こうしゅうでんわ

谷甲州

 仕事が遅いのは今にはじまったことではないですが、今回はかなりひどいことになっております。本来なら十月と十一月に上下巻で出るはずだった『覇者の戦塵』の新刊が、いまのままだと十二月と来年一月にずれ込みそうです。いままでは遅れたといっても一カ月程度ですんでたのだが、今回は二カ月のずれなんで版元やイラストレーターの方なんかに迷惑をかけたおしております。なんでこんなに遅れたかというと、ハードディスクのクラッシュとか、応急処置として買った新品のパソコンが悪魔的に使いづらかったとか(特にキイボードのアホなこと。なんじゃこれは)もひとつおまけに付録についてたゲームに面白くてついはまり込んだとか(自業自得か)データと一緒に辞書まであの世いきになって最初から作り直したとか、他にもいろいろとあるのだが要するにそういうことです。結局は古いパソコンがお釈迦になったのが、そもそもの原因ではあるのだが。そうだ。キイボードに関しては現隊長の尽力により、なんとか使えるレベルにまで復活しております。そんなこんなで辞書やエディタの設定も元にもどせたので、なんとか来月には『覇者――』の新刊を出せるでしょう。実は十二月は新刊の発売日が他の月より早いので下巻を来年まわしにせざるをえなかったのだが、その話はまあいいか。

 ということで最近あんまりいい話はないのですが、えーと、この話はすでにご存じかな。『エリコ』がSF大賞の候補作になりました。実は候補作の公開は去年からはじまったばかりで、自作が候補になったことが確認されたのも今回がはじめてです。とはいえ、それ以前でも候補になると何となくわかってしまうのだけどな。その年の雰囲気とか周囲の状況とかで。で、最終選考日になると知り合いの編集者が電話で探りを入れてきたりする。受賞者に通知しないと新聞発表もできないので、たまたま受賞者と連絡がとれなかったりすると「最終選考はとっくに終わってるのに受賞作が発表されない」という事態になるのだ。そうなると、各社の担当者があっちこっちに連絡をとることになる。仕事をしていたら電話が何度も鳴って、「おかわりありませんか」的な実にどうでもいい話がはじまったりすると。あんまり頻繁に電話がかかってくるので不思議に思っていたら、右のような事情であったというわけ。ちなみに受賞作を発表するときも、候補作の公表はなし。とはいえ、雑誌なんかに掲載される選評を読んでいると一目瞭然なんだけどな。もひとつちなみに、これまで候補作になったのは『終わりなき索敵』と『天を越える旅人』でした。他はたぶんなっていないと思う。『エリコ』で三度めなのだが、うーん、これも痛し痒しであるなあ。なんでか、という話はまた次の機会にでもしますか。今月は、まあこんなところで。

 あと、自分がやったわけでもない仕事のことをいくつか。一〇月号の「天文月報」に、福江純さんがカリストエクスプレスについて書いておられます。ハードSF研の公報にあった記事らしい。今回と(たぶん)来月の二回にわたって分載のはず。もうひとつは、今月発売のダ・ヴィンチ。水樹和佳子さんが『天を越える旅人』の一部(見開き二ページ)を漫画化の予定。ただし、全編を漫画化する予定はありません。「そんなことしたら死ぬ」そうです。


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