第30回日本SF大会 i-CON

i-CON FCS企画 After Report

  ● 谷甲州FC・青年人外協力隊の i-CON FCS レポート

 i-CONでのFCS企画が日本で行われた最初の CONTACT です。
 このときは企画の主催者もFCSに参加したこともVTR以外では見たことすらなく、はたしてFCSのような企画ができるのか、どのようにして進めればいいのかがわかっていませんでした。
 3時間と短い企画時間の間にすべての設定を決め、コンタクトまでやってしまおうという事だったため時間の制約が大きく、コンタ クトに必要な設定を決めるだけで精一杯で細かく設定を追求する暇がありませんでした。
 異星人は、ε-エリダニを回る木星型惑星の衛星に住む、四脚、四手のトカゲ形で、手の動きでもコミュニケーションする。地球人の宇宙船は,なんと帰還方法なし。行ったきりのため、宇宙船は“桜花”と名付けられた。


 

 

[地球人側設定]

 i-CONでのFCSは、日本では初めてのものでしたので、スタッフも含めて不慣れな点も多くありました。
  地球人はεエリダニを目指すのですが、相談しなければいけない事は、

  • 「宇宙船を飛ばす目的は?」
  • 「その推進機関は?」
  • 「速度は?」
  • 「どのような物を積んでいくのか?」
  • 「乗員は何名?」
  • 「乗員は長い旅をどのように過ごすのか?」
  • 「その星ではどのような行動をとるのか?」

等など。
 目的はあまり深く考えず、「学術調査」としました。この深く考えなかった点が、後の異星人とのコンタクトで非常に問題となります。
 推進機関はいろいろな説が出ましたが、レーザー帆+ラムスクープで落ち着きました。FCSではワープ等の未知の科学は使用禁止ですが、この程度ならいいかな?と思いつつ、太陽光をそのままレーザー化するという未来の技術ができたという事にしました。
 このレーザーの莫大なエネルギー+ラムスクープによる中押しで光速の30%まで加速し、減速はラムスクープの磁場によるブレーキを主に使います。果たしてこれで本当に減速できるかどうか、定量的には不安ですが(この企画は3時間しかなく、細かい計算などやっている閑がなかったので、少しいいかげんなところもあります)。
 光速の30%近くの速度ですから、εエリダニまでの10.7光年の旅は30年以上かかります。この長い旅のあいだ、乗員10人は2人ずつが当直で、残りはコールドスリープに入って過ごします。これは乗員となる人たちが「世代宇宙船なんかだめ、どうしてもおれたちがいくの!」と強固に主張したという経緯があります。
 宇宙船の質量は非常な軽量化の結果約20000トンとなっており、惑星へ降下する為の探査船(着水すれば船として使える)を積んでいる。なぜ着水するようにしてあるかというと、前もって飛ばした探査プロープ(実は異星人側に質問しにいくだけのことなのだが)の情報により、知的生命がいそうな惑星に海があり、海岸部に都市があることが確認されていたからである。
 宇宙船の名前は「桜花」。なぜなら、減速した後、ラムスクープが効くまで加速する方法(出発時は太陽からのレーザーで押してもらっている)がないので、行ったきりで帰ってこれない船となるからである。
 惑星へ着水する探査船の名は「雪風」である。
 こうやって行われたコンタクトはしかし、異星人と地球人の“腹の探り合い”に終始してしまいました。最大の原因は、2大陸で2陣営に分かれて戦争している異星人たちの疑心暗鬼をさそってしまった事のようです。
 それでわかったことは、ファーストコンタクトをする以上、「調査」よりもむしろ「国交」と考え、様々な対応を考えておかなくてはいけない、という事でしょうか。
 もっとも、それもこれも、充分な時間があってこそできること。今度のCONTACT Japanではどこまでできるか、今から楽しみです。

[異星人側設定]

 さて。コンタクトする恒星系を全員で決めると、いよいよ、地球側、異星側に分かれて設定を始めることになる。希望者をジャンケンにより十数人ずつに絞って設定に入ることになった。
 まず、異星人がいると思われる恒星(ε-エリダニ)系の、その異星人の生まれた惑星の設定を決めなくてはならない。が、普通の惑星じゃおもしろくないということで木星型の惑星であると決定する。しかし、それでは異星人の設定が非常にむずかしくなるので、その木星型惑星に衛星が三つあり、そのうちのひとつで異星人が発展したということになった。衛星周期は地球時間に換算して、約166日である。この衛星を異星人は「ぱろ」と呼んでいる。衛星ぱろは、海が小さく、大きな二つの大陸がある。その内陸部は大きく砂漠化しているため人口の大部分は海岸沿いに住んでいる。きっと、夜景がきれいだろうなぁ。
 大気、重力は地球のそれと驚くほど似ている。(時間がなかったため「地球と同じ」と決定された項目はけっこうある…)彼らの技術レベルでは、惑星間、恒星間の移動ができるだけの技術はまだないが、残る二つの衛星に到達するプロジェクトは成功した。このころ、ぱろ人は海を挟んだ二つの大陸にわかれてちょうど冷戦のような状態になっている。言語は統一されている。
 このへん、地球側からのプローブが「ボクはこれくらいの観測ができる能力があるので、情報をください」と、飛んできたときにまだ決めてなくておもわず「このへんを二・三周してきてちょうだい」と時間稼ぎをしてしまったりもしたなぁ。衛星の云々よりもぱろ人の生態や文化の方に興味が先走っていたのだった。
 そのぱろ人だが、まず4本の腕、4本の足にそれぞれ4本の指をもっている。ゆえに16進法が発達した。(これはウケたなぁ)見た目は地球の爬虫類に似ており、しっぼがあってケンタウロス型。体表には鱗があって丈夫なので衣服の着用の習慣はないが個人の資産などに応じて(たんにおしゃれ、だっけかな)しっぼ輪(指輪みたいなもの)をしている。ぱろ人は地球人の感覚ではうるさいくらい声が太くて大きい。可聴域が地球人とは違っていて、だからというわけではないが、16肢を駆使したボディランゲージが発達している。だから、文字も動きをあらわす形からできてる(って、ここまで決まってたかな?)さらに色彩感覚も違っていたらしい。
 また、ぱろ人は卵生で、生まれたときには男性、女性にわかれているが、幼年期(繁殖期)を過ぎると中性化して成人になり、社会に出ていくことになる。彼らの寿命は…平均して220ぱろ年。繁殖期は短く、一生に平均3個の卵を生む。性の数は3つ以上にしようという意見もあったが、時間がなかったのである。卵はまとめて孵化し、老年期にたっしたものがまとめて養育する。結果として、親子・家族関係よりも部族に帰属する意識が強い。
 こうして、だんだんにぱろ人はつくられていったのだが、そこで参考にメモされたイラストのぱろ人の姿が、なんだか、とても知性をもっているようにはみえなくて(「かわい~~」とウケてはいたが)設定する側もだんだん、それにひきずられていった、ような気がする。主な産業は何にしようか、というのに「牧畜!」はないよなぁ、いくらなんでも。もう衛星に宇宙船を飛ばしている時代だというのに。コンタクトの時にもイラストにしてくれたのだけれど、やっぱりまぬけにしか見えなかった…。自分たち(ぱろ人)の能力を正しく理解できていなかったのは、コンタクトする上でマイナスだったと思う。
 さて、そうこうするうちに時間はなくなり、コンタクトである。ぱろ人は衛星間を行き来するだけの技術レベルをもっていることはすでに書いた。だから、地球人が別の恒星系からやってきたことは理解できるが、その技術は驚異である。さらに自分たちが国家レベルで争っているくらいなので、地球人が何を目的にやってきたのかわからないことに強い警戒心を抱いている。とはいえ、なるべくなら双方とも相手を(冷戦の)出し抜いて自分たちには未知の、地球の技術を手に入れたいと考えている。(手に入れられないまでも、相手に渡ることは阻止したいのである)しかし、地球側に冷戦状態をさとられ付け込まれることはさらに避けたいのである。・・・・つまり、ぱろ人も膠着状態になっていた。これで、さあコンタクトだ。が、実は、その前段階が大変なのだった。
 設定していた中から3、4人が代表していよいよ、地球側と相対する事になった。まず、どこから来たのか? と言う疑問をぶつけてみる。・・・・答えとしてなにやら見せられるのだが、なにしろ色彩感覚が違うのでなにが書いてあるのかわからない。上の方の手を上げ下げし「わからない」というゼスチャーをするが、当然のように相手には伝わらないようである。こちらとしては相手の意図を把握し、できれば地球例のテクノロジーを間近にみるためにも宇宙船にのってみたいと思っているのだが、それどころではない。さらに困ったことに相手とは可聴域が違うし、こちらは音声でコミュニケートする習慣がないため、相手がなにやら言っていることか通じない。代表が四苦八苦している間にも後ろではさらに足りない設定をおぎなうべく話し合いが続いている。(なにせ、「代表」がどういう立場での代表であるか、とか、そんな細かいことまでは決まっていなかったのである)
 しかし、このころになると、あまりに意志の疎通がないのとばろ人のみかけと(ぱろ側の混乱も手伝っての)文化レベルの誤解もあって、観ていた人達や地球側にどうも、知性があると信じられてなかったような気がする。
 しかたなく、途中で「二ヶ月経過」ということで翻訳機などで意志の疎通だけはできるようになった、ということにして再度挑戦することになった。が、ぱろ人の立場が先に言ったように膠着していたせいもあり、なかなか先には進まないのだった。もっともばろ人の一番の質問に対する答えを地球側で考えていなかった、ということもあったようだが。なにしろ、コンタクト中に明確にわかったことと言えば、地球側の隊長が「サトウデゴザイマス」というらしいということ、こちらの「わかんな~い」というジェスチャーが通じるようになったということくらいではなかったろうか?
 結局、時間切れでコンタクト成功ならず、という結果に終わったのだった。