こうしゅうでんわ

谷甲州

 先月の『ヴァレリア・ファイル上』につづいて、今月は早川書房から『エリコ』がでます。さらに五月には『ヴァレリア・ファイル下』がでるのだが、これらの本には共通点がある。それは何か、というほど大層なものではない。帯にちゃんと「SF」の文字が入っているだけのことなんですけどね。最近は「SFが売れない理由はなんじゃかんじゃ」とか「SFがこれほど衰退した原因はああじゃこうじゃ」とか「帯にSFの文字をいれただけで売り上げが落ちるという事実は厳然としてあるのであってどうとかこうとか」などという話をよくきくんで、ほお、面白い、それなら実験してみようではないの、と思ったのだった。これでもし本が売れたら「売れない理由」も「衰退した原因」も綺麗さっぱり吹き飛ぶんだが、よく考えたら普段でも俺の本はあんまり売れてないものなあ。比較検討ができんのでは、実験になりません。とはいえ黙ってたら「SF」の文字が入らない可能性もあるので、わざわざ編集者に「ちゃんと入れといてね」と念を押しておいた。知らんうちにSFぬきの帯をつくられたりしたら、売るためにそんなせこいことをしたのか、などと思われかねないものな。もしかしたら断られるかと思ったが、どっちの社の人も「わはは」と笑ってOKしてくれました。もっとも「あんたの本はSFの文字をいれようがいれまいが、売れ行きに変わりはないからなあ」ともいわれたのだが。要するに普段からあんまり売れてないことを、再確認しただけのような気がする。

 で、出来上がった『ヴァレリア上』をみてみると、帯にちっちゃく「SF」と刷りこんであるだけだった。その下にレイアウトされた士郎さんの名前のせいで、あんまりめだたんな。なんかアリバイつくりをやってるみたいで落ちつかんわ。『エリコ』の現物はまだ届いてないのでわからないが、せっかくだからとり・みきさんの『SF大将』みたいに表紙といわず帯といわずでかでかと「SF」の文字をいれてくれ、くらいのことをいえばよかった。あそこまでいくと、はっきり嫌がらせ(わはは)以外の何ものでもないが。

 忘れないうちに書いておこう。最近は短い仕事も、いくつかやっております。連載とか自分の本のあとがきを別にすると、最初はハルキ文庫から再刊された眉村卓さんの『閉ざされた時間割』に解説を書いております。次が週間文春の「立腹 抱腹」というコラムなのだが、4月8日号だからすでに書店から姿を消している可能性が大です。床屋か歯医者にでもいったとき、待合室においてないか探してください。あとはKSS出版事業部からでている(らしい。昨日、見本ができたと連絡があったから)宇宙SFのアンソロジーに短編を書いてます。まだ現物を確認していないのだが。他には「小説すばる」にホラー短編を書いたのだが、いま前号の予告ページをみたら「ミステリ特集」に分類されていた。ま、いいか。あんまりホラーらしくない話だったから。
 他にも短い原稿がいろいろとあるのだが、まだ書いてないのであとの分は来月まわし。さて、『ヴァレリア・ファイル』と『エリコ』は売れるかどうか。


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