CONTACT extra ~ NHK の取材 レポート~

2002年2月10日、
 JR 新大阪駅の新幹線の高架裏に隠れるように立つコロナホテル内でこの極秘プロジェクトが開催された。
 それは一本の電話から始まった。
 去る2001年12月某日、CONTACT Japan事務局の元に日本放送協会のディレクターから取材の打診をうかがう電話が入った。First Contact Simulation(以下FCS)の現場をHi-Visionカメラで収録したいというのだ。CONTACTしてきたディレクターは昨年からNHKスペシャル「宇宙」を手がけてきた落合淳氏。2002年春にHi-Vision放送で「宇宙」の特番を行うことが決定し、かねてから落合氏のアンテナにひっかかっていたCONTACT Japanへ接触してきたらしい(多分ね)。
 年末から年始にかけてAdvance CONTACT 1 やDay CONTACT 4 in Tokyo、西はりま天文台へのプレゼンテーションの準備に忙殺(微誇張)されていたスタッフはこの依頼に大いに沸き、しかしながら困惑を抱きつつ取材を承諾した。
 天下のNHKでFCSが、CONTACT Japanが映像となって全国いや全世界に(おそらく)流されるのだ。苦節10ン年、いよいよメジャーデビュー(?)のチャンスが来た!! がしかし、と喜びも束の間みなの胸には不安がよぎる。FCSって絵的に「いける」イベントだろうか? あの美しい線表を一般人(一般ってなんだ?)が見て感動できるのだろうか? 素数や周期律表を解読した時にその場に漂う雰囲気を理解できるだろうか? この取材ってFCSの「なに」を撮ろうというのだろう。
 年が明けてすぐに大迫公成代表が落合氏から取材を受け、FCS取材は本決定となった。しかし放送は3月で時間的に余裕がない。人数を集める必要があるということで、Advance CONTACT 1 の翌日に急遽日程が決まったのである。FCSの取材といっても時間は限られている。泊り込みで3日間ぶっつづけというわけにはいかない。Advance CONTACT 1 の翌日の数時間がぎりぎり割けるだけだった。みなさんもご存知であろうが、そもそもFCSはそんな短時間で行うものではない。Day CONTACT形式にしても厳しいし、NHK側は通信文が飛び交う現場を望んでいるようなのだ。準備の時間は短い上にオーダーは厳しい。
 スタッフも経験したことのない試みだった。異星人設定は既存のものを使うしかないということで、CONTACT Japan 4 で使用したアヒストを選んだ。アネカワンよりデザインがそれっぽい(ぽいってなに?)し、なによりカラーの絵がすでに存在している(未観賞のかたはCONTACT Japan 4 のアフターレポートを購入してね)。生物学的設定はそのままに、アヒストの本星を10光年先にしてそこからファーストメッセージを地球へ送るという段取りになった。
 FCS参加者はスタッフと前日のAdvance CONTACT 1 から一般参加者を募り、なんとか1ペア分の人数を確保した。最初にアヒストから送信するファーストメッセージはAdvance CONTACT 1 の後に「Advance CONTACT 1 で話あった内容を生かしたつもりで」5分で作り上げた。議長をすることになった私が持ち帰り、パソコンで清書したメッセージが下の図である。

 こうしてようやく CONTACT Extraの準備は整ったのだった。
 この日の大阪は朝から小雪がちらつくあいにくの天気だった。しかし、高架脇にひっそりと立つコロナホテルの中は異様な熱気と緊張にあふれていた。二つの会議室にわかれセッティングが済むと、落合ディレクターとカメラマン、音声さんが異星人チームの部屋に入ってきた。もちろんカメラマンは大きなHi-Visionビデオカメラを肩に担いでいる。
「では、お願いします」落合ディレクターの合図でカメラマンが異星人チーム議長(私だ!)にカメラを向ける。
「それではみなさん、われわれアヒストは・・・」うわずった私の台詞から、CONTACT Extra はスタートしたのだった。
 前置きが長くなりました・・・。異星人からのファーストメッセージ

 さて図のファーストメッセージだが、この棒グラフの意味にお気づきであろうか? 上部の棒グラフは木星の視直径を100とした太陽系9惑星の視直径を表したもの。下部のグラフは同じく木星の太陽からの距離を100とした9惑星の距離を表したものだ。上部左に大きくヒッストの友好のポーズを略図にしたもの。地球、火星の上に小さくヒッストの図を置いて、この惑星に行きたい(移住したい)という意味をこめてみた。(判るか! というご叱責、真摯にうけとめます)
 さて、これを受け取った地球人はというと、やはり混乱してしまったようだ。棒グラフが太陽系を記していることはすぐに気づいたようなのだが、ヒッストの絵がいけなかった。「知的生命体」を示す名詞なのか?
 何故地球と火星の上にもあるのか。そもそも左上だけ大きいのは何を意味するのか。地球人チームは困惑の渦の只中に放り込まれてしまったらしく、なかなか返事が返ってこない。思うにNHKの方々も「異星人に惑わされる地球人」の絵に満足したのではなかろうか。
 異星人チームはカメラが地球人側に移動したのにリラックスしてか、相手の返事も待たずに無人プローブを送るから、というメッセージを作って送ってしまう。もちろんプローブも同時に発進した。地球人からのファースト・メッセージに対する返信は、同じ棒グラフの手法を使い「人類は第3惑星にいます」。「あながたがは第3、第4惑星にいるのですか?」という内容だった。これに対し「われわれアヒストは第2惑星に住んでいます」。「われわれは第4惑星に行きたいです。いいですか?」とあくまでも移住を希望するアヒストであった。
 しかし、当然のごとく「移住したい」という複雑な内容がこの簡単な図で通じるわけもなく、地球人チームはほどなくプローブを発見。先の通信とあいまって有人宇宙船が接近中と解釈して、「ちょっと待った。火星上であうことにしましょう」と返信。これを受けて、アヒストは「ああ、やったね。来てもいいんだって!」とかねてより建造していた有人宇宙船2隻に1500体の冷凍アヒストを載せて旅立つのであった・・・・

 短時間のFCSだったが、一つのメッセージに一喜一憂するシミュレーションの醍醐味は確かに味わうことができた。が、問題は取材が成功したかどうかなのだ。
 参加者は一旦のめりこむと取材だということも忘れて一般的になじみの薄いCONTACT用語を連発する。カメラさんが「プローブってなんですか?」と小声でディレクターに訊いていたのを私は聞き逃さなかった。CONTACTに熱中する参加者をよそに、廊下で困った顔 で打ち合わせをしているのも目撃されている。終わりに近づくにつれ、疲れが目立つNHKスタッフを見て参加者一同心の中でため息をつくのであった。いい絵が撮れたかなあ、と。
 さて、うまく行けばこの模様は3月にBSハイビジョンで放映されるはずです。ハイビジョンを録画できる方、お願いです。録画してください。そこに5秒でもCONTACT Japanの面々が写っていたら、ぜひ感想をこのNews Letter宛てに送ってください。あ、メーリングリストでも結構ですよ。どうかお願いします。
 NHKのみなさん、そして参加者のみなさま、お疲れ様でした。本当に・・・

(大井俊朗)