こうしゅうでんわ

谷甲州

 先月の画報にかいた『ジャンキー・ジャンクション』ですが、昨日ようやく直しの作業を終えました。ほんとにもー手間をとらせてくれたもんだ。最初の原稿をかいた八年前といえばプロの看板をかかげて一〇年目で、フルタイムになってからも丸二年がすぎてた時期なんだけど、あらためて読み直してみるとこれではボツになってもしょうがないようなひどい出来だった(この話は先月にもかいたな)。ほんとに別人の原稿を読んでるみたいで、それはそれで異様な体験ではあったな。ただしこの時期よりも前にかいてた航空宇宙軍史なんかは、いまだに当時のまま増刷してるんだけどね。でもこれからは、おそろしくて昔かいた本を読み返すことができなくなったな。
 あ、そうだ。タイトルは結局『ジャンキー・ジャンクション』このままでいくことになりました。編集さんに変えるつもりだよ、といって別のタイトルをあれこれならべたら、もとのままの方が絶対にいい、といわれてしまった。それであっさりその気になったのだが、なんというかイージーとしかいいようがないな。なんにしても、これで予定どおり三月には本になるでしょう。
 ところで四月には航空宇宙軍史のうち『星の墓標』『タナトス戦闘団』『仮装巡洋艦バシリスク』がそれぞれ増刷される予定であります。未読の方はこの機会にどうぞ、とこれは宣伝。で、去年の増刷のときもそうだったのだが、今回もあたらしい装丁にかわります。もしかしたら気づかれたかもしれませんが、いまの装丁になってからは表紙に欧文のタイトルが入ってます。
 去年の例でいうと『エリヌス−戒厳令−』は [ERINYS]、 『カリスト−開戦前夜−』は [Callisto] てな具合。今年もおなじようにやるというので、『タナトス−−』と『仮装巡洋艦−−』は簡単に決まったのだが、さて『星の墓標』をどうするかで迷った。編集さんは「墓標」の英訳をあれこれいってくれたけど、どうもあまりぴんとこない。「表紙にイルカの写真もあることだし『スペース・ペット・セメタリー』じゃだめですか」というわしの案も却下。で、話してるうちにひょいと案が浮かんだ。編集さんも「おおっ」というので即決になりました。さてここで問題です。『星の墓標』の新装版ハヤカワ文庫の表紙に印刷される英訳タイトルは、いったい何でしょう。正解は四月に本屋さんで確認してください。ついでに買ってくれると、甲州は非常にうれしいぞ。なんか非常にあざとい宣伝の仕方だな。でも、ヒントくらい書いておこう。クラークの「三つのS」のもじりであります。
 そうだ。一月は雑誌の仕事もやっております。この画報が出るころ発売の小説すばる誌に短編をかいたのだった。ミステリをかいてくれといわれたけど、ごくオーソドックスに殺人事件があって名探偵が登場して最初の事件を追ううちに第二第三の殺人事件が発生して犯人のしかけた複雑なトリックに惑わされて最後に探偵が登場人物を一カ所に集めてずばりと謎を解決する……なんて話が甲州にかけるわけがない。だいたい三〇枚や四〇枚の短編でこれをやるのは無謀するぎる(パロディとしてやる手はあるが)。要するに広義のミステリ−−謎の提示と解決があれば「推理」小説なんだろうと考えて、そういう話にしました。そっち方面に興味のある方はどうぞ。




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