こうしゅうでんわ

谷甲州

 ということで、SF大賞はものの見事に落選しました。こういう場合は、笑うしかないのだろうな(わはは)。これについては面白い話がいろいろとあるのだが、ひとつ間違えると負け惜しみととられかねない微妙な話なので今回はパス。いずれ書く機会もあるでしょう。とはいえ、そうなると今回は他に書くことがない。『覇者の戦塵』の新刊はなんとか12月刊で本屋さんにならんだのだけど(今月は発売日が10日ごろになってます)、続刊の方は例によって遅々としてすすんでおりません。仕方がないから、他の賞の話も書くか。

 えーと、この話は前に書いたかな。『凍樹の森』が推理作家協会賞長篇部門の候補になったのは、もう4年も前のことだったか。普通こんなときは各社の担当編集者が作家のところに集まって連絡を待つことになっているのだが、田舎暮らしなもので待機されたのは版元の編集さん二人だけでした。で、結果はあえなく落選。推理作家協会賞といえばミステリ系では権威のある賞なのだが、こっちはずっとSFでやってきたので別に期待はしていなかった。だから落選の電話があったときも「はあ、そうですか」としか思わなかった。ところが徳間書店の人が落胆することすること。なんか自分が悪いことしたわけでもないのに、申し訳ない気分になってしまった。ちなみに翌年この賞を受賞したのが『魍魎の匣』と『ソリトンの悪魔』でした。なんだ、魍魎はともかく悪魔の人は、この受賞をネタにずいぶん飛ばしておるではないの。こんなことなら俺もとっておけばよかったと思ったのは何年かたってからの話。候補作には何度なっても記録には残らないし、人の記憶にはさらに残りません。これを称して勝てば官軍という。
 で、年は流れて(といっても翌年のことか)今度は新田次郎賞の候補になりました。このときは候補作は発表されないので、たまたま事務所に来訪した友人と二人で電話を待っておりました。で、めでたく受賞と決まって集英社に報告の電話をしたら「あ、こっちにも連絡がありましたから」との返事。うーん、さすがは大出版社だ。文学賞なんて取り慣れてるんで、こんなことは珍しくないのか。でもなあ、せっかく電話したんだから「おめでとう」のひとことくらい、いってもいいではないの。と思ってるうちにまた何年かすぎて、今度は別の人がやはり集英社刊の本で新田賞の候補になった。もちろん候補作は発表されないのだが、前後の状況から何となくわかってしまうのは甲州の場合とおなじ。あの人も一人で当否の連絡を待っているのかなあ、と思っていたら、あとできいたら何のことはない、その人の場合は各社の担当編集者が全員そろって待機していたのだと。受賞まちがいなしと確信していたんだろうな。残念なことに、落選してしまいましたけど。ことほど左様に、賞というのは水ものなのである、という教訓でした。


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