こうしゅうでんわ

谷甲州

 ということで先月のつづき。できあがった『エリコ』の単行本をみて、ありゃりゃと思った。約束どおり帯にSFの文字が入っているのはいいが、それよりでっかく「嗜虐」と「倒錯」の字が入っていた。まーその、デザイン的にいってバランスはとれてるんですけどね。SFの二文字をそんなに大きくする必然性もないのだが、なんというかこの、結局は『ヴァレリア・ファイル』のときとおなじになってしまったな。もっとも某編集者によれば、著者名をみれば嫌でもSFとわかるらしい。だから甲州の本にかぎっては、ことさらSFの文字を大きくいれる必要もないのだとか。額につけられた前科者の焼き印みたいなものか。
 などといっているうちに、『エリコ』増刷の知らせが入った。とはいえ、まだ増長するほどの数字ではありません。最低限これくらいはいくかな、という思惑はクリアしたというところか。さて、これはSFの文字がきいたのか、それとも「嗜虐」と「倒錯」の御利益か。もう少し様子をみないと、なんともいえんか。
 前に書いていた角川書店版の『覇者の戦塵』は、二冊づつ一冊にまとめて六月から順次再刊されます。中央公論新社からC★ノベルズ版として。六月が『オホーツク海戦』と『第二次オホーツク海戦』、七月はたぶん『北満州油田占領』と『激突上海市街戦』、八月は『謀略熱河戦線』と『黒竜江陸戦隊』になるはず。角川版では全六冊だったのが三冊になるから、値段的にはお得だと思います。ただし『ヴァレリア・ファイル』のときとちがって、大幅な修正などはしていません。文章を直した程度。表紙イラストはやはり佐藤道明さんだが、こっちの方は全面書きなおしになるらしい。中イラスト(というか巻末付録)も結構こったものになりそうです。さらに本文にも少しだけ書き下ろし部分がつきます。各巻とも二〇枚から三〇枚程度のみじかい原稿になるはずだが、さて何を書こう。防空巡洋艦荒島が建造されるきっかけになった軍縮条約の話とか、不発に終わった2・26事件のこととか、尻すぼみに終わった盧溝橋事件の顛末とか、書ききれなかった話はいろいろとあるのだが。

 これもまた先月のつづき。トーハンの出している「新刊ニュース」という小冊子に、みじかい原稿を書いております。『エリコ』の周辺についていろいろ、のはずだったが、例によってあんまり関係のない話になってしまった。もうひとつ。読売新聞の読書欄に、一年間の予定でSFの書評をやることになりました。最初は五月一七日づけで、二カ月に一度の予定。最近は昔ほどSFを読んでいないので(刊行点数自体が少ないのだが)、これを機会に新刊のチェックなどもやってみるつもり。近ごろはSFバカ本をはじめSFアンソロジーに面白いものがいろいろあるんだが、さすがに自分が直接かかわった本は紹介できません。何からはじめるか、もう少し考えてみるか。


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