こうしゅうでんわ

谷甲州

 なんかもわっと暑いなあ、と思ったらもう七月か。しかも一九九九年だったりする。いつもいく本屋の平棚にノストラダムス本が何種類か平積みになっていたが、いまどき買う奴がいるのかね。本の山が低くなってる様子は全然ないが、来月になったら古本屋も引きとってくれんだろうな。リサイクルにまわすはずの本の山がどどっと崩れて、書店員が下敷きになるというオチは安直すぎるか。
 ……などというネタで引っぱろうとしたのだが、数行でもう終わってしまったな。仕事がさっぱりすすんでないので、本当に書くことがない。かわったことといえば、読売新聞のコラムのせいで本の読み方がかわったことくらいか。『キリンヤガ』は面白いことは面白いのだが、なんとなく素直に誉める気にはなれんなあ、とか。乳幼児の死亡率だけ考えてもキリンヤガという社会は成立せんと思うのだが、そこまで書いてしまうのは野暮かもしれない。コラムの字数制限からして、書けるほどのスペースもないんですけどね。仕方がないので、おなじ欄でアフリカ関連のノンフィクションを紹介してみた。もっとも一冊の本を紹介するために何冊か下手な鉄砲を撃つわけで、作業としては面白い。でも結果的に、これのどこがSFじゃ、というコラムになってしまったが。

 そうだった。今月でる小説すばるに、例によってホラー短編を書いております。別に意識したわけでもないのに、色っぽいシーンの多いホラーになってしまった。最近おおいなあ。『エリコ』の後遺症なのかもしれんが、ホラーであろうが宇宙SFであろうが、やたら疑似濡れ場があらわれてしまうのだ。今回の短編もそうだった。しかも普段は苦労する登場人物の名前が、今回にかぎってえらくすんなり決まってしまった。「麗子」という名前なのだが、はて、なんでこんな女性名がついたのだろう。不思議に思っていたのだが、書き終えてから気がついた。なんのことはない、「エリコ」のアナグラム(REIKO、ERIKO)だった。道理で気前よく脱いでくれるはずだ。


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