i-CON 2日目の「ファースト・コンタクト・シミュレーション(FCS)」の企画は、日本で最初のコンタクトの企画です。FCSはその後のSF大会の恒例の企画となりました。また、CONTACT Japan や、コンタクト専門のコンベンションも開催されています。
 i-CON の企画スタッフには人外協の隊員が多数いました。


ファースト・コンタクト・シミュレーション

地球人側レポート

前野[いろもの物理学者]昌宏

 大会二日目、13:00よりこの企画は始まりました。
 この企画では参加者が宇宙人側と地球人側に別れ、そのファースト・コンタクトをできる限り真面目にシミュレートしようという物。アメリカでは3〜4日かけて行うイベントのようなものだそうだが、今回は三時間でやってしまおうというので、かなりの簡略版である。
 最初は谷甲州先生のファースト・コンタクトに関するお話。しかし、この時私はまだできていなかった、バーナード星、ε−エリダニ、τ−ケチの惑星の軌道計算を阪本隊長と一緒にやっていたので、残念ながらお話は聞けなかった。

 アメリカでのCONTACT(FCS)の実行委員長であるグレック・バーからのあいさつのCHEELA&RIPLEY(大迫)夫妻による代読に続き、私はさっき計算したばっかりの星のデータを披露した。
 人類がコンタクトできるような生命を持っている惑星がある為には、二重星(惑星の軌道が安定しにくい)や閃光星は除かなくてはならない。たとえばシリウスなどは二重星であるので難しいと思える。
 そうやって有望な星を距離10光年くらいまでで選んでいくと、

スペクトル
バーナード星   5.9光年   M5
ε−エリダニ  10.7光年   K2
τ−ケチ 11.9光年   G8

の3つくらいが適当となる。(他にも2、3はあるが知名度の点でこの3つを取敢えず選んだ。バーナード星は暗く、あまり適当とは言いがたいが、知名度はダントツであるので入れておいた。)この選定には『光世紀の世界』が大変参考になりました。

 バーナード星の場合、地球と同じだけのエネルギー量を母星から得るためには惑星は水星軌道の遥か内側のような近い処をまわらなければいけない。しかもバーナード星の温度は低く(3000Kくらい)、得られるエネルギーの質も悪い。
 他の二つも太陽の80%くらいの大きさ、エネルギー量なので、惑星は地球よりは内側を回らなければならず、1年が6〜7ヶ月くらいになる軌道で地球と同じ輻射エネルギーを得る事になる。
 この3つの中から標準的な星として、ε−エリダニ(距離10.7光年。K2型)を選び、いよいよ2チームに別れ、地球人側は宇宙船の設計等、異星人側は星、宇宙人の形態や文化等の設定等を開始した。

 私は地球人側の司会をしましたので、主に地球人側からレポートします。
 地球人側できめなければいけない事は、異星人に比べると少ないが、主に、

「宇宙船を飛ばす目的は?」
「その推進機関は?」
「速度は?」
「どのような物を積んでいくのか?」
「乗員は何名?」
「乗員は長い旅をどのように過ごすのか?」
「その星ではどのような行動をとるのか?」

等など。
 目的はあまり深く考えず、「学術調査」。
 推進機関はいろいろな説が出たが、レーザー帆+ラムスクープで落ち着いた。
 FCSではワープ等の未知の科学は使用禁止だが、この程度ならいいかな?と思いつつ、太陽光をそのままレーザー化するという未来の技術ができたという事にした。
 このレーザーの莫大なエネルギー+ラムスクープによる中押しで光速の30%まで加速し、減速はラムスクープの磁場によるブレーキを主に使うという事にした。果たしてこれで本当に減速できるかどうか、定量的には不安であったが、まあなんとかなるだろうと(この辺り、時間の関係もあって少しいいかげん)。
 光速の30%近くの速度であるから、旅は30年以上かかる。
 乗員は10人、2人ずつが当直で、残りはコールドスリープに入って過ごす。
 宇宙船の質量は非常な軽量化の結果約20000トンとなっており、惑星へ着陸する為の探査船(着水すれば船として使える)を積んでいる。
 等と考えているうちに、探査機(プローブ)を送るべき時期に来た。惑星の情報を教えて欲しいと異星人側に伝令を送ったのである。
 やってきた情報は「木星型惑星と3つの衛星あり」!
 地球人側は「どこに異星人がいるんだぁ!」「木星に潜れる船をつんでいかなきゃ!」と騒然たる状況に入る。
 結局、2回目のプローブが3つの衛星のうちの1つに異星文明が認められる、と報告してきたので、騒ぎは収まった。
 その衛星の地図は

衛星の地図

 のように、二つの大陸を持ち、海岸部に都市があるらしい。
 そこで、地球人側はこの海に着水し、海上を移動しようと探査計画を立て、積み込む着陸船は着水後は海上船舶になる設計とした。
 宇宙船の名前は「帰ってこないから」というひどい理由で、「桜花」と決定。
 惑星、衛星の名前も日本的に、それぞれ「寿」および、「松」「竹」「梅」と決まった。

 さて、いよいよコンタクト。
 異星人の風体は4本足に4本手。しっぽがついたケンタウルス型のトカゲである。
4本の手には4本の指がついているので、彼等は16進数を使っている(コンピューターになじみやすい)。
 しっぽにしっぽ輪(指輪みたいなもんね)をして、背中に風呂敷を担いだ、錦織さんの書いた異星人が妙にユーモラスであった。
 その彼等と地球人のコンタクトだが、これがなかなか難しい。
 まず「お前たちはどこから来たのか」と問う異星人(彼等は自分の星を「ぱろ」と呼んでいる)。
 地球人は写真をみせるが、地球人と異星人では色の感じ方が違うという理由で、異星人側の長老は「輪郭はわかるが、色が違って見えるのでわからない」と答える。
 空を指差したりするが、なかなかうまく伝わらない。
 実は異星人は顔に表情がないかわりに指でも言葉を伝えていたのだが、なかなかその事が地球人にはわからない。
 それでもこの「わからない」を示すジェスチャーが2本の手(上の方についているやつ)を頭の上で前後に振るというものである事だけはわかり、異星人と地球人の間に「わからない」という意志の疎通ができるようになった(こういうジェスチャーの意味等は予め決めておいたわけではなく、適当にその場その場で決めているので、なかなか進まない)。
 時計などを地球人から異星人に手渡したりして、とりあえず友好ムードになったものの、埒があかないので、司会の大迫さんが「ここで2ヶ月がたちました」と宣言。
 これで会話はうまくいくようになったのだが、地球人が学術調査の為にわざわざこんな処まで、それも片道旅行でやってきた理由がわからないという異星人。地球人も説明できなくて困っている。そもそも最初からあまり理由を考えていなかったのだ。
 実は異星人は二つの大陸の二つの陣営に別れて争っているので、この地球人のテクノロジーを手にしたいと考え、宇宙船に載せてもらいたいと感じていたのだが、地球人の思惑がわからないので申し出られなかった、というのが真相らしい(私は地球人側だったので、詳細は異星人側だった人のレポートを待ちたい)。
 結局、このような腹のさぐり合いに終始しているうちに時間が来てしまった。
「しかし、これが現実でしょう」と司会の大迫さんがストップをかけ、以後は質問コーナー。
「地球人は片道旅行で、ここに住まなければいけないのだから、その事を考慮した話合いもあってよかったのでは?」等の鋭い質問がとんでいました。

 日本初、それも三時間という短縮版の割には、なかなか面白いFCSができたのでは、と思うのですが、どうでした?

 因みに参加者、聴衆の中には、和泉[あめーば](地球人側隊長)、阪本隊長(宇宙人側長老)を始めとして、多くの人外協隊員の姿も見られました。
 今回、聴衆に徹したみなさんも、行けなかったみなさんも、是非次回は参加して下さい(次回がいつになるのかはしりませんが)。


異星人側の設定について

阪本[隊長]雅哉

 まずこの異星人はε−エリダニの木星型惑星の周りを回る三つの衛星のうち最大の(地球のサイズ)衛星(彼らは『ぱろ』と呼んでいる)に住んでいる。彼らの技術レベルでは、大がかりなプロジェクトを行なえば他の二つの衛星へ行くことが可能であり、一度は衛星へ行ったが資源的に価値が見いだせなかったので衛星表面に『スカ』と書かれている。(このスカはほんの軽い冗談だったのだが地球のプローブがそのまま記録して帰ってしまった)
 衛星ぱろは海が小さく大きな二つの大陸(片側から見た地表しか考えていなかった)があるため内陸部は大きく砂漠化しており人口の多くは海岸沿に分布している。
 ぱろ人は四本の手に四本の足、しっぽがあって爬虫類(のような感じの)ケンタウロス型である。皮膚には鱗があり丈夫なので衣類は着用していないがしっぽに装飾品を付けている。指の数はそれぞれ四本であり合計一六本の指があるため一六進法を使用している。(コンピュータには馴染みやすいかもしれない)
 また卵生であり女性の方が男性より体格が大きい。(性の数は三つ以上との意見も有ったのだが時間の制約などで無難な方向にまとまった)最初は女性が社会の中心にいるとの説も出たが何故か女性参加者の強い反対により、幼い頃の約五年の繁殖期間を過ぎた後に中性化し成人になることになった。(まるでパク人のプロテクターである(たった今気がついたが名前もなんとなく似ている))
 卵はまとめて孵化されるため親子関係は希薄で(存在しないかもしれない)部族に対する帰属意識が強い。

 このとき猫目嬢がメモに描いたぱろ人のイラストが参加者の目をくらませたのか(錦織さんが描いたのもそうであったが、まるで知性があるとは感じられない顔をしている)設定中も技術レベルに関する混乱があった。(地球人側が混乱するもの無理はない)

「主な産業はなににしよう」
「牧畜」
「宇宙船を作れるような星の主な産業が牧畜なわけないだろうが」
 というような会話がかわされていたのだから。

 この、ぱろ人のメンタリティーは驚くほど地球人に似ており(単になにも考えなかっただけ (^_^;)、互に争っている(直接戦闘を行なっている分けではなく表面上は平和?)二国があり、この二国の利害関係が大きくコンタクトに影響するはずであった。
 まず彼らは地球人側が恒星を旅してやって来たことは容易に理解できるがその意図が分からない。また地球人がとれだけ簡単に旅行してきたか(これによって後続部隊の有無や規模が類推できる)なども分からないため非常に強い警戒心を抱いていることになっていた。ぱろ人から見て高度の技術を持った地球人は脅威であるが意図や恒星間を渡る能力によってその度合が大きく変化する。
 また、彼らは互に競争する国家(部族?)の代表でもありできれば相手国を出し抜いて地球人の技術を手に入れたがってもいる(最悪相手に出し抜かれることを阻止したい)。しかし、こういった意図を地球人に知られて利用されてはいけないことが分かるだけの分別も持っている。

 しかし実際のコンタクトでは話をする前段階で多くの時間をとってしまい、上のような複雑な設定が明らかになるところまでなかなか進まないままに時間がきてしまった。(この辺は前野[いろもの物理学者]氏の文参照)
 異星人側の取りあえずの目的は(コンタクトをしている間に決めたのだか)地球人の技術を知るために取りあえず宇宙船(着陸船雪風)に搭乗を求めたいということであったがそこまでも進まなかった。(最後のあたりで容易にコミュニケーションが進みすぎると見ていた人から注意を受けた)

 コンタクトの間も直接コンタクトに参加していない参加者からさまざまな設定が決められ申し送りを受けたがあまり活かすことができずに残念であった。異星人側は地球人側に比べて設定しなければならないことが多くある(とくに突拍子もない異星人を考えれば考えるほど多くなる)のだが我々の能力も時間もそこまで及ばなかったため設定の多くは中途半端なままになってしまい、その多くを地球と同じに仮定してしまった。

 次回のFCSの際には(特に時間的制約がきつい場合)異星人側で絶対に設定しておかなければならないものをまとめる必要があるのかもしれない。(徹底的に設定できる時間があれば一番いいのでしょうが)


谷甲州の
「エイリアン」と「ファーストコンタクト」のお話

和泉[きんぎょ]香於里

1.  話を作る立場からすると、英語を喋るエイリアンのような、価値観が違うだけのエイリアンでは面白くない。価値観が違うだけなら、アジアの他の国の人と話していても、十分カルチャーショックがある。
 価値観が違うだけでなく、想像を絶するようなものがよい。
 「ノミを拡大してもゾウにはならない」(レム)
2.  「想像を絶する」といっても、地球人の常識は残ってしまいがちである。*
 どの方向に常識をはみ出させるかが問題である。たとえば、時間を軸に考えると、極端に寿命の長い異星人、極端に寿命の短い異星人(チーラとか)などが考えられる。
3. ところで、実際の異星人を考えて行くと・・・・・・・。
 フランク・ドレークの式 : N = R×fp×n×fl×fi×fc×L
; 銀河系のなかで文明をもつ星の数
: 銀河系で1年間に誕生する星の数
fp : 惑星系を持つ星の割合
: 生命の誕生と進化に適した惑星の数
fl : 生命が発生し,進化した惑星の割合
fi : その惑星のうち,知的生命まで進化した生命をもつ惑星の割合
fc : その惑星のうち,星間通信能力を持つまで進化した生命を持つ惑星の割合
: 技術文明の平均寿命
 の説明があり、というわけで(^^;)、技術文明の寿命の長い生物と出会う確率が高いと考えられる。
4. 結論としては、地球人と同じような生物と出会いやすいということになる。

*

 ここで例として「日本一のいんぼー男」で発表者の一人が取り上げた「校庭に机を並べて9を描いた少年」についてふれる。少年達の主張は「9と言う数字は一番大きい数字で特別な力がある。だから宇宙人と交信できる」というようなものだったらしい。「じゃあ、宇宙人が4本指で、8進法を使っていたらどうするんだ」。
   どうなるんでしょうね(^^;)。

 


 

CONTACT Japan のページにもレポートが掲載されています。




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