秘密戦隊「鉄の処女団」

林[艦政本部開発部長]譲治

●はじめに
 おそらくハインラインの「宇宙の戦士」以後からだろうが、兵器開発技術者の夢の一つにパワードスーツがあった。ひとたび着用すれば、ただ一人の歩兵が戦車をもねじ伏せる夢の超兵器、それがパワードスーツであった。
 単なる夢ではなく、それを実現しようとする先駆者達も多かった。油圧装置の塊である「鉄の馬」とかパワーローダーなどである。だが二十世紀につくられたそれらはいずれも実用化には程遠い未熟な機械でしかなかった。機動力が無かったり、信頼性に欠けたり、制御系に問題があるなど。
 それでもパワードスーツには技術者を魅了する何かがあるらしい。例えば西ドイツの工作戦車には巨大な人工の手が付いているように。しかし、技術は常に進歩し、かつての不可能が、現在では必ずしも不可能では無くなっていた。
 そして、外惑星動乱。技術者は再びかつての夢に挑戦した。
●「鉄の処女団」とは何か?
 結論から先に言うなら、この外惑星動乱でもハインラインの描いたような超兵器としてのパワードスーツは実現しなかった。だが、常識的な兵器としてのパワードスーツなら外惑星連合は密かに開発に成功していた。
 もちろん、兵器としての完成度にはまだ未熟な点が多数見られたが、熟練したオペレーターが操作するなら実戦に投入可能であった。この外惑星連合軍のパワ ードスーツを操作する人間は小柄であることと、敏捷性、耐久性が要求された。さらに兵器の性質上、通常の陸戦隊と異なり、男性が操作する必要性はなかった。
 むしろ、敏捷性・耐久性においては女性の方が男性に勝るとの報告から、パワ ードスーツ部隊は女性で編成されることとなった。外惑星連合軍の中から厳しい審査の下、最終的に5人の若い女性がオペレーターとして選ばれた。
 こうして、航空宇宙軍の侵略から外惑星連合を守るため、「秘密戦隊・鉄の処女団」が結成されたのであった。なお鉄の処女団は部隊名を秘密にする必要から、一般に美人局びじんきょくと呼ばれたそうである。
●パワードスーツ「鉄の処女」とは?
 外惑星連合軍がパワードスーツの実用化に曲がりなりにも成功したのは、目的を限定したためである。突入した宇宙船や宇宙都市などを強力な火力と機動力で電撃的に制圧する兵器。「鉄の処女」はこの目的のために開発された。そのため「鉄の処女」は、一般のパワードスーツのイメージよりも小型軽量に作られている。全長で2メートル足らず、その外見は鎧というより硬質宇宙服を思わせる。
●パワードスーツ「鉄の処女」の動力
 この時代、パワードスーツを開発しようとした技術者がことごとく挫折した理由で最大のものはその動力である。夢の超兵器を求めて彼らの多くは、その動力源に核融合炉を選んだ。
 確かに外惑星動乱の時代、宇宙船の技術の進歩により小型核融合炉の実用化は可能かと思われた。しかし、小型といっても宇宙船と比べての話であり、パワードスーツへの応用は無理があった。しかし核融合炉への思いはたちがたく、試作された機械の多くは小型の宇宙船ほどもあり、しかも自重を支えるのがやっとという情けないものであった。
 何故こうなったのか? それはパワードスーツの性能や目的よりも、核融合炉の使用を先に決めたためである。その意味では兵器としてのパワードスーツ開発が失敗したのも当然と言えるだろう。
 それでは「鉄の処女」の動力源は何であろうか?
 「鉄の処女」の動力は化学燃料なのである。過酸化水素とヒドラジンこそ「鉄の処女」の燃料なのだ。(余談だがこれはMe163の燃料と同じ)この二種類の燃料を反応させ、発生するガスでタービンが回転し電力を得る。またこのガスは移動の際のロケットにも使えるのだ。なるほどエンジン出力は核融合に劣るが、鉄の処女の目的から言うなら化学燃料で十分なのだ。それに核融合炉の小型化に比べ、化学燃料の小型化の方がはるかに容易であるのは言うまでもない。
●パワードスーツ「鉄の処女」の装甲
  「鉄の処女」は防御よりも攻撃に重点を置いている。また機動力を得るために装甲は厚いとは言えない。装甲の性能としては、至近距離からの無反動銃弾に耐えられることがひとつの目安とされた。また単に銃弾に耐えられるだけでなく、その際の衝撃波をも吸収することが求められた。材料工学の進歩とファジーコンピューターによるサーボ機構の実用化はこの要求を満たすことに成功した。装甲の強度をこの程度にあえて抑えた合理的判断が、「鉄の処女」実用化成功の秘密の一つである。もし、これを耐レーザーとか耐ミサイルなどと言い出したら、どんな愚鈍な物になっていたか解ったものではないのである。
●パワードスーツ「鉄の処女」の武装
  「鉄の処女」の武装は、基本的にこのパワードスーツが開発途上にあったため、何種類か存在する。しかし、もっとも基本的なのは三銃身の無反動バルカン砲である。このバルカン砲は毎分三千発の弾丸を発射する能力がある。市街戦において、この火力は圧倒的だ。さて、そのバルカン砲に使用する弾丸だが、これは補給の事も考慮し無反動銃の弾丸を使用する。ただ、無反動銃の弾丸は一マガジンに五十発が入っており、弾丸の交換はマガジン単位で行われ、ばら弾での補給は出来ない。そこで、この無反動バルカン砲は無反動銃のマガジンを二十個装填して使用する。だから、この無反動バルカン砲を使用すると、薬筒が飛び散る代わりにマガジンが飛び出すと言う光景が展開される。
 かつて、第二次世界大戦において、日本軍は十一年式機関銃という世界にも類のない機関銃を開発したことがあった。これは給弾機構にベルトではなく、三八式歩兵銃の装弾子をそのまま使用するものであった。これは経済性から考えられた機構であった。ようするに無反動バルカン砲はこの十一年式と同じ機構を用いるのだ。「鉄の処女団」も無反動銃は携帯するので、両者に弾薬の共通性があるのは望ましいことである。
 また、外惑星連合軍全体からみるなら陸戦用の兵器開発にそれほど力をさけないという事情もあった。昔の十一年年式機関銃は、故障が多いことで有名であったが、無反動バルカン砲についてはそのような事は無かったようである。武装について付け加えるなら、白兵戦の際には「鉄の処女」自体が武器に成り得る。中の人間はサーボ機構のために負荷を感じないが、薄いとは言え装甲の重量は人間を殴り倒すには十分な質量を持っている。
●パワードスーツ「鉄の処女」の機動力
  パワードスーツ「鉄の処女」は無重力もしくは低重力の下で使用されるように造られている。と、言うよりも、低重力下で初めて「鉄の処女」はその機動力を発揮出来るのである。
 なぜなら「鉄の処女」は敵地突入時には過酸化水素とヒドラジンによるロケットを用いるためだ。低重力ならロケットも小型の物ですむが、例えば地球でこれを実現しようとするなら、システムは当然、大型になってしまう。少なくとも「鉄の処女」のように小型にはできない。
 ところで、ロケットをつけるならすぐに速く移動できるかというとそうではない。制御という問題があるのだ。必要な方向に必要な速度で移動できてこそ、機動力と呼べるのである。通常、こういった機械では姿勢(方向)制御に関して二つの方法が考えられよう。
 一つは、大気の存在を前提とするが、小型の安定翼を用いる方法で、事実、「鉄の処女」にも一部この方法は用いられている。もう一つはバーニアノズルを多数用いる方法である。ただ、これは機構が複雑になるので、「鉄の処女」では用いられていない。
 では、「鉄の処女」ではどうやって進行方法を制御するのであろうか?  答は簡単。体を動かすのである。体を動かせばロケットの推線と重心の位置が変わり、進行方法を移動させるモーメントが働くのだ。「鉄の処女団」のメンバーに優れた敏捷性が求められるのも実にこのためなのであります。
●パワードスーツ「鉄の処女」のセンサー
 「鉄の処女」は装着しているバイザーに内蔵されているディスプレイによって外部の状況を知ることが出来る。つまり肉眼で外部の状況を直接見ることは出来ない。CCDにより入力された画像データをコンピューターが処理し、その上でディスプレイに表示される。可視光線はもとより、必要に応じて赤外線をも使用する。場合によってはレーダーを使うこともある。
 この場合、レーダーのデータはコンピューターによって処理される3Dのワイヤフレーム画像として再生される。
鉄の処女 鉄の処女
 燃料タンクを一個ハズし、5.56mmガトリングガンを装着。スーツの上から高引っ張り強度の防弾ブランケットを着込んだアイアンメイドン。
 ぜったいにかっこいいパワードスーツなんかかくもんか! というデザイナーのいびつなしゅーねんがつたわってくる。
  1. 飛行用タンク
  2. 破砕装甲コーティングの燃料タンク
    過酸化水素/ヒドラジンとともに吸収体に吸着されており、耐爆効果をねらっている。
  3. タービン・ロケット系
    ガスタービン/出力タービン及びロケット系の両立と熱交換器の小型化により実現した。発電はMHDではなく超高温駆動タービンによる機械的発電である。
  4. 手足はアクチュエーターのグローブをはめ、ショックアブソーバーのクッションに挟まれているため、長く見える。
    ハードランディングの巨大な慣性に耐えるためである。
  5. 低赤外排気装置
  6. 大容量コンデンサ
  7. ロケットノズルは切り離せる。
    推力線に対して6oの自由度をもち、重心の移動に対応する。
●その他
  実はパワードスーツ「鉄の処女」は実戦に出たことはない。これは「鉄の処女団」が開発部隊であるのと、5人しかいなかったためらしい。予定では、少なくとも1個小隊を編成する計画であったらしい。要するに詳しいことは不明である。
 ちなみに「鉄の処女」が何のために開発されたのかにも疑問をはさむ意見がある。
 航空宇宙軍相手に「鉄の処女」を使える舞台は、宇宙船内を除けば月ぐらいしかないのである。もし、タイタン政府が単独講和をした場合、電撃的に首都を占領し、外惑星連合の傀儡政権を樹立する。そんな憶測も、あながち否定できまい。
●戦後の「鉄の処女団」
 「鉄の処女」はコンピューターの学習機能の関係から、誰がどの「鉄の処女」を使うかが決っていた。メンバーそれぞれが自分の物に赤だの青だの塗っていたらしい。リーダーは当然、赤く塗っていた。
 さて戦後、彼女達がどうなったのか、ほとんど解っていない。
 ただ、こんな話が伝わっている。
 終戦後二十年たって、SPAの一部が「鉄の処女」の記録を発見、エリヌス攻略作戦のために当時の図面のまま完成させた。そして、かつての「鉄の処女団」リーダー、阪本雅子(仮名)を苦労の末、捜し出した。
 SPAの協力要請に彼女は好意的態度を示してくれた。だが、戦後二十年の歳月は長い。かつて「カリストの女豹」とまで呼ばれた彼女も今や十八を頭に五人の子供の母である。結局この話は彼女のダイエットが作戦開始までにとても間に合いそうになかったため流れてしまったといわれる。




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