こうしゅうでんわ

谷甲州

年が明けてもう一カ月以上すぎてしまったのに、例によって仕事は全然はかどらず四苦八苦しております。小松近辺では市長が辞職に追いこまれたり、市長村議会の議長連がニュージーランドへ視察旅行にいって叩かれたり、なかなかにぎやかではあったのだが……。うーん、それにしてもあの人たちは、運が悪いとしかいいようがないな。重油が流れついていなかったら、どっちも全国的なニュースにはならなかったと思うぞ。しかも小松市には重油が流れついていないし、ニュージーランドにいった人たちの半数以上は内陸部の(つまり海のない)町村議会議長だったんだから。行為自体は褒められたことではないが、あそこまで全国ニュースで恥をかかされる筋合いはないと思うぞ。げにマスコミの力は恐ろしや。
 ちなみに知りあいの福井の電脳漁師によれば「昔のことだからニュースにはならなかったけど、重油や材木はよく海岸に流れついた。重油は古俵に染みこませると冬の焚き火にちょうどよかったし、材木を集めて売り飛ばしたらいい値になった」だそうで。なんか吉村昭の『破船』みたいな話だな。

 で、仕事の話。何もしとらんなあ、と思ったけど、この一カ月の間に結構なんやかんややってたな。前にインタビューを受けた「ヤマケイJOY」誌では、春の号から連載をはじめおります。小説ではなく、甲州の山の思い出を一年間(といっても年に五冊刊なのだが)にわたって書くことになるはず。連載が終わったあとでいろいろ書きたして、一冊の本にまとめる予定。連載第一回はネパールにいくまでのあれやこれや。書きながらつくづく思ったのだが、あの当時は元気があったのだなあ。なんか必死になって山に登りまくってる、と思いましたです。最近の自堕落な生活とは、ずいぶんちがうわ。

 その「ヤマケイJOY」のおなじ号では、西木正明さんとの対談が掲載されるはず。西木さんは『夢幻の山旅』で第十四回新田次郎賞を受賞しております。SFから小説を書きはじめた甲州には、綿密な取材によって物語をつくっていく西木さんの創作姿勢が実に新鮮というか、教えられることが多かったのでした。ああ勉強になったなあ、と構えている場合ではないか。甲州も頑張らないかんなと、かなり深刻に考えてしまったのだった。SFの枠組の中でだけ書いてたら、こんな経験はしないまま終わってたかもしれん。まだまだ甲州は勉強が足りません。

 あ、もうひとつ仕事をやっていた。小説すばるの次の号に短編をひとつ書いていたのだった。「エロティック・ホラー特集をやるんだけど、エロと恐怖のどっちをやります?」ときかれたんだけど、気がついたらいつの間にか「谷さんは濡れ場の方だったね」になってた。仕方がないのでSF仕立てで書いたんだけど、またおなじ手を使ってしまったよ。女性の視点で濡れ場を書くというのを。なんだ、『エリコ』とおなじじゃないか。そのうち、そんな趣味の人からお手紙がきそうで怖い。




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