こうしゅうでんわ

谷甲州

もう夏休みなのだなあ。甲州は毎朝六時すぎには公民館にでかけて、子どもたちとラジオ体操をやっております。適当にさぼりながらだけども、これもやりだすと癖になるわ。とりあえず体を動かしていれば健康な気もするし。

 ところで甲州は最近ホーミーに凝っております。パソコンのCDドライブをプレーヤーがわりに、モンゴルで買ってきたCDなぞをききながら仕事をしとるわけ。ホーミーというのはモンゴルの民族音楽(声楽)なんだけど、テレビでも紹介されたらしいから知っている人も多いんじゃないかな。テレビなんかでは「一人の歌い手が同時に高音と低音の二つの旋律を歌う」なんて珍しさだけが強調されてたようだけど、実物を目の前できいてみるととてもそんな単純なもんじゃない。実は子どもの学校でモンゴルの声楽家の演奏会があったのだけど、はじめてきいたときは腰をぬかさんばかりに驚いてしまった。とにかくすごい声量で、空気がびりびりと振動するくらい。いったい人間のどこから、こんなすげー声がでてくるのかと思ってしまった。

 なんでもその歌手は一〇歳のころから練習をはじめて、一五歳でようやくホーミーを歌えるようになったらしい。つまり声変わりの時期をはさんで五年間かけて声をつくったのな。それくらい入念に準備をしとかないと、心臓に負担がかかりすぎて命にかかわるとか。うーん、命がけの歌唱法であったか。よくわからんが、たしかにあんな声をいきなり出したら、頭の血管が振動で破裂するかもしれない。で、そのときの演奏会では、重低音の旋律に重ねて本当に高音域の別の旋律がきこえてきたのだった。

 モンゴルもええなあ、というので先週いってきたのだけど、行きの飛行機に乗り合わせたのが公演を終えて帰国するモンゴル歌舞団ご一行様で、なんと真後ろの席にホーミーの歌い手ばかりが三人も座ってしまった。この歌手、というより兄ちゃんらが、やおら鼻歌でホーミーをはじめやがんの。機嫌よく居眠りしてた甲州は、びっくりして飛び起きてしまいましたよ。いくら鼻歌でも、ホーミーの大音響を耳もとできかされたら眼もさめるわな。でもって、熱が入りだした兄ちゃんらはウランバートル到着まで延々と歌いつづけたのだった。よう飛行機が落ちんかったこっちゃ。

 そうだ。話のついで。次のヤマケイJOYには、小松近郊のハイキングコースと温泉が紹介されるんじゃないかな、たぶん。なんか頼りない話ですが、編集部が取材にきたのが去年の秋なんで、正確なことは覚えてないのよ。山岳雑誌というのはこんな形が多くて、たとえば秋ごろの号だと発売が八月の末になるから、七月の終わりには原稿ができていなければならない。ところが七月に十一月ごろの山の写真が撮れるわけもないから、季節ネタの取材はほとんど一年前にすませることになる。地元ではそれなりに有名な山と温泉なのだが、さて、どんな記事になってるのかな。




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