装甲ラム・ウイング「バンパイア」

林[艦政本部開発部長]譲治

●はじめに
 「ガソリンの一滴は血の一滴」と言ったのは第一次大戦中のクレマンソーだが、陸戦における自動車の登場はそれまでの戦争を一変させるものだった。ともかく自動車の登場により軍団レベルが、機動力を持つようになったのだ。もっとも第一次大戦レベルの自動車では”戦場の華”というより”物量の申し子”と言うべきものであった。
 だが、自動車が実用の域に達した第2次大戦。電撃戦が可能になると同時に硬直した戦線は過去のものとなり、戦線は常に流動的な物に変った。そして、一つの軍団はその機動力故に、今まで以上の地域を制圧する必要に迫られた。
●なんでこんな物がいるのか?
 外惑星動乱以後、人類つまり航空宇宙軍は本格的に恒星の世界へとその勢力を拡大していった。
 そこで航空宇宙軍は幾つかの惑星で土着の知的生物を征服して行った。もちろん武力でである。基本的な火力では、航空宇宙軍が圧倒的に有利ではあったが、惑星の制圧(あるいは治安維持に)にさける兵力には限りがあった。
 これを解決するために、さらなる火力の向上と、機動力の整備が求められた。航空機並の機動力と、自動車並の信頼性そして戦車以上の火力この総てが求められたのだ。
●で、こいつはどんな機械だ?
 一言でいっちまうと“空飛ぶジープ”なんですよね。ただしヘリコプターではありません。ラム・ウイング機なのです。つまり地面効果機ですね。
 全長7m・全幅11mの逆三角形の翼にジェットエンジン2基を付けたこうもりのような形です。
 こいつが高度1ー10mを巡行速度500ー600Kmで飛んでくるわけですな。
 この「バンパイア」には操縦士1名を含め12名の完全武装した兵員を輸送することができます。つまり一機の「バンパイア」が一分隊の兵力を輸送する事になります。で、この「バンパイア」は昔のヘリコプターなどと違いまして、機体全体が効果的な装甲で被われています。もちろん耐ABC兵器の能力を備えていることは言うまでもありません。
 「バンパイア」の武装は、外部にある2門のバルカン砲の他に必要に応じてミサイルや爆弾を装着することもできる。また、機体側面の銃眼から兵士の所持する小火器を使用することも可能である。

●例えばこんなことも
 「バンパイア」は分隊単位で兵力を輸送するが、さらに3ー4機の「バンパイア」で小隊単位の兵力を扱うことも可能である。このような場合、されぞれの「バンパイア」が役割分担をすることが可能となる。例えば4機のうち1機が通信・指揮・管制を担当し、2機が地上攻撃、残る1機が防空を担当するように。戦場の状況に応じて高い汎用性を持つことが「バンパイア」の最大の特色なのであります。
●生き残るためには
 第2次世界大戦中にイギリスでモスキート爆撃機というのが作られました。木造双発の小型機で、攻撃力はさほどでもなかったのですが、小さいのと高速なのとでドイツ軍にとっては、やっかいな飛行機でした。同様なことが「バンパイア」についても言える。少なくともこいつに攻撃される側にとって、撃墜は思ったより難しい。
 まず、高度1ー10mでは大抵のレーダーには補足できない。しかも速度は500Kmは優に出せるのだ。さらに、機体の形が直線を基調としたステルス性を追及したものとなっており、その上に機体全体は電波吸収塗料が塗られております。そんな訳で「バンパイア」を発見した頃にはもう手遅れなのです。また、高度1ー10mでは有効な対空兵器がありません。機関砲なら使えそうですがレーダーは役にたちませんから、目で狙うよりないですね。しかも、機体全体は機関砲程度の攻撃に耐えられる程度の装甲に被われているのであります。
●色んなバージョン
 「バンパイア」は装甲ラム・ウイングでありますが、基本的なコンセプトは空飛ぶジープです。 従って、内装を変えることにより、機体の任務に合わせた性能を持たせることが可能です。必要なら兵員輸送用のコンテナを取り外し、別のモジュールを組み込むこともできます。(SPACE1999のイーグルみたいものです)
 変った使い方としては、この兵員輸送用のコンテナを複数連結することにより、迅速に野戦司令部を展開することもできます。
●その他のこと
 結論から言うならこの機械も、ほとんど発展することなく終ってしまった。
 と言うのも、この機械は都市部の制圧には向かないのである。何と言っても全幅11mもあるのである。  戦車や装甲車なら路地に止めておいても、すぐに動けるが、この機械はそうもいかないのである。そうなるとおなじ部隊のために、2種類の機械を用意せねばならず、これは補給面で上策とは言い難い。また、戦車と部品の共通性はほとんどなく、また戦車を運べるほど強力でもないのであった。
 ただ試作品は、限定された用途では非常に戦力になったという報告もある。




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