戦闘母艦ヒドラ

林[艦政本部開発部長]譲治

●はじめに
 ゼロ戦といえば、速度・運動性・火力に優れた名機として、知られている。だが、この他にもゼロ戦が持つ名機の条件として、その航続距離を忘れるわけにはいかない。逆に言うなら、戦闘能力と航続距離を両立し得たからこそ、ゼロ戦は名機なのである。つまりこの二つの相反する要求を実現することは、非常に難しいのだ。
 外惑星動乱において、外惑星連合はサラマンダー以外のフリゲート艦を実用化することができなかった。惑星間を移動できる仮装巡洋艦はあったが、戦闘能力は劣っていた。火力と機動力をもったバルキリータイプの兵器は、残念ながら惑星間を移動するには実用的とは、言い難かった。  そこで・・・。
●何を目的とした兵器か?
 目的も何も、通商破壊以外に何があるのか? と、結論を出すのはいささか早計です。戦況がきわめて不利になった段階で、ヒドラは開発されました。そのときにヒドラに求められたのは、地球に対して心理的に大きな脅威を与えることであった。停戦交渉の際に、出来るだけ有利な立場でのぞめるような、既成事実が求められたのだ。実際には対等な立場で交渉できるかどうかが、問題ではあったのだが。
●ヒドラの開発まで
 戦況が逼迫したおりに開発が進められた兵器だけに、何よりも短期間に開発を終了する事が求められた。従って兵器としての性能は必ずしも最善とは言い難い。ただヒドラの基本的なコンセプトは開戦前から計画されていたため、実際の開発にあたっては、その時の設計を大幅に利用したようである。とは言え、設計の大幅な修正は免れなかったようだが。
●ヒドラのシステムとは
 ネタを明かせば、実に単純な事なのである。ヒドラとはタンカーにバルキリータイプの戦闘艇を9つ搭載した戦闘艦なのだ。もちろん9つの戦闘艇はバルキリーではないから当然、有人である。火力と加速に優が、足が短い戦闘艇を目的空域で散会させ、9つの火器で目標を攻撃するのが、ヒドラの基本的な戦術だった。  タンカーに搭載されているときはいいが、作戦行動に入った場合、推進剤の関係で戦闘艇の活動時間はどうしても限られる事になる。無理に加速をしても、目標となる宇宙船の方が推進剤を多量にもっているので、短時間に勝負をつけなければ、戦闘艇はおいてきぼりを食らう。下手をすると推進剤を使い切って、母船に戻れなくなる可能性もあるのだ。したがって、9つもの戦闘艇が必要なのだ。
●ヒドラそのもの
 ヒドラ自体には戦闘能力は無い。では単なるタンカーかといえばそうではない。  ヒドラには9つの戦闘艇を管制するという重大な任務があるのだ。従ってヒドラには、高感度のセンサーシステムが装備され、攻撃目標と戦闘艇の状況を常に把握し、適切な指示を出す能力が求められた。  実は、ヒドラプロジェクトが計画された当初は、母艦および戦闘艇は同一の戦術システムを搭載し、総て無人で行う予定であった。つまりヒドラプロジェクトとは、戦闘艦開発プロジェクトでありながら実質は、戦術システム開発プロジェクトだったのである。これは人的な被害を最小限に抑えるためであるのと、大量生産による使い捨て戦艦というコンセプトに基づくものだったらしい。  しかし、戦局の悪化と供に開発の重複を避けるため、戦術システムはバルキリー計画に絞られ、ヒドラプロジェクトは事実上、中止された。そういうわけで、この戦闘母艦ヒドラは戦術システムの代わりに人間が乗り込むことに成ったのだった。
●で戦果の方はといいますと
 当初の無人戦闘母艦のコンセプトは、いつの間にか戦闘母艦という言葉だけが一人歩きをしてしまう結果に成った。
 なにしろ戦争末期に余ったタンカーに、余ったバルキリーのブースターを載せたというキワモノ宇宙船である。建造されたのは一隻だが、初陣で敵輸送船を撃破したものの、護衛の敵フリゲート艦からの攻撃を避けるためヒドラは無線封鎖をやってしまったという。そのため、母船からのバックアップを受けられなかった9隻の戦闘艇は、総て回収不能になったという。
 兵器というのは帳尻さえ合わせればよいと言う物ではない事を示す一例です。
ヒドラ

<索敵を終了し、攻撃態勢に入るヒドラ>

 後方の円盤は索敵の最終段階に用いられる使い捨てパッシブレ−ダ−である。
 ヒドラにとって最も効率の良い攻撃方法は敵の予想進路に交差する形でバルキリ−を配置するものだと思われる。ゆえに画面のヒドラはすでにバルキリ−を一機放出した後で、これからバルキリ−の最大射程の約1/3である三千から四千qごとに斜に交差するよう配置するものと思われる。
 上記の攻撃法は機動爆雷の運用と基本的に変らない。爆雷の代りにバルキリ−をばらまくわけである。 バルキリ−は元来プロペラントタンクは高Gを出す為に使い捨てであるが、有人型では帰投後の再出撃のため固定式で、加速も最大10G程度に押えられたと思われる。
 ヒドラの索敵手順は理想的には以下のように行なわれたと考えられる。

  1. 大型のシュミットカメラにより全天走査、画像フィ−ドバックにより天体 中より移動目標を選定。
  2. 艦首の高感度望遠鏡(径10b)により走査し、敵船型デ−タがあれば、画 像照合方式によりパッシブに距離測定。(超遠方の目標に完全に焦点を合せ るのは不可能だが、コントラストのボケぐあいから理論上の焦点を算出し、 測距する)
  3. 敵が加速中ならば、赤/青方偏移による測距を行なう。
  4. 使い捨てレ−ダ−放出、敵電子情報収集。
  5. バルキリ−投入。
  6. 強力なレ−ダ−波によるアクティブリサ−チ、受信は使い捨てパッシブレ−ダ−で行なう。
  7. 出撃。
バルキリードライバー


<バルキリ−ドライバ−>

 最大十G程度に押えてあるとはいえ、バルキリ−をのりこなすかれらにはパイロットよりドライバ−の名がふさわしい。
 耐Gス−ツの中には体型保持用外骨格があり、発進時には腹腔内は多機能生理食塩水で満たされる。機能を極限まで落とされた内臓に代り、呼吸・代謝は直接血管に供給・透析し、排泄等を行なう多機能膜が何重にも折畳まれインナ−ス−ツを取巻いている。上記耐加速生理状態に順応するため、ドライバ−はヒドラ出港時から帰還までス−ツを脱ぐことが無い。(長生きできんわ、こりゃ)




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