわけでもありません。抵抗が激しい地域の上空で、ただ浮かんでるだけです。しかし考えてもいただきたい。「空の大要塞 陰山」は直径が20Kmもあるのです。つまり、地上には少なくとも20Kmの日影が出来る。そこのゲリラがどんな生活をしているにせよ、その地域での農業生産は期待できません。指一本動かすことなく、相手の食料供給を絶つ事が出来るわけです。
●「空の大要塞 陰山」の構造
 「空の大要塞 陰山」は、外からみるとずんぐりとした円盤型をしている。大体、高さと直径の比は1:2程度であろう。
 しかし、それはあくまで気球の大きさにすぎない。つまり「空の大要塞 陰山」は、その大部分が高温の空気であるわけだ。本質的な要塞の部分は、ごく一部にすぎないのである。ごく一部と言っても、数百メートルはあるのだが。まず、直径20Kmの円形の枠があります。これは構造的には釣橋を輪にしたような物とお考えください。この場合の応力は何かといいますと、気球内部の圧力です。(総ての構造はこの圧力で支えられていますから、圧力が減少することは、即、要塞の崩壊を意味します。が、これについての防御策は、後述)この枠には数十箇所に渡ってレーザーパルス推進が取り付けられています。この推進装置ブロックから要塞中央に向けて約10Kmにわたる梁が巡らされています。これも構造的には釣橋です。この梁は推進装置に電力を送るだけではなく、気球内に温風を送るのに使われます。また小型のリニアモーターカーも連絡用に走っています。これらの梁がすべて集まる所にコアブロックがあります。

「空の大要塞 陰山」全体俯瞰図

  • 巨大熱源体である「陰山」の上方には、本来こんな高空には存在し得ない積乱雲が出現する。
  • 「陰山」の表面は高性能多機能膜でできている。これは耐候性・耐熱性はもちろんのこと マイクロマシンを組込むことにより反射率調節(対レ−ダ−黒体から対レ−ザ−完全鏡面まで可能)や自己修復機能まで有する。
●「空の大要塞 陰山」のコアブロックとは何か?
 コアブロックは「空の大要塞 陰山」のもっとも要塞的な部分です。ここには要塞内の人間が生活を維持するための施設はもとよりエネルギー源の核融合炉が納められている。 コアブロックそのものには武装はありませんが、この部分が最も重要な場所である事にかわりはありません。
●「空の大要塞 陰山」の防御
 防御に関して言うなら、先に述べたように、その飛行高度があります。それと同時に「空の大要塞 陰山」の巨大さそのものが、システムとしての要塞防御に役立ちます。大昔のツェッペリン飛行船ならいざしらず、飛行船は基本的に銃撃には強い機械であります。それは例えば昔の飛行船でもライフルで撃たれながら無事大西洋を横断した事でも明らかでしょう。考えてもいただきたい、直径20Kmの飛行船を墜落させるためにはどれほど巨大な穴をあけなければならないかを。通常の対空火器ではまったく無力です。 もちろん核ミサイルと言う方法もなくはない。しかし、その場合、「空の大要塞 陰山」の対空レーザー網をかいくぐるのは不可能であろう。大出力のレーザー砲と飛行中の宇宙船をも捕らえる正確な火器管制システムを「空の大要塞 陰山」は山のように装備しているのである。
●「空の大要塞 陰山」の武器
 さて、やっと「空の大要塞 陰山」の武装のお話です。これには大きく分けて二種類あります。つまり、レーザー砲と飛行機です。
 しかし、この飛行機とレーザー砲は無関係ではありませんので、レーザー砲から説明しましょう。 「空の大要塞 陰山」に装備しているレーザー砲は、波長が自由に選べる自由電子レーザーを採用しています。 レーザー砲を採用する場合問題になるのが大気の存在と火器管制システムですが、高度70kmでは大気も薄く、守備範囲も比較的限られているため実用上は問題はありません。 レーザー砲の役割は、武器としてばかりではなく、地上にある宇宙船を軌道まで打ち上げるのにも使用します。この場合は赤外線レーザーになりますが。 この事は同時に占領した惑星においては、大気圏外への交通を「空の大要塞 陰山」が押さえている事も意味します。
 レーザーシャトルは、重力の井戸から物を持ちあげる場合、軌道エレベ−タ−を除けば最も経済的なシステムです。ですから地元資本は、宇宙での経済活動に関して「空の大要塞 陰山」に依存せざるを得ません。これがまた反乱の予防にもなるわけです。 さて、「空の大要塞 陰山」は航空戦力として飛行機を多数配備している。この点で 「空の大要塞 陰山」は空母としての働きもあるわけである。 この場合、問題となるのは作戦行動終了後にどうやって戻るかである。しかし、これの答えはもう説明したに等しい。帰還のさいには飛行機は「空の大要塞 陰山」からレーザー光線のサポートを受けるのである。また、天候などの関係でレーザーが使えない場合、シリコン単結晶の繊維で作られたワイヤーを「空の大要塞 陰山」から卸し飛行機を回収する事も可能である。  なお、ついでに言うとこのレーザー光線の出力で台風を発生させることも可能だといわれる。
●「空の大要塞 陰山」その後
 以上のように画期的な兵器であったにもかかわらず、「空の大要塞 陰山」は実用化されなかった。理由は、「気球だって! この現代に」という参謀総長の一言が原因だそうである。
エア・インテ−ク周辺拡大図及び搭載戦闘機
  未来予測フィ−ドバックとアクティブコントロ−ルを組込んだ膜構造制御技術を応用した搭載戦闘機。
容積の60%が可変、つまり全体の形状可変が極めて自在。
燃焼室へのレ−ザ−サポ−トによるロケット推進で飛出す。
 




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