航空宇宙軍史ガイドブック
または
甲州原論序説

岩瀬[従軍魔法使い]史明

 谷甲州はタタリガミである。「甲州年譜」を心眼をもってみれば明らかである。
 ざっと目につく事実を拾っただけでも、

 ここでいうカミは、キリスト教でいうGODではない。神秘的な力を有する存在……或いはそのような存在がもつ属性一般を指す、日本古来の定義による、「カミ」である。「晴れ女(男)」「雨女(男)」も広義でいえばカミに他ならない。
 ところで谷甲州のもつ属性は、冒頭でのべたように「崇り神」である。「禍つ神」ともいう。誤解されやすいことだが、これは必ずしも不吉な憎悪を帯びた存在ではない。強力なパワーをもつ存在は、ただ「在る」こと自体で世界に一種のひずみをもたらすのであり、その結果が、しばしば世界がそれまで抱えていた矛盾の暴発という形で現れるのだ。タタリガミは、そのような変動をもたらす運命を備えた存在である。(そもそもいわゆる「不幸」は必ずしも文字通りの不幸でないことは古来の智恵あるものが等しく認識していた事実である。たとえば近代以降の西洋において不幸の数とされる「13」は、古智によれば「大変革数」であり、これは善悪については中立なのである。)
 日本古来のカミは、そもそもがタタるものなのだ。しかし、正しく祀れば、カミは守護神となる。祀った種族をまもるようになる。マツリを具体的にいえば、その第一には、宴会をぶちかますことである。嘘だと思うのなら古事記を見よ。アマテラスオオミカミの怒りを解くために、八百万の神々がなしたとされることは、外道キョーアクな大宴会である。
 ここに某FCの存在意義があることは心あるものにとっては明らかであろう。
 日本を真に「平成」たらしめているのはきっと某FCの活動に違いない。
 ちなみに、本特集扉の「コウシュウザウルス」は、宴会爆走モードに入った 谷甲州の姿、すなわち《荒御霊アラミタマ》を、心眼でもって活写したものである。イラストレーターには全然そのつもりはなかったと思うが、従軍魔法使いの名において、そうであることを宣言する。また、「山と土方とSFと」最終頁の三つ首コウシュウすなわち「コウシュウギドラ」は、谷甲州自らが称する魂の姿を、イラストレーターが形象化したものであり、谷甲州のご本人がそう書いておられるのだからこれは従軍魔法使いがいまさら宣言するまでもなく、真実に極め
て近い姿であろう。これは谷甲州の和御霊ニキミタマといえるかもしれない。
 ところでタイトルとここまでの内容にはまったく関わりが無いが、以下にタイトルの解題を書く。筆者としては珍しいことである(をひをひ……)
 まず『航空宇宙軍史ガイドブック』だが、今年(1993年)の夏すぎにはハヤカワ書房が谷甲州作品を再版する予定だということもあり、本来、正しい甲州ファンの開拓のための航空宇宙軍史ガイドブックも必要には違いないのだ。
 しかし航空宇宙軍史については既刊『こうしゅうえいせい』においてしばしば特集を試みており、新しい特集記事のためには『終わりなき索敵』の単行本出版後でないと困難であったこと。また先日完結した『軌道傭兵』シリーズ、4巻まで発刊されている『覇者の戦塵』の特集がまだおこなわれていないことからこの二つのシリーズの特集記事が優先されるべきだと判断されたため、本誌においては、次の案内をするにとどめる。すなわち、

 航空宇宙軍史をこれから読む/既に読んでいる人は、『こうしゅうえいせい』1〜4(「1」,「煮」,「〜さん」、「誤」)を入手なさるべし。

 また、作家のFC活動を行なうにあたって、真剣で切り結ぶがごとき評論が本来不可欠であろうし、本誌では林[艦政本部開発部長]譲治氏の記事もある意味でそれにあたるわけだが、谷甲州の全体像をとらえるべき「甲州原論」は未だ発表されておらず、筆者の試みもいまだ実を結ぶに至っていない。
 そこで、誌面を借りて、己れへの叱咤とすることをお許し願いたい。
 筆者は、今後1年弱をかけて、その下書ともなるべき論考を『甲州画報』紙上等に発表していくことをここに宣言する。
 全世界の甲州ファンの御指導・御鞭撻を切に乞い願うものである。




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