オデュッセウス以降の外宇宙探査や近隣恒星系の植民地化等の外宇宙進出を進めていたアウターフリートにとって最大の関心事は、異星生命体、特に知性体との接触はいつか、という事だった。
言うまでもなく彼らにとって、これは直接、人類以外の敵との初の交戦を意味している。敵となる異星人がどの様な物であれ、宇宙空間での戦闘ならば、より大きな加速力とより大きな火力を持つ者が勝利する。これは単に技術的な問題であり、敵も同じ物理法則に従う限り在来の兵器体系を極限まで洗練することで対応できる。しかし宇宙空間を制圧しても、いずれ敵の本星に降下し地表を制圧することが必要になる。どのように特殊な異星生物であれ“敵の指導者をタコツボからひきずり出し降伏文書にサインさせる”人類の方法で戦争を行うなら、この段階を経ずに戦闘を終らせることは出来ない。
破壊でなく制圧に主眼が置かれた地上戦闘が必要になった時、彼我のカルチャーギャップは大きな意味をもつ。これはまったく新しい戦術の開発必要性を意味するだけでなく、それに適応出来る、考えうるかぎり強力な戦術兵器の開発も意味している。もちろんただ巨大な破壊力を必要とするだけならば、核兵器を使えばよいが、この類の殲滅兵器は戦闘の主眼である地球的意味での制圧を不可能にする。このジレンマの中、開発された異形の兵器体系から、今回は、「ろは3051」シリーズを紹介する。
「ろは」の開発が始められたのはもちろん、ファーストコンタクトが起こるはるか以前である。当然、異星のロジックによる戦闘データなどは存在せず、対異星人戦闘の戦術も、まだ確立されていなかった。現在でこそ、理由は不明だがほとんどの異星人は人類に近しい理論構造を持ち、体形も人類に似かよっていることが知られているが、当時は「人海戦術による殲滅戦以外の闘争方法を理解出来ない全長五十メートルの巨大肉食生物の攻撃」などというファンタジックなシナリオも真剣に検討されていたのだ。言うまでもなく従来の歩兵兵器では(下手をすれば対戦車兵器でも)このような敵と闘うことは出来ない。「ろは」に求められた能力は超重装甲目標以外の、移動するあらゆる目標を貫通し破壊しうる、連続使用が可能な直接照準戦術兵器という物だった。銃光一閃あらゆるものを切断し破壊してゆく黄金色のビームを発射する、スペースヒーローのレーザーガンの能力が求められたのである。
この狂気の仕様書を満足させるため、当初「ろは」にはレーザー発振器の使用が検討された。レーザーは出力調整能力がフレキシブルで、弾道の直進性や大出力電源を使用したときの連続発射能力など優れた点も多かったが、波長変換が可能でも大気状態によってはエネルギー損失が大きく、また敵の生体や装甲の材質によって効果が一定せず、接近戦闘での反射光での被害も考えられ、結局不適当とされた。同様のビーム兵器としては粒子ビームも考えられたが、機関部の小型化に難点があり、採用されず、残る方法は固体弾のみとなった。
固体弾で「ろは」の仕様を満足させるには、超高速で連続して徹甲弾を発射すればよい。この古典的な機関砲の原理を極限まで洗練し、「ろは」シリーズのプロトタイプ3051が完成するのである。
「ろは」は大出力パルス電源を使用した電磁砲である。パルス電源といえば諸氏はリニアモータを想像されるかもしれないが、「ろは」は瞬間大電力により初等科学に登場する「フレミングの左手の法則」で弾丸を射出するレールガンの原理を利用している。パルス電源を利用するのは、その1回毎に連続して弾丸を射出するためである。3051の場合、砲身長3メートルで最大十二万パルス必要であるが、これは秒速6キロメートルで毎分3メートルの線状の弾丸を十二万発発射するからである。直径わずか3ミリの通電帯と絶縁帯につつまれた鉄の単分子鎖の弾丸は、全長三十キロメートルずつ、キャニスターにおさめられており、発射の衝撃で3メートルずつの小片に分断されるが、超高発射回数のために発射後は一本のワイヤーのようにふるまう事になる。つまり秒速六十キロメートルで回転する刃先が単分子鉄のチェーンソーと同じ効果を持つわけである。
電源の高品位化、安定性、弾丸ケーブルの品質の安定、発射時に砲身を破壊してしまうブレの克服、そしてなにより大電力の確保など、数え切れないブレイクスルーを通り抜け実用化された3051の破壊力は絶大であった。蒸発した通電帯のプラズマに包まれ、黄金色に輝く秒速6キロのワイヤーは、摩擦熱で蒸発しきるまで見渡す限りの射線上の構造物を切断破壊したのである。距離三百で剛目標として設定された、プレ分子成長設計コンクリートの直径6メートルの柱は瞬時に切断され、その断面は鏡の様に輝いていたと言う。
同載のカットは陸戦隊師団所属の「ろは」二種類を示している。歩兵の持つ3062は最小のタイプで発射速度は秒速最大六百メートル、射程2キロの分隊火力である。後方は機動戦車の車体に搭載された3058で直径十ミリのケーブルを使い秒速八十キロメートル、標準大気密度で四十キロの射程を持つ。これは当然対空火器としても使用される。自身にはロングレンジFCSは無いが、センシングデータを転送してやれば高軌道を周回する衛星を両断することも、大気状態によっては可能である。
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「ろは」シリーズを原型とする兵器は現在も対汎銀河人戦闘に使用されている。この単純で強力な兵器は相対論的なフューチャーギャップをものともせずこれからも第一線兵器でありつづけるだろう。