こうしゅうでんわ

谷甲州

先月末から今月はじめにかけて、新田次郎賞の授賞式とそれにつづく記念宴会があったわけですが、まずは出席してくださった方に御礼申し上げます。もちろん出席された方ばかりではなく、遠くから受賞を祝ってくださった方にも(わしは祝う気なんてないぞ、なんて方はさておきまして)感謝いたしますです。甲州は正賞および副賞をかかえて、ほこほこしております。よかったよかった。

 ということで、最近は受賞関連のエッセイ等を書く機会がふえました。忘れないうちに、ここに書いておこう。受賞直後の北國新聞(たしか四月二一日付け)に受賞の感想などを、小説新潮の六月号に受賞の言葉を、えーとあとは受賞とはなんの関係ないが信濃毎日新聞の「本の森」に書評などを書いております。こっちの方は、まだ紙面に掲載されていないはず。その他には「中央公論」と「青春と読書」と「新潮45」に原稿を頼まれてたはずだが、まだ手をつけていない。そのうち書くでしょう。あ、そうだ。小説すばるにホラー短編を書いたのだった。こっちも受賞とは関係なし。以前から予定していた仕事だった。なんか他にも仕事をやったり予定が入ってたりしたはずだが、どうもごちゃごちゃしてるんで思いだしたらまた書きます。

 ところで以前にここで書いた角川の『覇者−−』外伝の話は、どうも流れそうな(あるいは延期になりそうな)具合です。版元の方がノベルズではなくて「大作ハードカバーもろ賞ねらい」を書かせたがってるみたいなんで。やっぱり帝国海軍海兵隊の蓮美大佐というのは無理があったか。とはいえ知り切れトンボで終わったのでは居心地が悪い。というわけで、『覇者−−』のストーリー自体は別の場所で再開する可能性もあります。しかしながら『覇者−−』のシリーズ自体は特定の主人公があるようなないような世界なんで、かならずしも版元を移動するという意味ではないんですがね。できれば複数の版元で同一のシリーズをやった方が作者としては楽なのだが。前に計算してみたら、少なくともあと九冊は出さないとシリーズが完結しないということがわかったから。

 とはいうもんの今後のストーリーなどをあれこれ考えてるうちに、つい「どう考えても売れそうにない架空戦記」などという代物を思いついてしまった。ひとつは『東京裁判控訴審』というタイトルで、講和条約発効後に日本政府が独自に東京裁判をやりなおして、最初の裁判で有罪になった被告の名誉回復や新たな被告人の訴追をやるというのだが……売れそうにないどころか、右と左の両方から殴りこみかけられそうだな。東京裁判は不当だ、と主張する人は多いんだから、だれかがこんな小説をかいてもいいように思うのだが、どう考えても売れんわな。そもそもこのタイトルだと、BC級戦犯が抜けてしまいそうだし。
 あ、ほかにも思いついた話があった。こっちの方は『本土決戦おあずけ』というタイトルで、サイパンや沖縄の地上戦であまりに甚大な被害に驚いた米軍が日本を封鎖した上で持久戦に入るという筋書きなのだが。そらもう日本本土が封鎖されたまま原爆がぼかすか落とされるわ機雷はばらまき放題で戦後の復興など絶望的な状態になるわソ連に抑留された関東軍将兵や満州在住邦人は帰るべき国を失って流浪の民と化すわで、悲惨のきわみのような世界になるはず。で、それでも日本が根をあげないものだから(というより政策決定がおこなえない状態になっているから)、米軍はついに業を煮やして日本攻撃用に開発していた秘密兵器「枯れ葉剤」の大量散布に踏み切ると。でもって十数年後に元満州在留邦人によって成立した亡命日本政権の代表が日本本土に上陸したときには、全土にベトちゃんドクちゃんの大群が(以下省略。さすがにこれ以上は自粛)。
 でもなあ、ベトナムからきた子供が来日して手術を受けたという「明るいニュース」をみるたびに、甲州は複雑な気分になるのだよ。たしか昔のサイエンス誌で読んだんだけど、枯れ葉剤というのは日本を攻撃するために開発されてたはずだよな。あ、念のためにいっとくけど、甲州は実際にこんなストーリーで書く気はないからね。




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