ひさしぶりに“色物”シリーズです。今回は、岡村[体操のお兄さん]隊員から、特許申請の書類のコピーを大量に貸して頂きました。まあ、世の中にはたくさんの色物特許があるものです。
では、一つ一つ紹介していきましょう。
◆循環式発電法
説明より何より、図を見ていただこう。
「始動用エネルギー以外に他から継続してエネルギーを供給する必要がないのが特徴である」との事。摩擦や発電の効率は無視しなさい、という事ね。
それにしても、この回転のエネルギー、外に取り出したらそれでしまいである。
となると、単なるはずみ車の方がよっぽど役に立つ。
◆遠心力式推力発生装置
いかにも色物が好きそうな題材ではないか。原理は簡単で、棒の両端に重りをつけておき、中心からずれた位置を中心に回転させ、しかも、回転軸の位置を移動できるようにしておく(図参照)。
遠心力は今、前にある重りの方が強いので、全体として前へ進む、というんだが…。中心をずらす為に必要な力がこの効果を相殺する事は想像に難くない。書類を読むと、ガソリン・エンジンの排気ガス等が問題なのでこのエンジンを考えた、というような事が書いてあるのだが、いったい回転力はどっから得るつもりなんだろう?
最後を見ると「ぁぁ」と思える。以下のように書いてあるのである。「(このエンジンを使えば)航空機では、理想的な円盤状にする事ができる」
どうもこの人、空飛ぶ円盤が作りたくてこれを発明したらしい・・・。
◆物質波発生装置
これは見事な色物である。
この物質波発生装置というの、どういう原理かといえば次の通り。
往復電流、つまり導線を折り曲げて合わせた電線を作る。すると、この電線からでる電磁波は、二つの互いに逆向きの電流が相殺し、0になる。しかし、物質波は残る、というもの。
この辺りの説明は、なかなかに凄い。まず物質波の説明がすごい。「(ある実験が)物質波の存在を立証したと称されているが、実験に使用したのは電子線であり、X線と同様の反射や回折像を得たとしても、X線は電磁波であるから、電子に波動性(電磁波)があることは立証されたとしても、一般的な物質波の存在を立証し得たとは思われない。」電磁波は電子の波だと思っているようだ。「ド・ブロイの提唱した、すべての物質は物質波を伴っているという言葉を素直に受けて、すべての物質に伴う物質波は万有引力そのものの本体であると考えた。」どこが素直だって? 「原子核を回る電子は、1つの軌道には2個しか収容できない(パウリの排他率)。この2個の電子は核を中心として互いに反対側に位置する」不確定性原理を知らんのか。「電子が回転運動をすれば必ず電磁波を発生するが、2個の電子は互いに180度の差ずれた位置を保っているので、その発生する電磁波の位相は180度ずれている。したがって電磁波のうちの磁気波の作用は相殺される。あとに残った波動的エネルギーが物質波であると考えた。」
物質波という物を、物質の存在とは別に考えているようだが、物質波そのものが物質で、どうやったら出てくる、という物ではないのだが。だいたい、電子の位置が180度ずれているなんて、誰に聞いたんだ…(きっと高校の教科書の図でも見たんだろうなぁ・・・確かに逆の位置に書いてあるだろうけどさ・・・)。
では、どのようにこの物質波が発生するかと言うと・・・。
「原子に外部からその原子と等しいエネルギーを加えると一番外側の電子は回転円の接線の方向に飛び去る。このとき加えられたエネルギーが第1イオン化電位である。この第1イオン化電位をエルグに換算し、プランクの定数(h)で割ると、その原子の周波数が出る」その計算で出るのは原子の周波数じゃなくて、励起光の振動数だわい。近くに高校生がいたら教えて貰いなさい。
「プランクの定数が1周波(1Hz)のエネルギーである事は、本発明者が別途研究して確認している。概念的には東京天文台編纂、理科年表の基礎物理定数にかかげられたプランク定数の数値(6.62619×10-27erg・S)と同表次頁のエネルギー換算表にかかげられた1Hzの(erg)換算値(6.62616×10-27erg)と同じであることにより了承されよう」そら、その二つの数値は同じだわさ。同じもんなんだから。「末尾の数字が6か9かの相違があるがこれは計算上の誤差とみてよいであろう」ミスプリであろう。「またプランク定数の末尾にS(秒)がついているが、これはないのが正しい」あっていいんだっつーの。だいたい、そんな事は東京天文台に言うべきことで、特許の書類に書くもんではない。
あまりに面白いので長くなってしまった。この人はこの物質波発生機を使い、いろいろな生物固有の物質波の周波数を測定し、それを使って細菌を殺す事により、治療に役立つ、と言っている(固有の振動数と少しだけ違う振動数を当てられると生物は死んでしまうのだそうな)。ぜにたむし、蠅、百足、みかんの青かび、孫の目にできたものもらい(きっと、当人はいいおじいちゃんなのだろう…)、紅色陰蘚、犬のぜんそく様疾患、ねずみなどの効果を実験で確認したそうである。
これがほんとうなら兵器に転用される可能性があるので、オキシジェン・デストロイヤーを作った芹沢博士同様、研究成果を燃やした後で東京湾に消えて頂きたい。
◆静電飛行装置
磁場で逆重力を作って空を飛ぶ装置。円盤状の基台の下に3個の球形コンデンサーをとりつけ、3相交流を流せばいいのだそうだが・・・・。
磁場で逆重力ができるか! などという怒りは、この発明には無意味である。なんせ、付けられている図は、「アダムスキー型円盤」そのものなのだから…。
この人に「こんなもん、飛ぶ訳ないじゃないか」と言ったら、きっと「だって、現に飛んでいるじゃないか」と矢追純一の本を見せてくれるに違いない。米軍のステルスを「宇宙人から反重力を教えてもらったからあの小さな主翼でとべるのだ」と言っている人がいたが、この人なんかは訴えをおこしかねないな・・・(その前にこの特許が通らんか・・・)。
◆船舶の推進装置
船のローリング、ピッチング(つまり揺れです)をエネルギー源として推進しようという装置。原理的に可能なだけ他の発明よりましだが、実用性は皆無。
◆徳川の埋蔵金と四個の宝庫
地蔵岳、紙櫛山、剣ヶ峰の3角形から作図処理をしていくと、徳川の埋蔵金のありかがわかるというもの。だったら特許なんて申請せずにすぐに掘りにいけ。
◆空気エネルギーの製造方法
風力発電では風がふかなくなると電気も止まる。そこで風がふいている時に風のエネルギーをタンクにためておけばよい、との事。風車を動力とした空気圧搾機で空気を溜めればいいというんだが…。エネルギーを溜めるなら、もうちとましな方法はないか?
この他に、磁石を使った永久機関が数種あったりするが、どれも似たりよったりなのでパスさせていただく。「磁石の神秘」が色物にとってたいへん魅力的なものである事だけを指摘しておく。
同様に魅力的なのが円盤製造らしい。
特許制度には詳しくないのだが、日本の特許は製品というか実物がないと取れないという話を聞いた事がある。すると、これらの発明にも、実物が存在するのだろうか・・・。恐怖である。
あなたの町には、裏庭でUFO作っている人はいませんか?