CONTACT Japan 1 異星人設定資料

分科会レポート

生物分科会

 イルトコランはいかにして空を飛ぶようになったか

 τ・ケチ星系第2惑星イルトコロ、それは3Gという大きな重力と、3気圧という濃厚な大気、そして、非常に長い一日の朝夕には、強風の吹き荒れる苛酷な惑星である。
 さて、我々生物的側面分科会の使命はこの、苛酷な環境下で約12光年離れた地球で観測可能なマイクロ波を発生できるほどの文明をもつまでに進化した生物を創造することであった。その結果創造された生命体については、資料を参照していただくことにして、ここでは、その検討過程について報告していこう。
 まず、最初の問題は3Gという高い重力である。ともかく、この高重力に耐えられるだけの体型を検討しなければならない。提案された体形には以下のようなものが考えられた。

ずんぐりむっくり
重力に真っ向から立ち向かう、ごっつい体形。
カマキリ型
重力の影響を受けないように細長く立 つ。 細長い手足をテコの原理で動かし、重力に対抗。
カニ型
平べったければ、重力に強い。
ヘビ型
カニ型と同じ。
寄生生物
重力に耐えるのは宿主にまかせれば、あまり力がなくても生活できる。
浮袋。固い殻に中はガス
重力が強くて、体が重くなるなら、その分どっかで 補ってやればよいという発想。

 ここで、寄生生物は宿主の生態まで考えなければならなくなり、考えることが倍になるので却下され、カニ、ヘビ型は知的文明を発達させにくそうなのでこれも却下された。残るは「ずんぐりむっくり」と「カマキリ型」、それに「浮き袋」である。「浮袋」は非常に魅力的であるが、他の形も捨てがたい。という訳で我々は安直に、「ずんぐりむっくり」の体形に「カマキリ」のような細長い手と「浮袋」をもった生物と概略を決定したのであった。というわけで、我らがイルトコラン等は浮袋を持つということになったのである。
 浮袋といっても、この時点では漠然としたものであった。気球の様に体外に大きな浮袋を持たしてもいいし、風船状の生物というのもいいだろうという感じである。この時点では我々は特に飛ぶということに重きをおいてはいなかったのである。風船の様にプカプカ浮いて移動しても良いし、単に地上からホンのわずか浮くだけでもいい。もっと極端にいえば、単に体を支える労力の一部をこの浮袋で軽減させてもいい。それぐらいの考えであったのである。
 ここで、私たちは、CONTACT Japan 1最大の間違いを犯してしまった。イルトコランが飛ぶということを、他の分科会に伝えてしまったのである。これが、この後あの苦労を呼び起こすことになろうとは我々の誰一人として考えてはいなかったのであった。
 浮袋内のガスについては、さすがに水素では危ないし、ヘリウムを発生させるというのも無理がある、というわけでメタンが選択された。この時点で、あまり浮力が得られないのではという不安が皆の頭をよぎった。実際に計算してみると、1立法メートル当たりで、約2Kg(この1立法メートルという数値は全体討論で決まった前提条件から導き出されたものである)。これではプカプカ浮くというのは無理である。よっぽど大きな浮袋を体外につけない限り飛ぶことはできない。やっぱり、数メートルの移動ぐらいか通常の移動の時に体を軽くする程度にしか使用できないようである。
 さて、ここで我々は第2の誤りを犯した。飛行あるいは浮遊についての議論を中断したのである。この時点で体型や手足の数はほとんど決定してなかったため、そちらの決定を最優先するために、この飛行あるいは浮遊についての議論は中止されたのである。今にして思えばこの時点でもっと飛行あるいは浮遊について検討しておくべきだったと思われる。ともかく、飛ぶならかなり大きな浮袋をつけなければいけないし、飛ばないならいらない。とりあえず浮袋云々よりもまずは基本的な体型の決定から行なっていこうというように、これ以降の議論は行なわれていったのである。
イルトコラン外見図 ひっくり返したら鳥の丸焼きという、外見図のラフスケッチから、手足の形状の検討など、議論は順調に進んでいった。第1日目の分科会終了時にはなんとか、おおまかな形状は全て決定というところまでこぎつけることができたのであった。ところで、並行進化という用語がある。これは全く異なる2つの地点で進化した生物がたまたま同じような形状を持つ場合に用いられる用語である。1日目の終了時に描かれたラフスケッチを見て、我々の脳裏に浮かんだのはこの単語であった。どこから見ても“カエル”にしか見えなかったのである。

 ちなみにこの夜、異星人側の宿泊室では、以下のような会話がなされていた。

「なあ、コンタクトジャパンのTシャツを作るとすると、やっぱり第一回の異星人の絵がTシャツのデザインになるんだろうな?」
「え、この“カエル”がTシャツになるの、、、、ちょっとやだなぁ」
「あ、もっと恐いこと考えちゃった。イルトコランでTシャツ作る時に正面からの絵にすると……………」
「ピョン吉…………」

 というような話はさておき、問題は1日目の終りに発生した。社会的側面の分科会からの資料には「渡りをする」の一文があったのである。いつのまにかイルトコラン達は我々の思惑を離れ、長距離の飛行を行なうようになっていたのだ。しかも、それは一生に一度程度などではなく、コンスタントに飛行を行なうという設定になっており、しかも自分の意思で目的地までも決定する渡りを行なえるようになっていたのである。さらに惑星イルトコランは大型台風なみの風がコンスタントに発生する強風世界となっており、この環境下で、意思を持って飛行せざるをえなくなった状況に陥っていたのである。
 これでは我々が当初想定していた、体重を軽くするために浮袋をもつという設定や、体外に巨大浮袋をもち浮くなどといった設定は無理である。どうにかイルトコランを飛ばさなくては、我々は頭をかかえた。
 強風に対抗し、目的地まで飛行するためには、浮袋は不向きである。どうしても制御のための機構をもった翼が必要となる。しかし、地上生活を行なうには翼はじゃまとなる。しかもこの強風世界、うかつに翼を広げればどこかへ飛ばされてしまうのである。というわけで我々は格納式の翼を選択したのである。幸いなことに翼の保持にも使用できる細長い腕もあった。
 そして、この時からイルトコランは翼を持つことになったのである。朝焼けの光の中、一列に並び、赤い太陽に向かい、風を読み翼を広げ大空へ飛翔する優美な姿を持ったイルトコランはこの様にしてうまれたのであった。

社会分科会

異星人は我慢強い種族なのだ

 高重力下の生物ということから、我々は「我慢強い」印象を持った。また、地球人よりも高度な科学力を持たせることで一致した。

反物質も扱える高い科学技術レベル

 科学技術レベルは以下の2点に代表されるように、非常に高いものである。

  1. 核融合を企業レベルで使用可能

  2. 反物質を研究レベルで取り扱える

 今回のコンタクトは、地球人からマイクロウェーブ通信を受け取る設定になっていた。これよりも高い技術力を持つために、核融合や反物質など、エネルギーを取りだす高度な科学技術を検討。残念ながら反物質は蓄積、制御が難しいため、実用段階とすることを諦め、「扱える」程度にした。

恒星間飛行技術や通信探査技術は

 完成している。
 τ・ケチ恒星系内にはすでに、居住の場を広げている。他の恒星系には「大破壊」(後述)の直前に調査目的で、有人の恒星間宇宙船を送った(のりはスタトレ)が、その後の消息は不明。技術のみ残った。
 引力圏を脱出するために最初、軌道エレベータ、オービタルリングなどの構造物利用を考えたが、高重力と強風、高々度の静止軌道(80万キロ)のため開発を断念。しかし第一宇宙速度を得るには地球の約7倍ものエネルギーが必要で、化学ロケットのみではその推力を得ることは不可能である。このため、先のものに代わる物として、ロータベータ、ボロステーション、マスドライバーなどを検討。最終的に、構造上の強度と星の自転速度などの関係から山脈を利用した超伝導+化学ロケット併用のマスドライバーに落ち着いた。

意志決定機関は神官で構成されている

 宗教と政治が密接に関係するという設定に他の分科会は頭を抱えたようだった。が、わが分科会では「宗教がらみの政治形態の方が、政教分離や政治単独よりも扱いが楽ではないか」との意見が多数を占め、そのまま進めることにした。その宗教だが・・・内容を決めるにあたり、一神教、多神教、自然神と出たが、やはり母星の性質から自然神に傾いていった。
 自然神は光、風、昼夜などが上がったがこれも母星の気候の影響が大きく作用、風の神に決まった。ただし、宗教を決めるにあたり「異星人に地球的宗教を当てはめていいのかどうか」との疑問が、メンバー全員の中にあったことを特記しておきたい。また、「風の神」に対し、「科学が発達すると風が吹くメカニズムが解明され、風に対する信仰心が薄れるのではないか」との危惧もあったが、風の存在意義(哲学的解釈)や「大破壊」で受けた自然の力への畏怖から、より深く傾倒していくと考えられ、この政治形態を存続させた。なお、意志決定機関は惑星全体の統一政府。専制でなく、集団で政治機構を運営する。イルトコランは、わたった先でグループ婚を行ない近親相姦を回避していたため、全ての部族が混血。人種のるつぼ化が起こり、民族、国境の概念が発達しなかった。さらに自然に対する戦いを余儀なくされる環境から、グループ間の争いも皆無である。
 また、古来から「わたり」の時に風を読む力のある個体がグループのリーダーとなり、その個体が宗教的にも政治的にも高い地位に着ける条件になっていた。したがって「わたり」が宗教と政治の根幹を為している。やがて交通機関の発達によって、移動手段としての「わたり」はなくなったが、宗教に取りこまれた形で残り、巡礼や高い地位に上がる者達の儀式として行われている。したがって、現在でも「わたり」の能力の高い者がリーダーとなり宗教や政治の中心を構成する。「わたり」に失敗したとしても卑下されること無く、「わたり」を行おうとした勇気に一定の敬意がはらわれ、何度でも挑戦できる。なお巡礼先の聖地は一つではなく西国四十四札所のように大陸に一つずつ点在している。神殿は砂漠の中のオアシスのような風だまりに発生、その周りには老年期に入り飛べなくなった人達の定住するコロニーやマーケット、子供の養育機関などができ、都市化していった。現在では人工的に風だまりを作る技術が発達し、都市を作ることはたやすくなった。

言語はひとつ

 人種の概念がなく風まかせに流される種族なので、統一言語である。風や砂の影響、夜間の活動を考慮して、光での伝達手段を考えた。本当は光は光でも、レーザーやコヒーレント光を発生する器官を持つ設定にしたかったが(文明が進んだときの通信やコンピュータの扱いが格段に便利になるという思惑があったのだ)生物分科会に却下され、補助言語として、ボディーランゲージの手(投光手)に白色の発光体を持つにとどまった。主言語は音声発生系。文字はボディランゲージの動きを文字化。金属箔を引っ掻いて記録した。

近代史 Part1:大破壊でイルトコロの歴史が激変

 イルトコランは気象コントロールに失敗、母星に大きなダメージを与えて陸地の多くを水没させてしまった。これが、「大破壊」である。「大破壊」は、他の分科会がもっとも「くらくらっ」とした設定・・・同時に、我々が「ご満悦」している設定である。
 そもそも気象コントロールを行なう引き金になったのは、人口爆発による食料不足の解消にほかならない。当時の気候は惑星平均気温10℃の氷河期だったので、寒冷地の氷を溶かし耕作面積を広げるために、温暖化を進めたのである。方法は天然ガスの燃焼で炭酸ガスを増やしたり、メタンを大気中に流して温室効果を狙ったものだが、重工業の発達で出ていた炭酸ガスなどと相乗効果を起こし、予想以上の温室効果を招いてしまった。極地の氷河がいっせいに地滑りし、海面に雪崩込んだのである。(雪ダルマはいつ融けるかわかるが、いつ頭が落ちるかわからないのと同じ事が起こった。)雪崩込んだ氷河は、短期間のうちに海面を上昇させ、人口の集中している沿岸部を壊滅させた。また、氷の圧力が無くなった極では大陸の隆起がおこり、プレートテクトロニクスの活発化を促した。この時、惑星規模の地殻変動が起こると予想した生き残りの一部が宇宙へ脱出。最終的にこの「大破壊」は、病気や天敵の駆逐で惑星の生存限界近くまで増えていたイルトコラン150億を、なんとか安定を保った最大の大陸にいる10億と、宇宙にいる1億に激減させ、科学技術も一部を除いて停滞した。

近代史 Part2:宇宙時代への突入

 大破壊による異常気象と地殻変動が治まるのを待つ間、多くのイルトコロ人が宇宙に出て開発に努めた。バイオテクノロジーによる農耕畜産業の工業化もこの頃に進展。その間、母星と宇宙の間では常にコンタクトを取っていた。母星がある程度安定するまでは1〜2地球世紀を要したと考えられ、その後に母星に戻って復興につとめた。現在では人口が30億程度に回復。母星の温度は氷河期より上昇し15℃で安定している。

近代史 Part3:地球の通信を受け取った後

 大破壊前に建造されていた電波望遠鏡を流用することにより、返信までの時間を短縮。地球の電波を受けてから1〜2年で返送できた。返送の決定は、大陸の聖地で国家的意思で行った。地球の通信内容は解析可能と考えていたが、後で電波の内容自体に意味が無いことが判明したので、地球から送られて来たマイクロウェーブをそっくりそのままパルス発信で返送した。このパルスの間隔を利用して簡単なメッセージをモールスで送って反応をみた。また、この時点で地球に対する専門チーム(後にコンタクトチームに格上げ)を作った。

地球方向の観察

 地球波を受信した後、アクティブ、パッシブの両面から地球方面の観察を行なった。アクティブセンシングとしては太陽系に向かってフライバイするプローブを飛ばした。同プローブは地球から通信があった時に計画され、地球に向けてマイクロウェーブを発信した時点から12年の歳月をかけて建造、発射した。途中ですれ違うことが予想される地球のコンタクト船の観測も行なえる機能を有し、近くをすれ違った時は直ちに母星にデーターを送る事ができる。プローブの加速力は最初3Gを考えていたが、搭載エネルギー量と計算上の問題点から、0.03Gで太陽系に到達するまで加速し、約30年で到着するよう変更した。プローブは太陽系付近で子機、系内進入時に孫機を減速するように切り離し、孫機によって太陽系を観察する。なお、このプローブの最終到達速度は、光速の70%にまでなり、減速した孫機といえども光速の約30%までしか速度が落ちないまま太陽圏を通過する。このため、地球人側を恐怖におののかせたらしい・・。
 パッシブセンシングは、アステロイドベルトに送受信のできる電波望遠鏡3台があり、地球方向が死角にならないようにする。また、第五惑星の衛星に燃料補給基地を、第三惑星上にはコロニーを置き、センシングを強化。母星の回り上空約6万キロにに6つの人工ステーション(コロニー規模の)を配置し、センシングと通信を行なう。母星の両極の頭上にもステーションが欲しかったが、安定しないとの理由で取りやめになった。

コンタクト

 地球人に対する対応は・・
 イルトコランには争うという概念が存在しないので、基本的には友好的である。
 コンタクト場所は安全面とフレキシビリティーから第五惑星「キバ」のラグランジュポイントにあるステーションで行なうこととなった。コンタクトチームのチーム編成はまとめを参照してください。なお、一般の市民は母星の神殿にある立体テレビ前に集まって、その成り行きを見守っていた。

生態系分科会

[はじめに]

 生態系分科会は、異星分科会の裏方めいた側面があるように思う。分科会討議の初期には、惑星の設定を速やかにしかも後々アラがでないように構築しなければ、他分科会の設定がスムースに進まない。また、最後のコンタクトの段階では、生態系分科会の設定はあまり表面にでず、地味なものだ。しかし設定しうる領域は実は極めて広く、楽しみ方によってはこれにまさる分科会はないといえるかもしれない。
 CONTACT Japan 1においては、異星分科会の土台設定という仕事はほぼ順調にいったのではないかと思う。しかし様々な問題点もあり、それは、異星分科会リーダーの準備不足に帰せられる部分もあるように思い、深く反省している。
 このレポートでは、分科会の進行内容の概観、逸話、裏設定的な資料とともに、今後同様の催しがあった場合参考になるべく、問題点とその解決についても述べてみた。
 ここに責務の至らざる点をお詫びさせていただく。この報告が今後のCONTACT Japanに役立つ資料となればそれにまさる幸せはない。

[進行の概観]

 まず、分科会討議内容の流れを概観してみよう。
 一日目(分科会1〜4)は、惑星の諸元(質量・半径・公転周期など)、名前(現地での原居住星の呼び名を意訳したもの)、おおまかな気候・気象、海陸分布などを設定した。また、生物についても、どのような生産者(地球における緑色植物にあたる、有機物を合成する生物群)が存在するか列挙してみた。
 二日目午前(分科会5〜7)は、イルコトロの衛星や星系内の他惑星についての設定、大気の動き・立体構造についての設定の煮詰め、主要な<樹木>に相当する生物の特徴の設定などをおこなった。
 二日目午後(分科会8〜11)は、気象・気候の細部で設定漏れのあったところを詰めていく以外は、主に生物相の設定にあたった。また、最後の分科会においては、社会分科会からの依託で、コンタクト用ステーションの設定もおこなった。また、惑星上の風景も、イラスト担当者にスケッチを作成してもらった。
 討議の雰囲気は、良好だった。参加者の意見表明は活発で、感情的な対立に走ることもなかった。ただ、いまになってみると、分科会の終わり頃は、参加者の疲労度や設定の進行状況に鑑みて、もう少しゆったりした雰囲気に誘導すべきだったようだ。
 議事進行にはいくつかの点でもたつきがみられた。惑星諸元の決定には公式にあてはめての演算が必要だが、それについての準備が充分ではなかった。また、生物相の討議では、討議の結果のまとめが不十分だった。これらについては後述する。

[討議の手順]

 討議の手順は、惑星諸元・気象現象・生物相それぞれにおいて若干変えた。これはそれぞれを設定していく際に留意すべきことが違うからである。
 まず惑星諸元について。
 惑星諸元を決定する際に留意しなければならないのは、任意に決定しにくいものが大部分を占めることだ。相互に関連する諸元の場合、一方を決めればあといくつかは自動的に決ってしまう。(参考資料1参照)また、全体討議でおおまかな枠を決められている場合は、その枠付けの範囲内で細部を決めるだけということになる。
 また、任意に決める場合でも、数字を適当に決めるわけにはいかない。その諸元にもとづいた惑星の気象現象はどんなものだろう?と、参加者一同の知識を動員しておおまかな想定をしてから決めなくてはいけない。
 例えば、この惑星に風の強さとユニークな風系をもたらすやたら長い自転周期を定めたときも、おおまかなところを考証した上で、表決した結果であった。このように、惑星諸元の決定は、ある程度の想定考証をしながらいくつかの数値をメニューとして提案し、それぞれの数値を推薦する参加者が自分の論拠を順次述べ、メニューをある程度絞った上で採決する……という手順であったが、この手順は成功で、参加者の論議はたいへん活発だった。
 気象現象の設定は、<任意の設定>だけでなく、すでにきまった惑星諸元から、どのような気象現象が生じるはずか?という、論理考証の部分が大変大きい。任意の設定を付与する前に、既に決った設定から『どのような現象が生じるはずか?』という作業を実に様々な側面にわたっておこなわなければならない。この場合、分科会は『討議』と言うより『解説者と解説をきく人』という形になりがちだった。
 最後に、生物の設定について。
 生物の設定は、論理構築という側面からすれば、系統発生からすべきものなのかもしれないが、それでは時間がかかりすぎる。そこで、初めに、

 という前提をつくり、植物相をおおまかに決めてから動物を決めていった。
 生物の設定については、議論を活発にし、設定を豊富にするために、フリートークの時間を設けた。確かに議論は活発になり、豊富な設定が得られたが、リーダーの不手際から、運営上の問題も生じた。簡単にいうと、設定の全貌の掌握が不十分になり、また設定をきちんと報告しきれなくなってしまったのである。

[設定の手順の問題と改善]

 今回の生態系分科会討議の運営には、様々な問題点があった。惑星諸元・気象現象・生物相それぞれについて、問題点とその改善について述べてみよう。
 まず、惑星諸元の設定について。
 惑星諸元を算出する数式の準備が、不十分だった。そのため、イルトコロの諸元の算出にももたつきがあったし、イルコトロ以外の惑星諸元の算出を子分科会に任せることが出来ず、イルコトロ以外の惑星諸元はCONTACT Japan 1の期間中に完成させられなかった。
 次に、気象現象の設定について。
 気象現象については、前述のように『解説する人・される人』現象が起こりがちだった。CONTACT Japan 1のような催しにおいてはある程度はやむをえないのだが、次回同様な催しをおこなう際には、プログレスレポートに気象生成のメカニズムの解説もあった方がよいだろう。また、特に「風」の吹き方やメカニズムについて、他分科会への解説に時間がかかりがちだった。他分科会に対しては、すり合せの際に口頭で補えるのでまだよかったが、全体まとめを製作してくれた裏方スタッフに対しては、不十分なまとめ報告のため迷惑をかけてしまった。申し訳ない。設定まとめの作成にもっと充分な時間と気配りが必要だった。 最後に、生物相の設定について。
 豊富な生物相を設定するためのフリートークについては、前述の様に、できた設定の把握と整理と報告が不十分だった。また、イラストの通し番号を忘れるというミスのため、せっかくの設定を充分に全体まとめに反映できなかったことはまことに申し訳ない。
 改善としては、設定まとめの作成にもっと充分な時間と気配りをかける……だけでは不十分かもしれない。生物相を活発に設定すると、きちっと把握し報告していくことがむつかしくなる様な量の設定がつくられていくからだ。かといって生物一つ一つの設定に全体で討議するのはいかにも非効率のようだ。とすれば、基本的な設定は全体で決めるとして、例えば生産者(光合成をする植物)分科会とか、浜辺の生態系分科会とかの複数の子分科会にわけ、それぞれの中で司会・書記を設定して最後にまとめる……という手順が考えられる。
 この方法だと、子分科会が分科会に報告するという手順を踏まねばならず、そのとりまとめや報告で実質的な討議時間がかなり減るが、今回のように「まとめきれない」というような結果よりは望ましいと思われる。子分科会をその場でつくり全体を統轄するのもまたそれ自体大変なことでもあるし、この点についてはよりよい方法をもっと模索する必要があるかもしれない。

[エピソード]

 生態系分科会は、コンタクトシーンについては地味だが、設定内容そのものについてはずば抜けたバラエティをもつ分科会だった。そういった分科会でそれぞれ一癖も二癖もある参加者が知力と体力の限りを尽くしたのだから、逸話に事欠くはずもない。ここにぬきだしたのはその一部である。

<エピソード1:月賦払いはサラ金より外道?>
 決して意図して決めた訳では無いのだが、イルトコロの<月>と<日>は、実に様々な側面において、地球の<月>と<日>の役割をそのまま引っくり返したものになっている。
 もちろん、まず挙げなくてはいけないのは自転周期と公転周期の長さそのものである。 1イルトコロ日は500時間、1イルコトロ月は36時間なのだから……
 「年次有休休暇が3ケ月ある!なんて、正月しか休めんってことか」
 「<月給取り>って日雇い労働者のことだな……」
 「地球人がもしやってきて<金利は月1%>って安いじゃないか、とか思って借りたらエラい目にあうなあ  ……」
 「あのイルコトラン(既に設定はほぼ判明していた)に取り立て食ったらコワい……」
 対応が逆転しているのは周期だけではない。
 潮汐力も、地球においては太陽の影響よりも月の影響力のほうが大きいが、イルトコロにおいては逆。その大きさも、τケチからうける潮汐力は地球が月から受ける潮汐力とほとんど同じなのだ。
 また、1イルトコロ日は、生命活動全般に絶大な影響をもたらす、<暁風・暁雨>と<夕風・夕雨>を初めとして、生命サイクルそのものを律している。それに対して、イルコトロの衛星周期は、短い周期で正確に空を巡る唯一の星なのだから、時計のように機械的な印象が在る。
 「天体のイメージも、神話や伝説でも、イルトコロでは地球と逆転しているんだろうなあ……」
 「それ、うち(の分科会)の仕事じゃないって」
 「うぅぅぅぅぅぅ、くやしいぃぃぃ! 神話が作りたいぃぃぃぃ!!!」

<エピソード2:幻のイルトコロ神話>
 無茶を承知でいうのだが、もし神話や伝説をCONTACT Japan 1のような催しでつくるとすれば、社会分科会よりも生態系分科会の方がふさわしいのではないだろうか?
 もし異星人が神話や伝説をもつとすれば、前文明段階において、生態系と深い共生関係を持っていた時代に誕生し、育まれたものだろう。だから、生態系の営みや自然現象を思い浮かべるにつけ、ファンタジーマインドのある人間なら誰しも、その世界の神話を創りたい。そんな衝動にかられるのではないだろうか。
 惑星や主な衛星の名前の討議は、そんな雰囲気だった。
 惑星等の名前を決めた時には、既にイルトコランの姿も、渡りをする習性も明らかだった。渡りにおいてはしばしば苛烈な大自然の試練に見舞われ、渡りにおける優れたリーダーが社会活動全般において尊敬されるということもわかっていた。
 「リーダーシップの強烈な社会ってことだな」
 「太陽は地球以上に、自然活動を明瞭に律しているしね」
 というわけで、太陽(τケチ)の名前は「風」をつかさどる神秘的な存在に由来する筈だ、という意見が多数をかちとった。
 日本語の翻訳名は「おさ」。このたった2文字にも、生態系分科会一同の深い思い入れがこめられていることを汲み取っていただければ幸いである。
 「地球における金星みたいな見え方をするはずだね」
 「定例天候変化(暁風・夕風)の兆しになるわけだな」
 というわけで、第一惑星は「さきぶれ」。
 三つの外惑星は、不規則に天球を移動し、明るく輝く星……ということで、彷徨する恐ろしい害獣のイメージだろう、という意見が他を説得した。内側から順番に「つばさ」「つめ」「きば」となったのは、それぞれの害獣の固有名詞だと翻訳不能となり、言語体系もわからないのに勝手につくるわけにもいかないので、その特徴を捉えた言葉で表現したのである。
 イルトコロの唯一の衛星は、長いサイクルを律する太陽に対して短いサイクルを律しているもの。長い(250時間もある)夜には時間を万人に正確に測らせる基準となる、という点から、神に仕える<神官>のイメージとして、「つかさ」となった。
 また、第三惑星「つばさ」の二つの衛星は、「 1号」,「2号」という異様に記号的な名称だが、これは神話・伝説時代には発見されていなかった……という設定となったためである。天文学者が仮称としてつけた整理番号がそのまま定着してしまった……という設定なのだった。
 最後になるが、「イルトコロ」は、「タッテイルトコロ」というのが提案者による原案だった。語呂の関係で短縮したわけである。天と地の間に直立して「ワレオモウ、ユエニワレアリ」「天上天下唯我独尊」と呟くような、静かでかつ頑強なアイデンティティの主張が、分科会メンバーの多数を魅了した結果の採択であった。
 名前の陰に、神話までは創れなかったが、少なくとも歴史は存在した。
 今後、イルトコロ神話を創ってみよう……という人も、出てくるのではないだろうか。

<エピソード3:鳥獣戯画>
 CONTACT Japan 1を振り返って、分科会リーダーとしての反省は非常に大きなものがあるが、小さな後悔もいくつかある。
 その一つは<鳥獣戯画>である。
 2日目も煮詰まってきたころのリーダーすりあわせ。
 「人気のあるスポーツは相撲だ!ってことが決ったぞ」
 「をひをひ……」
 「しかしあの体型と重力だから説得力あるなあ」
 「だから、生態系分科会に一つお願い。ウサギモドキをつくって!」
 「………………」
 ごめんよぉ。忘れてたんです……
 だけど3Gじゃあ、長い耳を直立できんのではないかい??…………


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