突入システム「ユニコーン」

木下[ラザルス4号]充矢

 大気圏外における「空挺作戦」について考えるとき、地球上でのそれとのもっとも大きな違いは、「降下手段」である。
 大気圏を持たない惑星、衛星への着陸に際しては、大量の推進剤消費が不可避である。さらに、逆噴射にともなう大量の赤外線放射は、降下する宇宙機をきわめて発見されやすくしてしまう。
 M−RR−19などのような、「軌道カタパルト」を逆用した制動手段は知られていたが、これが敵地への降下作戦に応用できないことは言うまでもない。
 このように、「落下傘」に相当する軽便な降下手段の不在は、攻撃側に不利に働く。制宙権を確保しない限り、「奇襲」は困難だといえる。
 しかし、第一次外惑星動乱当時の一時期、外惑星連合軍は、上記の問題に対するひとつの解決策を用意していた。今回紹介する「ユニコーン」は、まさに「落下傘」に相当する、単純で効果的な減速手段を狙ったシステムだった。
 その原理は極めて単純である。要するに、全長百メートルにおよぶショックアブソーバー、それが「ユニコーン」のすべてであった。

<乗員>
 緩衝装置への負担を抑えるためにペイロードを最小限度にきりつめる必要があるため、「ユニコーン」は原則として単座であった。
<武装>
 武装は考慮されていなかった。「落下傘」としての機能に徹するためには正解であろう。電波吸収樹脂で全表面を塗りかため、さらに窒素冷却を併用して徹底したステルス性能をねらっていた。長大な全長を活かしてレールガンを同軸装備するプランもあったようであるが、コスト(ユニコーンは基本的に「使い捨て兵器」である)、自重増大を考えると実現性は疑問である。
<「鉄の処女」との連携>
 処女にしか馴れぬといわれる伝説上の獣の名前を冠していることからも明らかであるが、このシステムは、本来、パワードスーツ「鉄の処女」の周辺装置として立案されたものである。「鉄の処女」についてはすでに林(艦政本部開発部長)氏によって詳しく紹介されているので今回は説明しないが、その戦力密度の高さと機動性を利用した純然たる電撃戦兵器を構成するのが初期の目的だった。
 ちなみに、本システムの存在は航空宇宙軍側にもある程度知られていたようである。航空宇宙軍でのコードネームは、「魔女のホウキ」であった。
<作戦シークエンス>
 目標天体の近傍で、減速のため母船から「後向き」に放出された「ユニコーン」は、(逆噴射ブースタも併用して速度を殺しつつ)地表に接近する。百メートル程度のストロークでは、完全な「コールド・ランディング」は不可能な場合が多いが、それでも最終段減速では低温窒素ガスの噴射(というより「放出」)しか用いず、敵側赤外線センサの無効化を狙っていた。チャフも併用すれば、かなりの効果があったであろうと推測される。
 光学センサによる捕捉の可能な高度に達し、敵側センサ群に捕捉されると、ユニコーンは乱数回避を開始(ウィスカー素材の全面的採用により「ユニコーン」は極めて軽量であり、全長から想像されるほどには機動性は悪くなかったらしい)し、同時に大量のデコイ(囮)を放出する。そのまま、毎秒百四十メートル(時速約五百キロ)でユニコーンは地表にハードランディングする。先端に装備された、窒素−ボロン結晶の貫通体が十メートルほど貫入し、補助脚が接地した瞬間、ユニコーン最後尾のペイロードカプセルはロックを解かれ、緩衝材によって減速されながら地上へすべりおりることになる。この間、十Gの減速圧力が1.4秒間続く。乗員が地表に背中を向けて寝そべる姿勢をとるのは、この圧力に耐えるためである。
 作戦をおえた「鉄の処女」を軌道上に回収する方法は、本システムの中で最も奇抜なものであった。ハードランディング時に緩衝体が蓄えた運動エネルギーを放出することにより、ユニコーン自身を簡易軌道カタパルトとして再利用するのだ。蓄力手段には当初電磁的なものが考えられていたが、構造を簡略化するため、のちに単なるガス圧縮に改められた。(大型の空気鉄砲、である)
 もちろん、たとえば月面からの脱出速度を獲得するには、百メートルの全長は短すぎる。ペイロードカプセルの逆噴射スラスタと「鉄の処女」自身の推進器とを併用することで、月での作戦においてもぎりぎりで回収可能な高度が稼げる計算であった。
ユニコーン
シーケンス
<その後>
 しかし、ウィスカー素材が極度に高価であったため、大量のチャフ散布/ECM支援を組み合わせた従来型降下手段に費用対効果で勝てなかったこと、最初の公試において実験機がスライドレールの不調で空中爆発したこと、さらには、「鉄の処女」の実戦投入が結局なされなかったこと、などにより、「ユニコーン」システムは、ついに二分の一スケールの実験機三機のみで終わった。
<バリエーション>
 仮装巡洋艦の艦首に数本の「ユニコーン」を装着し、速度差の大きい敵艦に接舷、強引に相対速度を合わせて白兵戦を仕掛ける「トリケラトプス」システムや、「ヴァルキリー」型AIを搭載した一種の無人戦車を毎秒五百メートル(時速千八百キロ)で地表に突入させる「ローエングリン」システム、さらに、シャフト部分を低融点発砲プラスチックとし、シャフトの破壊によってショックを吸収する低コスト・完全使い捨ての「グレムリン」システムなどのバリエーションも構想されていたが、実現されたものはない。
 終戦時には、事故で失われた二号機のほかに一号機と三号機が残存していたはずであるが、それらが発見されたという記録はない。おそらく、開発部隊の手によって破壊されたのであろう。




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