こうしゅうでんわ

谷甲州

前回に「残りたった四〇〇枚」などと書いた『神々の座を越えて』ですが、つい二日ほど前にようやく完成しました。実際にやってみると、あれからさらに六〇〇枚も書くことになってしまった。合計で一二〇〇枚くらいかな。たぶん一〇月の末には本になるでしょう。かなり分厚くてハードカバーだから、値段もそれなりに(たぶん二〇〇〇円くらい)なるとは思うんで、気の長い人は文庫を待つという方法もあります(ただし最低でも三年は待ってもらわないといかんのだが)。もっとも著者としては、ハードカバーのうちに読んでもらった方が嬉しいのだけどね。

 それはともかく、前に書いていたとおりヨセミテとロスアンジェルスにいってきました。うーん、アメリカの国立公園は設備が充実してるなあ。しかも長期滞在しやすいように、滞在費が安く設定されている。ログハウス風のケビンで三泊ほどして、別荘気分を味わってきましたよ。仕事が気になって、あんまり遊べんかったけど。もっともその割には、やりたいと思ったことをみんなやってしまったな。乗馬ツアーとかサイクリングとか。夕方ごろ馬に乗って二時間ほど林の中を抜けるツアーに参加してみたのだが、時差のせいで眠くて眠くて鞍の上で揺られながら居眠りをしてしまった。開拓時代の旅人なんてのも、こんな状態で西にむかっていたのでありましょう。あ、岩登りだけはやらんかったけど、これは最初から予定していなかったのだった。ヨセミテ渓谷はアメリカの岩登りの原点みたいなとこなんで、高度差一〇〇〇メートルをこえる岩壁があっちこっちににょきにょきと立っておるのだ。雨は降らんし岩も硬そうだし、日本とはかなりちがうクライミングが楽しめそうなのだが、一日や二日でできるものではない。また機会があれば、いってみたいところではあるな。

 そんなこんなで家族サービスが忙しくて、仕事はあんまり進まんかったです。LAにもどってきてからも遊ぶところがいっぱいあって、よく考えたらワールドコンの企画もあまりみなかった。なんだ、結局は遊んでばかりいたのではないか。ようやく原稿を書きあげたので、まずはよかったということにしておきましょう。編集さんの方からみたら、ちっともよくはないのだろうが。ということで甲州は、これから中央公論社版『覇者の戦塵』を書きはじめます。版元からの出版情報では9月末発売ということになってたみたいだが……うーん、よくあることだ(はは、は、はあ……)。アメリカ西海岸で遊んだツケが、結局こんなところにまわってきたか。本が出るのは一一月ごろまでずれ込みそうな状況だが、この際だから去年とおなじように二カ月連続で出せるよう頑張ります。はたして角川でしぼんだ「帝国海軍の蓮美大佐」の活躍が、Cノベルズでみられるかどうか乞う御期待。

 報告をいくつか。実は石川県でしか入手できない「アクタス」という雑誌の最新号に、谷甲州の仕事場の写真なんかが掲載されています。北國新聞の出している月刊誌だな。石川県内在住で興味のある人は、ちょいと書店でのぞいてみてください。立ち読みしろとはいいませんが(いっとるのと変らんな……)。
 もうひとつ。たぶん一〇月の三日の午後三時ごろになると思うが、FM石川というラジオの番組にちらりと甲州の声が流れるかもしれない(たぶん一〇分程度。詳細はきかなかったから、番組の名前も忘れてしまった)。こちらも石川県内在住で興味のある人はどうぞ。担当の人は「読書の秋なんで、話題はそっちの方で」というておりました。

 ということで、また来月。




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