こうしゅうでんわ

谷甲州

先月は落ちる落ちるといいながら、結局はひとつも原稿を落とさず通してしまった甲州であります。いつものように、最後の土壇場になると辻褄があってしまうのが情けない。今回も本屋に見本がならぶ一〇日前に脱稿して、その翌日には校了という外道なことをやってしまった。そのうち印刷屋さんに闇討をくらうぞ。とはいえ、なんとなく予定調和みたいな仕事ではあるな。こんなことではいかんと思いつつ、次の仕事は例によってはかどっておりません。今度の仕事は角川の書き下ろし(戦前のヒマラヤ登山の話)なのだが、この分ではまた最後の最後で落ちる落ちると喚くことになりそうだ。まま、それはともかく。
 今月もまた例によって、書き下ろし以外の細々とした仕事をしております。文藝春秋社の「本の話」という広報誌には、みじかいエッセイを書いたのだった。なんか最近は、こんな仕事がふえたな。で、小説すばるは……えーと何を書いたんだったかな。ほんの半月ほど前の仕事なのに、何だったかまるで思いだせない。あ、そうだ。ホラー短編だった。タイトルは「雨夜子(あやこ)」。書いている間じゅう雨がしとしと降ってたんで、書いてる方も結構その気になっていれこんでしまった(その理由は小説を実際に読んでみればわかる)。昼間の晴れてるときに読んでも、怖くもなんともない話かもしれない。だんだん自分でもわからなくなってきた。
 あとは……季刊誌のヤマケイJOYは夏に増刊号をだすので、二カ月つづけて「地図の彼方へ」を書きました。次の号が本屋にならぶのは、六月末くらいかな。この連載は全部で五回の予定だから、あと二回で終了の予定。ということは、この次はいよいよクン峰遠征の顛末になるのか。あの遠征の事実関係については、これまどこにも書いてなかったのだった。とあるライターの書いた記事によれば「実力のない人間までが(つまり若いときの甲州のことだ)ヒマラヤに登ったことによる事故」だそうだから。この件に関しては口をつぐむつもりだったのだが、編集さんに口説き落とされて書くことになった。実際に書くのは二カ月先だけど、いまからなんとなく気分が重い。
 さてと。ぼちぼちとエリコの連載六回めにかかるか。予定回数の半分がすぎたんだけど、いまだに先のストーリーがどう転ぶが見当がつかんわ。例によって、切羽つまればなんとかなるとは思うのだが。




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