「おいしい」の対義語といえば「まずい」である。世の中にはそれぞれの語の否定形である「おいしくない」「まずくない」といった言い方もある。そして「おいしくない」と「まずい」は微妙にニュアンスが違ったりするのである。
「おいしくない」という言葉は決して、「まずい」と同じ意味ではない。「おいしくない」はあくまでも「おいしい」の否定形である。つまり「おいしい」と言う集合の補集合を指し示すのである。集合論的に考えれば、「おいしくない」には当然「まずい」も含まれるが、一般的なニュアンスとしては、「決しておいしいとは言えないが、まずくもない。とりあえず食べられないほどではないけど、ちょっと期待はずれ。ちょっと残念だね。」といった感じであろうか。
これに対して「まずい」と言う言葉はもっと厳しい言葉である。「おいしくない」という言葉には「まだ食べられる」という意味も含まれるが、「まずい」となると、「これは食べられない、というか食べたくない」という拒絶のニュアンスが含まれてくる。
さて、そこで今回のタイトルである。
「名物に旨いものなし」とはよく言われる言葉であるが、あくまでも「旨いもの」がないのであり、「名物はまずい」と言うこととはまったく別である。
大抵の場合は、「おいしくない」と同じく「なんか期待して行ったけど、思ったほどじゃない。もっとおいしいかと期待してたのに、なんか普通」という感じで、「名物に旨いものなし」という言葉は使われるのである。
中には、鮒ずしとかクサヤのひものの様に強烈な臭いを発していたり、食感が特異だったりするせいで、慣れないと拒絶反応を起こすものもあるが、そういったものでも、食べ慣れればひょっとするとおいしいかもという予感は多少感じられるものである。
もっとも、どう考えてもウケ狙い、罰ゲーム用の食い物かと思われるような物も稀には存在する。
だが毒のある生物が警戒色を身にまとうように、それらには、見た目なりネーミングなりで一目でそれとわかる禍々しいオーラがセットされているのである。
敦賀で「かまぼこ」と言えばあまりにも有名な某メーカがある。高速のサービスエリア等でもよくお目にかかるあのメーカである。「名物に旨いものなし」とはいえ、さすがに宮内庁御用達のこともあるだけあり、ここのカマボコや、竹輪はとってもおいしい。この某メーカの工場兼直売所が敦賀インターのすぐ横にあるのも有名な話である。
そこで売られていたのがカマボコをベースにデザートに仕上げたという「スイーツ」であった。店頭のポップにかかれたキャッチコピーは
はじめての出会い。
なんと○○から、かまぼこのスイーツが誕生しました。
○○伝統の技と技術をプラスして生まれたスイーツ。
とっておきの時間、おくつろぎのひとときにぜひお楽しみ下さい。
見た目も結構おいしそうである。そして罰ゲーム系ウケ狙い土産独特の怪しいオーラも発していない、きわめてノーマルな雰囲気である。そして天下の宮内庁御用達の老舗が作って売っているものである。完全に安心しきっていた。たとえハズレであったとしても、しょせん「おいしくない」程度であり、「まずい」ということはないであろうと・・・。しかもサイズも小さい(1つ60g)のでよほど「まずく」ない限り完食できるであろうと・・・。というわけでこの怪しいカマボコスイーツを買ってしまったのである。しかも5種類のセットで。
まず、「スイーツ★イチゴ」というイチゴ味のものから食べてみる。
「イチゴの果肉たっぷり。甘酸っぱいいちごと、かまぼこの組み合わせをお楽しみ下さい」
うむ、キャッチコピーはいかにも美味しそうである。見た目もうっすらピンク色のイチゴムースといった感じで期待が持てる。期待に胸膨らまして一口食べてみた・・・。うーむ見事なコラボレートである。イチゴの甘ったるさと酸っぱさに、そういえばカマボコって魚介類の身を固めたものだったという記憶を呼び起こす独特の生臭さ。そして色と見た目を裏切り、完全にカマボコの食感。これは「おいしくない」などではすまされない。すでに「まずい」の領域を超えて「人間の食い物じゃない」というレベルに達していたのであった。おそらく私の人生の中でも一、二を争うトップランクのまずさであった。
宣伝文句に惑わされず冷静に考えてみれば、イチゴ味のカマボコがおいしいはずがない。カマボコにイチゴジャムをつけて食べてもおいしい訳がないのである。
ひょっとしたら「スイーツ★イチゴ」だけがおおハズレだったのかと、かすかな期待をかけて「スイーツ★チョコ・コーヒー」にチャレンジしてみた。あっさりと私のまずいものランキングのトップを更新。イチゴを上回るまずさである。チョコの甘さとエグさがカマボコの風味と見事なまでの不協和音を奏でている。カマボコとチョコのそれぞれの自己主張が激しく、そのためにそれぞれの欠点のみを強調するという最低の結果となっている。
やっぱりカマボコはカマボコのままそっとしておいて、デザートとかスイーツとかとは一生無縁にしてあげるのが正しい結論であると思われる。
まだ、後三種類残っていたが、これ以上のコメントは避けておきたい。
というわけで「名物に旨いものなし」という格言は甘くみてはいけないという教訓を得られた。ちなみに、この危険な食い物は通販も行っているので、チャレンジャーな人は挑戦して後悔して欲しい。