イオタメッセージについて


第1部 メッセージの受信

 203X年8月18日13時34分(太陽系標準時)、エウロパ周回軌道上にメインベースを設置している木星圏調査隊は、時計座イオタ系を発信源と推定される電波の受信を開始した。その電波は周波数変調によるパルス群で構成されており、有意なメッセージであると推測された。調査隊隊長は即座に全太陽系に対し該当メッセージを受信するように注意を促したが、その時点では地球圏及び火星圏では受信されなかった。数時間後、火星圏で受信されはじめその後地球圏でも受信されることになったが、その時点で木星圏での受信はできなくなっていた。つまり、円形(?)の収束ビームが木星圏、火星圏、地球圏の順に移動していった訳である。203X年8月現在、木星、火星、地球は太陽を中心として太陽系軌道面の扇型(約30度)範囲内に分布していることから発信源が回転していることが推測された。

時計座イオタの諸元

  名称 iota Hor, HR 810
  太陽からの距離 50.6光年
  見かけの等級 5.4等
  スペクトルタイプ G0 V
  質量 1.03太陽質量
  備考 かなり濃いダストディスクが存在する

 時計座イオタにはハビタルゾーンに木星型の惑星が存在することが21世紀初頭に判明している。

惑星のデータ

  質量 2.26木星質量
  母星からの平均距離 1.08AU
  母星への最短距離 0.78AU
  母星からの最長距離 1.2AU
  公転周期 320日
  軌道離心率 0.16
  Tug on Star 30 m/s
  平均表面温度 249K

 イオタメッセージの受信は、火星ベース及び地球—火星航路上の複数の定期船(交代要員を運ぶ貨客船と無人貨物船、どちらも複数が運行中)の存在により火星圏 〜地球圏では切れ目無く受信できたが、木星圏〜火星圏の境界空間では受信不能の時間帯が存在し、その間のメッセージデータは失われた。
 国連惑星開発機構では、受信できた全てのメッセージデータが揃うまでには数日の時間が必要である為、速報として地球圏で受信されたものの一部分を公開した。公開されたのは256×256のドットマトリックスで表現された白黒画像(図1)である。比率が多い方のパルスを白、比率が少ない方のパルスが黒で表示されている。

図1

図1

第2部 メッセージの内容

 メッセージデータのフォーマットは「・・・・・・・・・・・・・・・・」を改行コードとする画像と気付いた人が多く、数時間のうちに図2のように並べ替えられた絵が多数、汎太陽系ネットワーク上に公表された。

図2

図2

国連惑星開発機構の対応について

  最初にメッセージが受信されてから遅れること2日、国連惑星開発機構は画像のかたちで全メッセージの内容を公表したが、受信できなかった部分の方が遥かに大きいことが予想された。数百ページの中の数ページ分しか受信できなかったようである。
発信源が回転していることを考えると、一定周期で受信可能になることが期待されるので、木星圏〜火星圏の受信不能空間に3機の無人プローブを送ることが決定された。さらに数十機の無人プローブを派遣し受信範囲を広げることが検討されている。

—— 木星圏で受信されたデータの先頭 ——

図3

データの途中から受信。

図4

図4

図5

図5

データは途中で中断

—— 木星圏で受信されたデータの最後 ——

—— 火星圏〜地球圏で受信されたデータの先頭 ——

図6

図6

データの途中から受信

図7

図7

図8

図8

図9

図9

図10

図10

データは途中で中断

—— 火星圏〜地球圏で受信されたデータの最後 ——

第3部 彼らの事情

 彼らはガスジャイアントの衛星を生活の場として進化してきた。恒星イオタがかなり濃いダストディスクを持っているために隕石や小惑星が地表へ落下する頻度が高く、数万年に1度は生命種の大規模な絶滅の原因となる小惑星の落下が起こったと主張する学者もいるほどである。そのたびに生物種の大規模な入れ替わりと生き残った種の急速な拡散進化が起こったというのだ。
 彼らの生活は空から降ってくる石を無視しては成り立たない。彼らの技術文明はその危険の回避手段を模索することを軸に発展してきたのだ。数十年前にスペースガードシステムが完成し、危険な隕石や小惑星及び彗星の軌道を制御できるようになった。絶滅の危険を回避できるようになったことが彼らをして自分自身を最高の種族と自負させる根拠である。
 それまで、スペースガードシステムの構築へと集中していた資金や人材が他の学問分野へと流れるようになり、近年の生物学や考古学の進歩にはめざましいものがある。
彼らの宗教は隕石の落下を「神の怒り」とするものと「神の試練」とするものに大別される。近年、「小惑星落下による大絶滅で生物の入れ替わり起こる」という学説を教義に取り入れた新興宗教は瞬く間に広まり社会的に無視できないほどの勢力(全人口の数%ほど)になってしまった。その教義はこうだ、「神々(多神教である)は、石を使ってしもべ(生物全般をさす)に試練を与え生き残り良き進化をしたしもべを創りだそうとしている。しかし、神々に認めてもらうには、しもべ側から神々に良き進化をしていることを証明しなければならない。何をもって証明するのかといえば生命の謎をどれだけ解明したかである。(なんでやねん!)」 (はたして神々からのリアクションはあるのだろうか? 無くても「精進が足りない」で済んじゃうだろうな、きっと)
 かくして、神々に伝えるための手段の建設が始まった。幸か不幸か、パラボラアンテナの雛型にできるクレーターには不足していない。神々の数だけアンテナ必要だという神官たちの主張により全計画の完了には千年以上かかるかもしれない(何体の神がいるのかは知らないが、これで、神官たちの地位も安泰である。お布施も期待できるし)。
 第1号のパラボラアンテナが完成したのはイオタメッセージが太陽系で受信されることとなった50年程前の話である。(はてさて、人類にとってはワーストコンタクトになりそうな気がするぞ!)

<送信メッセージの全内容>

  1. 彼らの姿(誰が出したのかを神々に示す為の署名として)。
  2. 彼らの住む衛星に印をつけた恒星系の配置図(同じく住所として)。
  3. 彼らの分布地域を示した孫衛星軌道上から見た衛星表面の絵。
  4. 代表的な生物種の絵(数十枚)
  5. 素粒子物理学を説明する絵(数枚)
  6. 原子核の構造を説明する絵(数枚)
  7. 主要生命元素に印のついた元素周期律表
  8. DNA及びRNAの構造図(数枚)
  9. 核酸の絵(図3他数枚)
  10. コドンを示す表(図4です)
  11. プチダレドキシンの塩基配列表(図5,6です)
  12. 必須アミノ酸の構造示した表(図7です)
  13. プチダレドキシンのアミノ酸配列表(図8です)
  14. プチダレドキシンの構造図(図9です)
  15. チトクロムP450camの塩基配列表(図10です)
  16. この後、様々な蛋白質についてのデータが続く(数十枚)
  17. 各種細胞の構造図(十数枚)
  18. 彼らの身体構造の解剖図(十数枚)
  19. 我々は優良なしもべでしょうかとの質問を意味する絵。


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