防空砲台「嵐」

林[艦政本部開発部長]譲治

●はじめに
 最近、若者達の間で一番ホットな話題は何と言っても”常温核融合”でしょう。
 こんな現象が本当に起きているのか、これを書いている4月21日現在まだはっきりしてませんが”ある”という事で話を進めます。
 とっ、言うわけで”常温核融合”を使った兵器のお話。はっきり言いまして核融合のメカニズムもはっきりしていないのでかなりいい加減です。まぁ、いい加減なのは毎度のことやもしれませぬが。
●防空と言っても
 ここで話すのは大気圏内での防空のお話です。宇宙から大気圏に突入する部隊をどう阻止するかが、中心となります。
●まず考えるべきこと
 防空と言いましても、相手がどんな形で侵入するのか分からねば話になりません。
 ここでは、都市の防空を考えていますが、相手が都市の壊滅を目的としているのか、占領を目的としているのかで防空の意味も違ってきます。
 今回は、相手が都市の占領を目的として、広い意味の航空兵力による電撃戦を行うものとします。その場合、攻撃側には占拠すべき目標が存在し、防御側も護るべき対象が存在することになります。こういう訳で防空砲台「嵐」の都市重要施設の防空兵器であるという性格が明確になりました。
●防空システム色々
 第一次大戦でツェッペリンの飛行船がロンドンを空襲してから、今日まで数多くの防空兵器が登場しました。
 しかしながら防空兵器は基本的に のどれかでした。まぁ、例外的に核兵器もありますが、施設防御には用いられません。(使って使えんこともないが)
 高射砲は目標の近くで(VTヒューズかなにかで)砲弾を爆発させ破片で目標を撃破します。機関砲は口径により高射砲と重複しますが、基本的に目標に砲弾を命中させます。(運動エネルギー兵器ですか)ミサイルは自分で目標を追尾して、命中する(細かい事を言うと命中ではないのですが)これらには共通して火器管制システムなどついておりまして、普通はそれらが単独で用いられることはありません。
 高射砲、機関砲、ミサイルを組み合せ防空域に死角が無いようにするのが常識です。
●とかく都市と言うものは
 ところが、これらの兵器に共通の問題点として不発弾の問題があります。
 甲州画報で谷甲州先生が触れられていたように、重力があれば物体は落下します。第2次大戦中の日本の高射砲などは、不発弾が多く、空襲での被害と不発弾の被害とどちらが多いかという話があるくらいです。 しかしながら都市というものは防空を考えて建設されることなどまれであります。
 また最初は防空を念頭において都市を建設しても、都市の膨脹と共にインフラの整備に追われて、防空機能は必然的に低下します。
 しかもかつてと違い、都市の機能が向上するにしたがって災害時における被害は雪だるま式に増加します。逆にいうならそれだけ脆弱になったわけです。
 これは電話線一本切れた場合と光ファイバーが一本切れた場合の影響の違いを考えていただければ分かるでしょう。
 このように来るべき都市防空兵器は、敵に打撃を与えると同時に都市に対する被害は極力避ける必要がより求められるのです。
●やっと防空砲台「嵐」の話し
 防空砲台「嵐」は基本的にレールガンによる機関砲です。これで弾丸を高速度で打出すのですが。
 しかし、この兵器の最大の特色は砲弾にあります。この砲弾は、その大部分が氷で作られているのです。もちろんすべて氷ではなく芯になる部分が当然ありますが、この芯と氷り、およびそれらを包むポリマーで砲弾は構成されています。
 レールガンで発射されるとき、同時に芯に充電された砲弾はオレンジ色のプラズマと共に飛び出します。
 そして設定された高度に達するまで芯の内部では常温核融合が行なわれています。この時に生じる熱は氷を急速にガス化し、ついには爆発しますがすでに超音速の砲弾はこのガスの膨張で激しい衝撃波を形成します。
 しかも、これは一つ二つではありません。一秒間に何千と衝撃波形成されるのです。衝撃波は高々度で展開するので地上にそれほど実害はありませんが、上空ではあらゆる航空機が破壊されるのです。
 この衝撃波の破壊力は目の前でブラスチック爆弾を爆発させたくらいありますから、敵の航空機は落下しても害のない程度まで分解されます。
 したがって、不発弾があっても衝撃波によって分解されてしまう道理です。
●その他のこと
 防空砲台「嵐」は防空兵器としては役に立つ兵器であった。機構はレーザーなんかより単純で信頼性があり、また機動力もあった。
 電源車、機関砲、弾薬庫の三つで、どこにでも防空陣地を構築することが可能であった。しかし、兵器としてこれ以上進歩することもまたなかった。
 艦載兵器としては核兵器に代れるわけではなく、陸戦兵器としても中途半端であったからだ。
 結局、この常温核融合弾は可能性を予感させつつも、それ以上の発展をみることはなかったのである。




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