こうしゅうでんわ

谷甲州

 お、俺の責任ではないぞ。
 先月のこうしゅうでんわであんなことを書いたけど、六月号分の『エリコ』はちゃんと予定どおりの枚数で納品したからね。もっとも七〇枚のところを六七枚しか書けんかったが、この程度なら誤差の範囲内におさまるはずだぞ。んなもんだから、できあがったSFマガジンをみて、ひゃあと思ってしまった。「てれぽーと」欄は前とおなじでめいっぱい増ページしているではないか。編集部め、『エリコ』の分量が足りないのを予想して、最初からこんな構成にしたのだな。しまった。そんなに余裕があるんなら、八〇枚くらい書けばよかった。もっとも例によってぎりぎりの入稿だったから、書いても削られてたかもしれんが。

 ということなんだが、なんかあの方の主張も変わりばえせんというか、一年ほどもやってる割には進展が全然ないな。なんか天文学的な平行線を数十億光年にわたって延々とつづけてるような気もする。よくわからんが、要するに五七五でやればいいのだな、五七五でやれば。
 SFマガジンといえば、とり・みきさんの『SF大賞じゃなかった大将か』が単行本になってたなあ。連載のときから楽しみにしてたのだが、やはりあれだな、ベストは『スターシップと俳句』(スチャリトクル)をパロった回なのだろうな。とにかく、五七五の基本を守ってるから。登場人物の科白を全部五七五で通すというのは「天才バカボン」でやってたという話もあるが、いまのSFに足りない五七五の精神をきっちり守っているところが秀逸なのであった。うーん、わしもやらんといかんかなあ。エンタテイメントに徹して、千枚ほどの長編を最初から最後まで五七五で通してしまうというのを。地の文から会話から、もちろん擬音まで全部五七五で通してしまうのだ。日本海軍航空隊がアメリカ海軍機動部隊を空襲するシーンは だだだだだ どんどどどかーん どですかでん
 という擬音が入るのだ。なんか疲れそうだが。
 い、いかん、本業の方が煮つまってるものだから、何を書いてるのか自分でもわからなくなってきた。下手をすると、今月も『エリコ』はぎりぎりの入稿になるかもしれない。
 えーとですね、いま何の仕事をやっているのかというと、一〇年前に書いた『ヴァレリア・ファイル』を全面的に書き直しているのであった。最初は気楽に考えていたのだが、実際にやってみると茫然とするようなことの連続なのだな、これが。予想はしていたが、一〇年前の原稿なんて文章が下手糞でとても読んでられん。最初から全部やり直すことに決めたのだが、これをもう一カ月半も前からやっている。そろそろケリをつけんとまずいのだが、さて、どうなることか。うーん、それにしても『ヴァレリア・ファイル』は甲州の原点であったのだなあ。『エリコ』の原型になるようなシーンが何度も出てきて、つい懐かしくなってしまったよ。この一〇年のあいだ、まったく進歩してないともいうが。

 つけ足し。今月の「小説すばる」に、ホラーの短編を書いております。例によって締め切りの間際まで手をつけずにいたら、いつの間にか編集さんにネパールを舞台にした話だと決めつけられてしまった。インドか東南アジアあたりの話にするつもりだったけど、結局それにあわせてネパールの話にしたけどな。てことで、時間がないので今月はこれまで。




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