こうしゅうでんわ

谷甲州

なんというか毎月こうしゅうでんわの時期はエリコの連載が重なるんで、いつもばたばたしてるような気がする。ということで今月もエリコの話になってしまうのだが、先月分の原稿を書き終えてから「羊のクローンに成功」のニュースが入ってきて、すぐに「サルでもできたクローン」(なんかパソコン入門か漫画の描き方みたいなタイトルだ)になってしまった。今月分のエリコは「そもそもクローン技術というのは」というところから書きはじめるつもりだったんだが、なんか間が悪いというか不思議な気分であります。世が世であれば「現実がSFを追い越した」だとか「これでSF作家は飯の食い上げだろう」とかいわれてたかもしれんが、さすがに最近はだれもそんなこといわんな。そもそもSF作家は、とっくに飯の食い上げ状態がつづいてますもんで。
 ところが不思議なことに『SFバカ本 白菜編』は好評につき増刷が決まってしまった。そ、それにしてもわからん。あんな本が、なんでそんなに売れるんだ。「SF」に飢えている読者が久々に「SF」の文字を眼にして、中味を確かめることもなくレジに走ってしまったのかもしれんとか、版元の営業さんがほんの売り方を知らなくてまちがえて増刷してしまったんだろうとか、勝手なことを考えてます。とはいえ「SFは売れない」という社会的常識は、そろそろ劇的に崩壊しそうな気がするなあ。
 話がそれたけど、いま世の中でニュースになっているクローンとSFにあらわれるクローンは、似てはいるがまったくの別物だわな。SFのクローンというのは「個体の成長速度より、はるかにはやく完成する」「人格や記憶までコピーしてしまう」という点で、現実のクローンとは大きくちがってるわけで。SFマガジンの読者がそのあたりを勘ちがいするとは思えないが、このあたりの説明は避けて通るわけにはいかんな、と思っております。なんにしても、はやいとこ今月分のエリコにかからにゃ。実はまだ一行しか書いてないのだよ。

 そうだ。補足の話。先月のこうしゅうでんわでは「小松には重油は流れついていない」と書いたのだが、あのあとようやく小松にも漂着したみたいです。ただし量はほんのちょびっとだけ。町内の有線放送で流してた程度のニュースでありました。最近その海岸にいってみたけど、人かげは全然なし。「本日は重油回収作業はやっておりません」という色あせた看板が立っているだけだった。
 そうだ。重油の話で思いだした。どこぞのプラントだかタンカー基地だかで重油が流れだして、テレビが「またも重油流出!」などと大々的に報じてたんだが、そのニュースをみて腰を抜かしそうになった。なんと流れだした重油の量が四〇リットルなんだと。四〇キロリットルじゃないぞ。最初は四〇〇〇キロリットルくらいと単位をまちがえてるのかと思った。四〇リットルといえば一斗缶二杯ぶんではないか。重油の入ったバケツを二つほど蹴飛ばしたくらいの量でしかないわな。それくらい普通の漁船でも日常的に垂れ流してるぞ。こんなもん全国ニュースで流すなよ。

 補足のつづき。前に「掲載誌の名前を忘れた」と書いた平凡社のPR誌だが、「月刊百科」でありました。最新の三月号にエッセイ風に本の紹介をしております。
  もうひとつ。アウトドア雑誌の「BE−PAL」にもみじかいエッセイを書いております。掲載誌はもうできあがってるそうだが、まだ実物は確認しておりません。




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